雑誌『をちこち(遠近)』
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草の根交流を通して日米の人と人との架け橋に
(JOIプログラム15周年事業報告)

日本では現在、海外の人々と相互理解を図ることを目的としたさまざまな交流活動プログラムが用意されています。国際交流基金日米センターとアメリカの非営利団体ローラシアン協会が共同で実施している「日米草の根交流コーディネーター派遣プログラム」もその一つ。英名が「Japan Outreach Initiative」であることから「JOI=ジョイ」と呼ばれるこのプログラムは、日本への関心と理解を深めてもらうため、地域に根差した交流に取り組むコーディネーターを日本からアメリカに2年間派遣するもので、2002年の開始から2017年で15年目を迎えます。2016年10月には15周年の節目に合わせ、「地域における国際交流の価値について」と題する座談会が国際交流基金日本語国際センターで開催されました。今回はJOIコーディネーターの活動と、座談会でのパネリストたちの提言を紹介します。

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2016年10月1日、国際交流基金日本語国際センターでのJOIプログラム15周年記念事業で行われた「地域における国際交流の価値について」と題する座談会。

アメリカの地方都市を拠点に絆を結ぶJOIコーディネーターたち

 世界の人々に日本を知ってほしい、留学を機に国を超えた交流に関心を持った、海外に向けた日本文化の発信に貢献したい――。日米の草の根交流を担うのは、そんな国際交流に対する意欲からJOIプログラムに応募し、選考されたコーディネーターたちです。
 JOIの派遣先は、日本との交流が比較的少ないアメリカの中西部と南部の各地方都市。コーディネーターはその地にある大学や日米協会を拠点に地域の学校やコミュニティを訪れ、アウトリーチ活動(日本を紹介し、双方向のコミュニケーションを行う)、プレゼンテーション、ワークショップ、イベントなどを通じて日本の生活や社会、伝統文化、日本語を紹介します。
 これまでの15年間に、約60名の有志がコーディネーターとしてプログラムに参加。85万人以上に上るアメリカの人々に"日本"を発信してきました。

 では、JOIコーディネーターたちはアメリカ各地で、どのような活動を展開しているのでしょうか。2016年7月に2年の任期を終えて帰国した第13期コーディネーター3名の活動報告を通して、架け橋としての取り組みを窺い知ることができるはずです。

■岩田千江子さん
派遣先:ミシシッピ州立大学(ミシシッピ州 スタークヴィル)

海外からの高校留学生プログラムのボランティア支部長として留学生やホストファミリーをサポート。並行して日本を紹介する活動も行う。日本語教育の勉強中にJOIを知り、コーディネーターに応募。

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岩田千江子さんの派遣先はアメリカ南部の都市、スタークビルのミシシッピ州立大学。

アメリカで育んだ地域の人々との信頼関係はかけがえのない財産
 コーディネーターとしての1年目は、大学やコミュニティを中心にワークショップを行いました。内容は茶道、書道、折り紙、浴衣の着付け、日本のビジネスマナーなどです。学生、ホームスクールの小学生や一般の方たちが対象でしたが、「以前から日本について知りたいと思っていた」と、毎回参加してくれた学生がいたことが嬉しかったです。
 2年目は大学で建築やアート、ファッション、国際農業教育といった学科の学生を対象にアウトリーチ活動を実施。日本の茶室と庭園、日本の家紋、浮世絵、日本のコミュニケーションスタイルなどがテーマだったため、私自身にとっても大変、勉強になりました。
 2年間の活動で育んだ地域の友人たちとの信頼感は、かけがえのないものです。そんな友人のひとりから、戦後間もない1951年にミシシッピ州と東京の小学校が児童画の交換を通して交流を持ったという事実を聞きました。
 私はその後、アメリカに平和教育の大切さを教えている小学校があることを日本に紹介する機会に恵まれました。きっかけは、生徒たちによる英語と日本語のミュージカルに、アドバイスをする立場で関わったこと。『貞子と千羽のおり鶴』というそのミュージカルには、日本の伝統的な遊びや歌が盛り込まれていました。

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ミュージカル『貞子と千羽のおり鶴』で日本の伝統的な遊びや歌を披露するミシシッピ州の小学生。

 生徒たちはミュージカルを通して日本の原爆の歴史を学び、どこの国にも平和を願わない人はいないことを知ったでしょう。このような取り組みをぜひ日本にも伝えたいと思い、日本のメディアに取材を呼びかけたところ、日本の新聞社が記事を掲載してくれました。
 ミュージカルが上演されたのは、バラク・オバマ大統領がアメリカの大統領として初めて広島を訪れた頃のこと。「オバマ大統領が広島でどんなスピーチをしたのか知りたい」と話す生徒もいて、子どもたちの意識の高まりに感激しました。

 2年間の活動は、より深く日本とアメリカの人々を結びつけるものになったと感じています。

■常盤千明さん
派遣先:インディアナ日米協会(インディアナ州インディアナポリス)

長野県の公立中学校で英語講師として勤務した後、国際NGOピースボートの世界1周船旅で世界20都市を訪れ、異文化交流の楽しさと必要性を実感。下船後、JOIに出会い、応募を決意。

JOIとは人と人とをつなぐ仕事――それが活動から得た私の答
 2年間を通して一番印象に残っている活動は、「ゆるキャラ」の紹介です。ゆるキャラの利点は、ひと目でその土地の名産や歴史などがわかること。この活動で生徒と一緒に地元のゆるキャラを作ったのですが、生徒の作品からインディアナ州のチェスタートンは砂丘や鉄鋼業が有名であることを知り、ブルーミントンを訪ねた時は石灰岩が有名であることを知りました。インディアナについて知識が少ない私に、生徒たちは目を輝かせながら土地の名産を教えてくれます。ゆるキャラを通して日本の文化を紹介し、同時に私自身がインディアナ州について深く知ることができた体験でした。

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生徒と作成したインディアナ州のゆるキャラ「Hoosier Nekko」。

 また、年に1度インディアナポリスで開催される「インターナショナル・フェスティバル」では、日本の「ゆるキャラ都道府県マップ」を作成。参加者に好きなゆるキャラに1票を投じてもらうためのブースを作りました。マップを眺めて「この県は何が有名なのかな」と一生懸命考える家族や、「千葉に住んでいたことがあるから」と千葉のゆるキャラに投票する人がいたことから会話の輪が広がるなど、フェスティバルでの試みで多くのつながりが生まれたと感じています。
 私もインディア州のゆるキャラを作成し、展示に参加しました。その名も「Hoosier Nekko(フージャー・ネコ)」。フージャーはインディアナ州民のニックネームです。このHoosier Nekkoがいつかインディアナ州のオフィシャルゆるキャラとなり、インディアナと日本の絆をさらに深めてくれることを願っています。

 日本に帰国する5日前、派遣先であるインディアナ日米協会の方たちが私のために送別会を企画してくれました。「あなたがいたから、つながることのできた人や場所がある」との言葉をいただきました。人と人が出会い、つながることで、「仲間」という新しいパワーが生まれます。この2年間で私にはさまざまな国籍の素晴らしい仲間ができました。

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JOIを通してつながることができたインディアナ日米協会の仲間。

 「JOIプログラムって何?」。これは、2年間の活動を通して多くの人から受けた質問です。今の私の答えは、「JOIとは人と人とをつなぐ仕事」。この言葉に尽きる気がします。

■野村忠さん
派遣先:クレイトン大学アジアン・ワールドセンター(ネブラスカ州オマハ)

金融、製造業界にて40年近く勤務。その間、米国をはじめアジア、欧州の国々に駐在及び訪問する機会を得る。次第に、海外に日本について伝えたいとの思いが強くなり、JOIに応募。

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野村忠さんは金融、製造業界での約40年のキャリアを経てJOIに応募した。

日本人が自らの言葉で積極的に対話し、交流することの重要性を改めて実感
 在籍していたクレイトン大学で日本の政治・経済に関する講義を行いました。またネブラスカ州立大学でも、日本の戦後復興とその後の政治・経済の変遷について講義する機会がありました。
 学生たちは日常的にさまざまな日本製品や文化に接しているものの、日本の歴史と現状、日米関係などに対する理解は著しく乏しい状況です。広島と長崎の名前は聞いたことがあっても、そこで留まっています。
 日本は戦後の焼け野原からどのようにして経済大国、平和国家、そしてアメリカの友好国になり得たのか。そんな日本の歩みを、学生たちに度々話しました。日本人が自らの言葉で積極的に対話し、交流することの重要性を改めて感じています。

 折しも、2年目の活動がスタートした2015年は、オマハ市と静岡市の姉妹都市50周年に当たる年でした。オマハ市は世界6カ国の都市と姉妹都市関係を結び、その中でも静岡市とは50年間にわたり極めて親密な関係を継続しています。

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オマハ市と静岡市は50年にわたり親密な都市間交流を続けている。

 2年間の大きな収穫の一つとなったのは、50周年のさまざまなイベントに関わることによって、真の「日米草の根交流」を体験できたことです。2015年夏以降の1年間で、オマハ・シンフォニー管弦楽団と静岡フィルハーモニー管弦楽団とのジョイント・コンサート、オマハ市民の静岡市訪問などに関わりました。
 こうした大きなイベントを作り上げていく上でポイントとなったのは、オマハ市と静岡市の市民の円滑な意思疎通です。その架け橋となる役割を担い、両市の信頼関係と絆のさらなる強化に役立てたことを、大変嬉しく思っています。

異なる国の人と人がつながり、相互理解を深めることで、親しみが生まれる

 報告会に続いて行われた15周年記念座談会のテーマは「地域における国際交流の価値について」。パネリストとして参加したのはマシュー・サスマンさん(フルブライト・ジャパン事務局長)、小林かなこさん(東京都目黒区議会議員)、森下佳南さん(第8期JOIコーディネーター)、大野麻未さん(第10期JOIコーディネーター)、ステイシー・ヒューズさん(ローラシアン協会コーディネーター)の5名です。

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座談会では日本とアメリカそれぞれの国際交流の意義について活発に意見交換が行われた。

 日本とアメリカそれぞれの地方、地域で国際交流が図られることの意義とは? ローラシアン協会副会長の丸山真理さんを議事進行役に、パネリストが意見を述べ合いました。

丸山:JOIコーディネーターがアメリカの地方都市に赴き活動することによって、アメリカの人たちに「もっと日本を知りたい」という気持ちを湧き上がらせています。そして、コーディネーターが帰国後に自分の経験を周りの人々に話し、アメリカについて知ってもらうことも大切です。

サスマン:私自身の話になりますが、10歳の時、日本人の男子学生さんが私の家に2か月間ホームステイしました。彼とは一緒にビーチに行ったり自転車を走らせたり、兄弟のように過ごした思い出があります。ですから彼が帰国した時は、寂しくて仕方がなかった。ただ、その後はお互いに連絡を取り合うことはありませんでした。ところが、やがて再会のチャンスがやって来ます。大学を卒業した頃、私は彼の結婚式に招待されて初めて日本を訪れました。
 滞在は2週間。彼の実家に泊まり、日本の狭いお風呂に脚を折り曲げて入り、布団に寝る経験もしました。布団から脚が半分くらいはみ出ましたが(笑)。私にとっては全てが初めての体験。大いに刺激を受け、日本が好きになり、「この国に住んでみたい」と強く思いました。
 1996年以来、私は人生の約半分を日本で過ごしています。妻は日本人で、日本で家庭を持ちました。ひとりの日本人青年との出会いによって、私の人生は一変しました。国際交流が人の人生に与える影響は、計り知れないものがあると確信しています。

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フルブライト・ジャパンの事務局長、マシュー・サスマンさんは1996年から日本在住。

 現在、フルブライト・ジャパンの事務局長をしていますが、フルブライトはアメリカと諸外国との相互理解をミッションとする人物交流事業で、第二次世界大戦直後にスタートしました。プログラムの一つに、アメリカの大学で母国の言葉を学生に教えながらアメリカについて学ぶことを目的とした「フルブライト語学アシスタント(FLTA)プログラム」があります。アメリカの社会、人々、文化に触れ、同時に自分の母国語や文化も紹介することで、相互理解を深めていく。この点はJOIと共通しています。
 JOIに参加した皆さんにはぜひ、自分の経験をシェアし、発信してほしいです。それが大きな意味で世界平和につながると思います。

小林:私は大学を卒業後にJALEXプログラム(JOIプログラムの前身)に参加し、インディアナ州の高校で日本語教師助手を務めました。

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小林かなこさんはインディアナ州公立高校で日本語教師の助手を務めた経験を持つ。

 そこで接した生徒がその後、JETプログラム(語学指導などを行う外国青年招致事業)で日本に来て、私立高校などでALT(外国語指導助手)として活躍しているという話を聞くんです。彼らが高校時代に日本人と出会って日本に興味を持ったのだとすれば、私はそのきっかけを与えることができたのではないかと思っています。JOIコーディネーターの皆さんも、アメリカで出会った人たちにインパクトを与えていらっしゃるんです。草の根の交流が実は大きな成果をもたらすのだということを、私は信じています。

森下:私は現在、愛知淑徳大学交流文化学部の助教として英語や国際理解教育の科目を担当し、その傍ら、大学の国際交流センターで学生をワシントンD.C.の教育機関や福祉施設などに派遣する「米国NPOインターンシップ・プログラム」のコーディネーターを務めています。

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2009年から2年間、JOIコーディネーターとして活動した森下佳南さん。

 派遣される学生の多くは、アメリカで何かしたいという強い思いで現地に赴きます。でも実際に行ってみると、自分ひとりでできることは本当に少ない。私もJOIコーディネーターとして滞在した際に、たくさんの人の力を借りました。多くの人に支えられて、何とか乗り越えることができたんです。やはり国際交流は、人から始まり人で終わる。自分と相手がいて初めて、交流ができる。私もそうでしたが、アメリカに派遣された学生にもきっと、そのような気づきがあるのではないかと思います。

大野:私がJOIプログラムで派遣されたオハイオ州のシンシナティは、日本の企業が進出していることもあって多くの日本人が住んでいますが、私を通じて初めて日本とつながったという生徒がたくさんいました。彼らは日本のゲームを楽しみ、お寿司やラーメンを食べたこともある。でも、そこから日本への興味にはつながらなかったんです。生徒は私という一個人と出会ったことで初めて日本に目を向け、「行ってみたい」という気持につながった。そういうケースを数多く見て、人と人がつながることが、双方向の交流こそが、深い結びつきにつながっていくのだということを強く感じました。

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大野麻未さんは2011年から2年間、グレーター・シンシナティ日米協会を拠点に活動。

 今、私は岐阜県の高校で英語の教員をしています。毎年、生徒にアンケートを取ることにしていて、「外国に行ってみたいですか?」という質問を必ず入れるんです。多くの生徒から「行ってみたくないわけではないけれど、絶対に行きたいとは思わない」という答が返ってきます。
 私が今、彼らに対して何ができるかといえば、JOIの経験を自分の言葉で伝えていくことです。それが今日のテーマである「地域における国際交流の価値」ということにもつながっていくと思うんです。

ヒューズ:今日のテーマは「地域における国際交流の価値について」ですが、観光客は普通、地方や地域には行きません。私が住んでいるカリフォルニア州にあるモントレーは観光スポットが多く、世界中から人が訪れます。でも、モントレーから車で15分ほどのサリーナスという町まで観光客が足を延ばすことはありません。そこは移民がたくさん住んでいてコミュニティに暴力が多いため、周辺の人々からも危険視されています。そのサリーナスに以前、JOIのようなプログラムに参加した日本の高校生や大学生が派遣され、ホームステイしました。日本の学生と現地の若者が交流を図ったわけですが、特に現地の若者にとってはインパクトのある経験になります。他の国の人たちから自分の価値を認められることによって、彼らの自尊心は満たされる。国際交流は地方や地域に非常にポジティブな影響を与えるんです。

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かつて日本に10年滞在したステイシー・ヒューズさんは現在、カリフォルニアに在住。

ヒューズ:効果はもう一つあります。現地の若者は日本人と接したことで、日本に親しみを感じる。日本の文化が面白いから、日本のアニメが好きだからではなく、自分のことを認めてくれた日本の人たちに好意を持つようになります。人と人が出会って話をするから、友好が深まる。外国人があまり行かない地域に交流プログラムを行き渡らせることの意義は、こういう点にあるんです。

 国際交流に携わる5名のパネリストたちが考える「地域における国際交流の価値」。最後に丸山さんがこう締めくくりました。

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座談会でコーディネーターを務めたローラシアン協会副会長の丸山真理さん。

丸山:皆さんの提言には共通点があると感じました。人と人とのつながりが生まれ、お互いの国や人についての相互理解が深まるから、親しみを持つわけですね。やはりそれが、草の根の国際交流が地域にもたらす最も大きな価値ではないでしょうか。

(編集:斉藤さゆり)

(パネリストProfile)

joi_15th_16.jpg 丸山真理
ローラシアン協会副会長。国際交流基金と共催するJOI並びにJ-LEAP(米国若手日本語教員派遣プログラム)に事業開始時から携わる。

joi_15th_17.jpg マシュー・サスマン
ICC(国際交流委員会)の事業開発マネージャー、ディレクターを経て、2014年より日米教育委員会(フルブライト・ジャパン)事務局長を務める。

joi_15th_18.jpg 小林かなこ
JALEXプログラムで米国インディアナ州公立高校にて日本語教師助手を務め、帰国後、ローラシアン協会東京事務所に勤務。2015年、目黒区議会議員に初当選。

joi_15th_19.jpg 森下佳南
JOIコーディネーターの活動終了後、派遣先のウェブスター大学の大学院に進学。現在、愛知淑徳大学交流文化学部の助教として英語、国際理解教育などを担当

joi_15th_20.jpg 大野麻未
教員を経てJOIプログラムに参加。現在は岐阜県の高校に英語教諭として勤務。 でボランティア活動に従事している。

joi_15th_21.jpg ステイシー・ヒューズ
日本に10年間滞在した経験を持ち、現在はカリフォルニア州在住。2013年よりローラシアン協会の国際交流・教育プログラムのコーディネーターを務める。

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