雑誌『をちこち(遠近)』
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ダンス・ダンス・アジア 東京公演 2018
Vince Mendoza × Fabien Prioville インタビュー
―アジア×ヨーロッパ、ストリート×コンテンポラリーのコラボレーションがもたらすもの―

2018年3月23日(金)~25日(日)開催の「DANCE DANCE ASIA-Crossing the Movements 東京公演 2018」で上演される『Hilatas<君を導く光>』のクリエイションが昨年12月末~1月中旬にかけてバンコクで実施されました。DANCE DANCE ASIA(DDA)は、舞台芸術の「新しい表現手法」としてここ数年、高い関心が寄せられているストリートダンスをキーワードに、パフォーミングアーツ作品を制作するプロジェクトで、アジア域内の交流促進と新たな文化の創造を目指して、2014年にスタートしました。『Hilatas<君を導く光>』はVince Mendoza(フィリピン)が振付・演出を務め、2016年12月のDDA東京公演にて初演、翌年4月にハノイ・マニラにて再演された短編作品です。2018年の東京公演では、新たにFabien Prioville(フランス/元ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団ダンサー)を振付/演出補佐 ドラマトゥルクとして迎え、長編作品として上演します。クリエイションが始まって3週間、Vince MendozaとFabien Priovilleにクリエイションの様子やそれぞれの国のダンスシーン、作品に込めたメッセージについて話を聞きました。

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ヴィンス・メンドーザさん(左)とファビアン・プリオヴィルさん(右)

――ヴィンスさんにとって、短編『Hilatas』とはどのような作品なのでしょうか。

ヴィンス 私自身の人生、自分の心にあることを表現した意味でも非常に大切な作品です。そして海外での上演を考えて演出した初めての作品です。3週間かけてイチからフィリピンで共同制作し、さらに日本で2週間にわたるクリエイションを行いました。
 完成したときは満足した気持ちでしたが、東京公演から2週間経ってこの作品を振り返ってみたとき、私はなにかを探し求め始めていました。創った作品をしばらくしてから振り返るとき、私はいつもそこに新しいなにかを求めるところがあるのです。周囲のみんなも素晴らしいものを創っているので自分ももっと成長したいですし、ダンサーたちにもさらに高い技術を見せてもらいたい。生きることのカギになるのは向上心だと、私は思っているので。

――長編化のオファーを受けて、実際にクリエイションしてみた感想を教えてください。

ヴィンス 大変だけれど、非常にありがたいオファーでした。短編からクリエイションをともにしたダンサーたちの成長を見ることができたのも素晴らしい経験でした。彼らはもっと心を開くようになりましたし、それはこの作品にも良い影響を与えています。この作品のテーマは「ルーツ」なので、自分自身であることや自然体でいることが重要になりますから。
 ファビアンも舞台上で自然に振る舞うことを教えてくれました。これまではダンサーとしての姿、演じているときの姿しか見ることができていませんでしたが、ファビアンが参加した今回の作品では、みんながステージの上で結ばれてつながっている。彼らはステージ上で、自然体で楽しんでいるのです。ですから観客のみなさんにもありのままの自分でいてほしいと伝えたいですね。インターネットを始めとする情報を真似することも多い時代ですが、本当の自分になることが社会にとっても大切なのだと伝えたい。その気持ちをみなさんと共有したいと思っています。

――長編化するにあたり、ファビアンさんと共同制作することになったのには、どのような経緯があったのでしょう。

ヴィンス 当時、(プロデューサーの中西)幸子さんと話をした際に「ヨーロッパの演出家とコラボレーションしてみては?」と提案があり、ファビアンの作品に目を通したのです。とてもわくわくしましたね。

――ファビアンさんもストリートダンスの振付家と共同制作されるのは初めてですね。3週間の共同制作をされてみて、ここまでの印象はいかがですか。

ファビアン 非常に良い印象を受けています。私は以前からストリートダンサーの技術に注目していて、ストリートダンスの世界に深く関わりたいと思っていました。ドイツでは今、舞踊における高度な技術が大きなテーマになっています。作品のコンテクストの中でその技術をどう活かすか。私自身はバレエのバックグラウンドがあり、高度な技術を使って体を動かす訓練をしてきました。ハイパーボディと呼ばれるこの身体性をそのままストリートダンスに応用できないか、私の創造力を使って一緒になにかをデザインできるのではないかと興味を持っていたわけです。
 ですから、幸子さんがこのプロジェクトに誘ってくださったときは気持ちが高ぶりましたが、同時にうまくいくかどうか少し不安でした。コラボレーションは簡単ではありません。対立する状況を生みやすいですから。演出過剰にならないよう気をつけながら、誰になにをどのようにやってもらうかを見極めるのは難しいことです。ですが3週間の共同制作が終わった今、全体として良い経験ができたと満足しています。

――ストリートダンサーたちと対話してみていかがでしたか。

ファビアン ストリートダンサーは練習や動き方へのアプローチがまったく異なるので、高い集中力が必要な長時間のリハーサルをどうこなすのだろうと思っていました。でも彼らがタスクを理解して実行する過程で、高い集中力を発揮したので驚きました。またクリエイション1週目で、ヴィンスが演出するのを見た際、彼がダンサーたちに私と同じようなことを求めていることがわかり「これなら大丈夫だ」と感じました。
 日々、いろいろな進歩や変化がありましたが、ダンサーたちはこのプロセスを広い心で受け止めてくれました。共同制作の過程で生まれたいい流れは、作品に反映されています。この流れがなければ、全く違う作品になっていたでしょう。

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以前からストリートダンスの世界に深く関わりたいと思っていたと話すファビアンさん。

――今回、ファビアンさんがストリートダンサーと仕事をされて一番面白いと感じた、あるいは新鮮に映った瞬間がありましたら教えてください。

ファビアン 私がアイデアを出して、それが彼らの体に取り込まれていく過程は興味深かったですし、そこに驚きもありました。私が作品の一部を演出すると、ダンサーたちがそれを自分たちの考える方向へ持っていくわけです。そのプロセスから、私の期待を超える結果が出ることもありましたし、彼らがまっすぐにタスクに取り組む姿はとても美しいものでした。
 私は彼らに体の動きに隠れるのではなく、本来の自分を前に出すようリクエストしました。それがうまくいったときに、彼らは自分の表現から生まれた新しい発見に驚いていましたね。

――クリエイションの過程で、ファビアンさんは徐々にさまざまな提案をされていきますが、ヴィンスさんは自分の作品に、ファビアンさんの意見が入ってくることについてはいかがでしたか。

ヴィンス ファビアンと仕事を始めた当初は混乱しました。ファビアンは「混乱するのは健全なことだ」と言っていましたけど(笑)。

ファビアン (笑)

ヴィンス ファビアンは作品の細部まで私と共有し、私が答えられないような質問や持っていない知識を投げかけてきました。私はその混乱から自分を探し出し、より深く作品について考えるようになったと思います。その過程で自分の作品に対する考えがはっきりしていないこと、作品を通してなにを言いたいのかが曖昧であることがわかったのです。

ファビアン 演出/振付補佐として関わる以前、ドラマトゥルクとしての私の最初の仕事はヴィンスが作品について的を絞って考えるように仕向けることでした。「この作品でなにが言いたいのか」「観客になにを感じて帰ってもらいたいのか」そう言ったことを覚えていますか?

ヴィンス ええ。

ファビアン 彼は数日の間悩んでいましたが、クリエイションの開始に合わせて、思考や仕事への取り組み方を変え、さっそく結果を出したので「ワォ!」と思いましたね。私との会話を自分なりに解釈し、創造するプロセスを大幅に進化させたことがとてもうれしかった。

ヴィンス コンテンポラリーダンス、そしてストリートダンスという観点から見ても、ファビアンとのコラボレーションの旅は実に素晴らしい経験でした。ストリートダンサーとして、このような仕事のやり方や演出方法を経験し、さまざまな考え方やアイデアに触れることができたのは本当に恵まれていると思います。彼が言うように、私たちには仕事のやり方に似ている部分はあるかもしれませんが、私から見れば彼の演出には自分にはないツールや宝が潜んでいるように思えてなりません。

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共同制作の過程で感じたことを語るファビアンさんとヴィンスさん。

――日本や東南アジアでは、コンテンポラリーダンスとストリートダンスでは、客層が異なるように思われます。ダンス・ダンス・アジアでは、両方のタイプの観客が入り混じって一緒にステージを楽しんでもらいたいのですが、なかなか難しいように感じます。

ファビアン コンテンポラリーとストリートの融合という観点から言えば、フランスでは振付家が体の動きをコンセプチュアルに捉える、コンセプチュアル・ヒップホップやコンセプチュアル・ストリートダンスがあります。とはいえコンテンポラリーとストリートを融合させる特別なレシピがあるとは思えませんが、両者を分けて考える風潮の強い日本では、両者を融合させようとする試みそのものが重要だと私は考えます。
 ダンス・ダンス・アジアというプロジェクトは、融合の一つの枠組みを示すよい例ですし、良い方向への第一歩です。ですから公演当日には、コンテンポラリー派とストリートダンス派、両方の観客が同じ劇場に集まってくれることを願っています。どちらにも面白いと感じてもらえるなにかがあると思いますし、観れば意外に面白かったと感じる部分もあるはずです。
 この作品の冒頭でヴィンスは実によく考えられた振付をしてくれました。導入部でストリート派が見たいものを提供しつつ、それを少し解体して別の観客層にもわかりやすいものにしている。こういう考え方は非常に面白い。みんなが満足するわけではありませんし、なかには混乱したり疑問を持ったりする人もいるでしょうが、それはそれでいいのです。
 人は新しいものを目の前にしたとき、どう反応していいかわからないもの。最初はどう観ればいいのか見当がつかなくても、あきらめずに根気よく向き合ううちに「こういう見方もあるのだな」と気付いていくのですから。

――長編化された『Hilatas』をリハーサルで拝見しましたが、B-BOYのケノブさんの場面では、B-BOYはふだん選ばないような音楽が使われ、振付もB-BOYの要素は残しつつコンテンポラリーの要素が取り入れられていて、観ていて興奮しました。

ファビアン 公演をご覧になる方々が、同じように驚いてくださるといいのですが(笑)。ストリートダンスの振付に叙情性を込める難しさについては、初期の段階からヴィンスと議論してきました。ただ、それは不可能ではないと思っています。それで動いて疲れて休むというB-BOYのパターンを崩し、もう少し流れのある5分から7分程度の振付を考えたいとヴィンスと話したのです。B-BOYの爆発的に動いて止まる流れのなかに叙情的な瞬間を設け、B-BOYのダンサーたちによる新しい動き、新しい身体性を見つけられないだろうかと。

――では、あの場面については、踊っているケノブさん自身も満足しているわけですね。

ファビアン ええ。楽しんでいると思いますよ。ああした動きができるとは彼自身も思っていなかったでしょうし、やっていて頭の中が混乱するとは思いますが、それもまた彼にとってはいいことです(笑)。そこから得るものがあるでしょうから。それをさらに追求するかどうかは本人次第ですが、この経験を彼自身のアートフォームに活かせると思います。今のストリートダンスの世界では、自分たちのスタイルを異なる道に活かそうとする動きを感じますし、そうしてはいけない理由などありませんからね。

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ファビアンさんは、コンテンポラリーダンス派とストリートダンス派、両方の観客が公演を観にきてくれることを願っている。

――ヴィンスさんは以前、ストリートダンサーが新しい世界を探検できる機会をもっと創らなければいけないと発言されています。ただ、ダンス・ダンス・アジアはある意味でストリートダンスのカルチャーを壊しているのではないか、と思うこともあります。

ヴィンス ストリートダンサーが世界を広げて、舞台作品やショーにも出るのは良いことだと思いますが、同時に私は彼らのカルチャーも尊重しています。ですからダンス・ダンス・アジアのようにクリエイションして新しい動きを入れてみて、そこにみんながついてくれば、一つの進歩といえるのではないでしょうか。このプロジェクトを通じて実際にダンサーが成長する姿を私は見ています。
 最近では多くのストリートダンサーが舞台芸術の世界に参入しているようですし、それはフィリピンでもそうです。私自身は、舞台芸術の世界で自分の心を解放する感覚が非常に好きですね。私もアレン(ダンサー)もそれを経験しましたし、舞台での演技を経験したことで、アレンはダンスバトルの場でも他の人とは少し違うものを見せるようになったと思います。

――ヨーロッパではコンテンポラリーのヒップホップダンサーがバトルに参加するなど、うまくコミュニケーションが取れているように見えますが。

ファビアン ヨーロッパではうまく混ざり合っていると思います。というのは、なんといってもダンサーが多種多様な舞台公演に触れることができることが大きいですね。ヒップホップとコンテンポラリーダンスの融合に関心のある劇場も多いですし、ストリートダンスが芸術として認められていて、コンテンポラリー・アーティストや振付家、演出家が、自分の作品にヒップホップのダンサーを起用することも珍しくありません。

――クリエイターの側から見た場合、ダンス・ダンス・アジアのように異なるバックグラウンドの人と組むことは、制作過程にどのように影響するのでしょうか。

ファビアン その話はヴィンスともしました。というのも今回の作品は、自分のルーツに立ち戻ることがテーマになっているからです。それぞれのダンサーの出身国の文化を融合させることはできないか、あるいはダンサーの出身国の文化がストリートダンスにどのような影響を与えているかについて話し合いました。主観的なことですから、ただ舞台を観ただけではわからないかもしれませんが、それはこの作品にも反映されています。
 ダンサーたちには、それぞれの国の伝統的な踊りや動き、音楽を持ち寄るようにお願いしました。そしてフィリピンやインドネシアの伝統音楽、さらには各文化に根ざした踊りがストリートダンスと融合して作品になる様子を見て、私自身も驚くことになりました。さまざまな要素を組み合わせるという試みがこの作品に大きく影響を及ぼしていますし、非常に効果的でインパクトのある表現になったと思っています。

ヴィンス 外側だけだと異なっているように見える文化でも、中に入ってみると似かよった部分があることに気付くものです。去年のダンス・ダンス・アジアの技術スタッフから教えてもらったのですが、日本にもフィリピンと同じように口琴こうきんがあると聞きます。最初はつながりを見つけるのが難しくても、その国の人と知り合って友達になって文化的な類似点を見つけると、私はそこに自分の影が映っているように感じることがあります。

ファビアン ヴィンスとはそういう話をいつもしていますね。そして、さまざまな違いを持って集まった者同士がお互いの違いを受け入れることで、表現はもっと豊かになっていくのだと。

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公演作品の『Hilatas<君を導く光>』は自分の「ルーツ」に立ち戻ることがテーマ。

――では、最後に長編化した『Hilatas』について、東京公演の観客に向けてメッセージをいただけますか。

ヴィンス この作品を東京で上演できることに、私たち自身が期待に胸をふくらませています。見終わった後に余韻が残る作品に仕上がっていますし、この東京公演で私たちの作品、そしてハムディや黄帝心仙人が演出するパフォーマンスを観ていただければ、自分が生きていること、そして特別なものを感じてもらえるはずです。人生のなにかが変わると思います。ですから劇場に足を運んでください。みなさんにこの作品をぜひ観ていただきたいと思います。

ファビアン 私の言いたいことはヴィンスがほぼ話してくれましたが、一緒に作り上げてきたものをこうしてお見せできることに心を躍らせています。ご覧になる方には心を開いてこの作品を観ていただきたいです。そして今までとは違ったものに出会えたら、そのサプライズを受け入れてほしいですし、「ダンスでこんなこともできるのか」と知ってほしいですね。
 あとは「これはストリートダンスなのか、それともコンテンポラリーダンスなのか」とは考えないで観ていただければと思います。これはその両方かもしれないし、どちらでもないかもしれない。答えはないのです。これはコンテンポラリーとヒップホップ、ストリートダンスの完全な調和を目指したわけではなく、共同制作によって生まれる相互作用を求めて創られたもの。ご覧になる方々に気に入っていただける自信はありますが、この作品を見て喜び、興奮し、私たちが辿ったのと同じ感情の道のりを歩んでいただければうれしく思います。

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インタビュー:吉岡憲彦(国際交流基金バンコク日本文化センター所長)
撮影:Suradet Canda(Fellow)

DDA公式サイト:http://dancedanceasia.com/
公演情報:http://dancedanceasia.com/schedule_pt/dda2018march/
インタビュー:http://dancedanceasia.com/schedule_pt/artistinterview01/

dance_dance_asia_2018_07.jpg ヴィンス・メンドーザ(Vince Mendoza)
(フィリピン)
振付・演出

ダンサー、振付家。UK B-Boy Championship Poppin'フィリピン代表。2016年にハンガリーのGet Down Poppin'、ベトナムのTogether Time オールスタイルで優勝。同年、香港で開催されたSDK ASIA 2016で「TEAM X」として優勝。ユニット「Prince & Vince」で2010年、2012年、2016年のJuste Deboutに参加。ラコステ、ディーゼルなどのショーやMV、CMなどの振付を多数手がける。2015年、「Philippine Allstars」のメンバーとして来日し、DANCE DANCE ASIA東京公演に出演。2016年12月にはDANCE DANCE ASIA東京公演にて自身の振付・演出作品『Hilatas<君を導く光>』を初演、2017年4月にはハノイ(ベトナム)・マニラ(フィリピン)公演で同作を再演した。

dance_dance_asia_2018_08.jpg ファビアン・プリオヴィル(Fabien Prioville)
(フランス)
振付/演出補佐・ドラマトゥルク

ダンサー、振付家。フランスのCentre National de Danse Contemporaine(CNDC)卒業後、デヴィッド・ボウイ、フランク・ザッパなどのロックミュージシャンとのコラボレーションで知られるカナダの「ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップス」での活動を経て、1999年に「ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団」のメンバーとなる。2006年からフリーランスダンサー、振付家として活動。2010年には「ファビアン・プリオヴィル・ダンス・カンパニー」を設立。2017年9月に上演された演劇集団円の『DOUBLE TOMORROW』では構成・演出を担当した。

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