国際交流基金地球市民賞「~つなぐ~ 多文化共生社会の実現に向けて」フォローアップ事業レポート

2019.10.24

現在、日本には約263万人の外国人が暮らしており、前年より約17万人も増加しました(2019年1月1日現在、住民基本台帳)。さらに2018年12月に成立した、外国人労働者受け入れ拡大を目指す出入国管理法の改正等で、今後5年間で最大約34万人の受け入れが見込まれています。そんな中、「多文化共生」の実現は地域にとってますます切実な課題となっています。
国際交流基金は、地域に根ざした国際交流団体を顕彰する「国際交流基金地球市民賞」事業を1985年から実施しており、受賞者同士の情報共有やネットワーク構築を目的に、フォローアップ事業に取り組んでいます。今年度は「~つなぐ~ 多文化共生社会の実現に向けて」をテーマに2019年7月26、27日、ワークショップや多文化共生の現場を視察し、27日には一般参加者も交え公開シンポジウムを開催しました。2日間の模様をレポートします。

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ワークショップ参加者のみなさん

今回の開催地は、多文化共生の取り組みが盛んな三重県四日市市。同県では、90年代以降に入国したブラジル人を中心とした外国人労働者とその家族など「ニューカマー」と呼ばれる外国人が増加し、近年はアジアからの流入も増えています。県内在住の外国人は5万人を超え、前年より6.2%増(2018年末三重県外国人住民国籍・地域別人口調査)、外国人住民の占める割合も全国4位(2019年1月1日時点、総務省調査)となっています。中でも最多の外国人数を抱えるのが四日市市で、約9800人が居住しています。

7月26日、台風6号が三重県に接近する中、北海道から熊本まで全国から過去の受賞者13団体を含む計21団体の代表者が四日市市に集合しました。
参加者はまず各自の活動の紹介の後、ワークショップを行いました。ともに2018年度国際交流基金地球市民賞の選考委員を務めるダイバーシティ研究所代表理事の田村太郎さん、プロジェクト・コーディネーターの若林朋子さんの進行の下、課題や成功例、失敗例等を共有し合い、「助成金に頼らない運営を模索している」「若い人に活動をつなげていかなくては」「社会に活動が見えにくい」などの意見が交わされました。「日本人同士でさえ、近所付き合いがない等コミュニケーションに課題があるのに、言語や文化的背景の異なる外国人との共生がうまくいくのか」という鋭い指摘に悩む一幕も。その後、さらにグループに分かれて、つながりたいと思っている関係者ともっとつながるにはどうすればよいか、アイデアを出し合いました。

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各関係者とつながるための課題について話し合う参加者

ほかの地域に自分たちのモデルを伝えていきたい、急速な社会の変化に合わせて自分たちも変わらないといけない等の前向きな提案もあり会場は活気づいていました。

また、アートを通じて地域で多様な人々をつなぐ例として、高齢者や介護者と共に作る演劇や、認知症ケアに演劇的手法を取り入れたワークショップ等を全国で実施している菅原直樹さん(「老いと演劇」OiBokkeShi主宰/俳優、介護福祉士)に、菅原さんが三重県文化会館と共同で2017年度から3年にわたり取り組んでいるアートプロジェクトについてご紹介いただきました。同プロジェクトでは、県内各地の病院や学校、介護施設等で介護に演技の手法を取り入れたワークショップを実施し、公募で集まった19~90歳(結成当時)のメンバーにより演劇上演も行っています。菅原さんは「認知症でセリフが覚えられない人には認知症の役をやってもらっている(笑)。老いることを悲しむのではなく楽しむように、文化芸術は価値の転換ができる」とアートの持つ力を語りました。

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菅原直樹さんと三重県文化会館の堤加奈さんによるアートプロジェクト紹介

翌27日、午前中は外国人市民が地域の約16%(2018年3月末)を占め、四日市市の「多文化共生モデル地区」に位置付けられている笹川地区を視察。町には、ブラジルの食料品店やレストランなどが並び、ゴミ集積場や学校の注意書きや標識もポルトガル語が併記されている様子に、参加者らは驚いた表情でした。
2004年に市が設置した「四日市市多文化共生サロン」では、コーディネーターが外国にルーツのある住民の家庭を戸別訪問してコミュニケーションを取ったり、日本語教室や、生活マナーなども学べる「多文化共生教室」、定期的に触れ合う機会を作るための文化講座等を開催したりと、市民同士が共に交流できる場を作っています。参加者らは、地元自治会等地域の方々と笹川地区での取り組みについて意見を交わしました。笹川地区では、生活習慣の違いなどからトラブルになることもあったものの、日本住民側も、少子高齢化の時代に、どんどん外国にルーツのある子どもたちが増えていく中、災害時には彼らの協力も必須であり、日頃からよい関係を築かなければいけないと意識を変えてきたといいます。そのためまずは挨拶から始め、自身も外国にルーツを持つコーディネーターらと協力してコミュニケーションを取り、問題解決に努めてきたそうです。2016年に熊本地震に見舞われた熊本市国際交流振興事業団の八木浩光事務局長は「災害時には外国人被災者の支援も重要で、普段彼らとどうつながっていたかが問われると感じた。外国にルーツのある人だけ集めて防災訓練をするのではなく、彼らの視点も入れながら地域の訓練に楽しい仕掛けを盛り込み、参加してもらうような工夫をしてはどうか」と体験を共有しました。

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笹川地区を視察する参加者たち

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ポルトガル語が併記されたゴミ集積所の案内

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笹川地域のみなさんと記念撮影

2日間のフォローアップ事業で最後のプログラム、公開シンポジウムには受賞団体も含む約90人が来場。オープニングセッションで三重県の鈴木英敬知事は、2016年に都道府県で初めて「ダイバーシティ社会推進課」を設置し、2017年にはダイバーシティ社会推進のための方針を策定するなど、政策に多様性を盛り込んでいることや、松阪市で日本語や学校教育の重要性を伝えるために実施している就学前教育事業等を紹介。「異なる価値観を持つ人と共に生きていくことをなるべく意識しないで共生できる時代が来るといい。多様性は三重県の強みであり、これからの時代に必要になってくる。さらに多様性が進む地域にしたい」と語りました。
また、6団体の受賞団体等の代表者がそれぞれの活動や思いを発表しました。
グローバル人財サポート浜松(静岡県)の堀永乃代表理事はシンポジウムのテーマである「つながる」ということについて、「今まで出会ってきた人たちを大事にすること、多文化共生の活動の向こう側の人たちとどのくらいつながれるかが一番大事」と熱く語りました。
受賞団体のダンスボックス(兵庫県)や黄金町エリアマネジメントセンター(神奈川県)は、アーティストが地域で活動することで、地域住民も含む様々な人の交流が生まれていると報告。同センターの山野真悟事務局長からは、海外からインターンを受け入れたことで、組織も多国籍にしたいと思うようになってきたこと、また、このようなシンポジウムの来場者ももっと多国籍になっていいのではないかとのお話もありました。
モデレーターの若林さんは、「誰でも参加でき、既存の常識にとらわれない多様な価値観が共存しているという特徴を持つアート(創造的な表現活動)は多文化共生と親和性が高い」と指摘しました。

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三重県の鈴木知事と2018年度の選考委員の一人でシンクタンク・ソフィアバンク代表の藤沢久美さんとの対談

シンポジウム参加者へのアンケートでは、「取り組みのヒントがたくさんあった」「各団体の熱い思いが聞けてとても刺激的だった」「アートによる多様性受け入れの取り組みは今後ますます増えていってほしい」「違いや個性を生かすことで活力ある街づくりができることが新鮮でした」等たくさんのご好評の声をいただきました。
地域の中でも異文化との交流を行う必要性がますます高まっていく中、人と人をつなぐ活動を行う参加団体のみなさんの役割もさらに重要になっていくことと思います。これからも国際交流基金は全国各地で国際文化交流活動を行う人々を応援していきます。

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国際交流基金地球市民賞とは

1985年、全国各地で国際文化交流活動を通じて、日本と海外の市民同士の結びつきや連携を深め、互いの知恵やアイデア、情報を交換し、共に考える団体を支援する賞として創設されました。応募団体の対象活動は「文化芸術による地域づくりの推進」「多様な文化の共生の推進」「市民連携・国際相互理解の推進」の3分野で自薦他薦を問わず募集し、受賞団体(3件以内)には正賞(賞状)と副賞(1件200万円)が贈られます。34年間で、理事長特別賞4件を含め106の団体が受賞しています。2020年度の応募は2020年夏頃受付開始予定です。詳しい内容は以下のHPをご覧ください。
https://www.jpf.go.jp/j/about/citizen/index.html

取材・文:寺江瞳(国際交流基金コミュニケーションセンター)

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