雑誌『をちこち(遠近)』
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FC東京とインドネシアの子供たちの挑戦

Jチーム初の試み

 30度以上の気温と強い日差しを気にも留めずにサッカーボールを蹴り合う子ども達。子どもの姿を、練習場横から目で追う父親や母親。日本でもよく見る光景だが、ここでは練習中の午後3時を過ぎると近くのモスクからイスラム教徒に向けて礼拝を呼びかけるアザーンが響く。東南アジア諸国連合(ASEAN)1の人口を誇る国、インドネシア共和国。この国で子ども達に指示を出しているのは、日本人指導者の込山友さん(26)です。

 込山さんは日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)の強豪クラブ・FC東京に指導者として在籍しており、小学生などの育成世代の指導経験を持っています。現在は2017年8月から約1年間の予定でインドネシアの首都ジャカルタに滞在し、現地の子どもを指導しています。Jリーグ加盟チームによるASEANの国への指導者の長期派遣は、初の試みです。

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込山友コーチ

短期派遣がきっかけ

 きっかけとなったのは、国際交流基金アジアセンターとJリーグが主催している「サッカー指導者の短期派遣事業」*です。アジアセンターは2014年、日本サッカー協会、Jリーグとアジアにおけるサッカー交流ならびに協働事業に関する覚書を締結。協働事業の内容は多岐に渡りますが、その中でメインとなっているのが、Jリーグ各クラブからASEAN各国への日本人指導者の短期派遣事業です。

 インドネシアでは、2016年1月からFC東京の育成世代の指導者が6回現地で指導にあたりました。指導を通し、現地サッカーアカデミーと信頼関係が作られ、現地指導者からの強い希望もあって、今回の長期指導が実現しました。

ポテンシャルを秘めたインドネシアのサッカー

 込山さんが指導をしているのは、東ジャカルタに拠点を置くビナ・タルナ・フットボール・アカデミー(BTFA)です。BTFAはインドネシア税関の関係者が1972年に設立し、現在は8歳から18歳の約150人が所属しています。2017年にアカデミーを巣立った18歳以上の選手全員が国内プロチームと契約するなど、育成能力に優れたアカデミーとして知られています。

 込山さんは現在U17、U14、U12といった幅広い世代を指導しています。インドネシアで指導した感想を聞いてみると「体系だった指導がされていない感じを受ける」と話します。止める、蹴るといったサッカーの基本的な技術はもとより、どういった時にどのようにその技術を使うのかといった知識や判断が日本に比べると低いといいます。一方で、「身体能力はインドネシアの子どもの方が断然すごい」と強調し、「身体能力を生かす技術、知識が身について頭を使ったプレーが出来れば、日本を凌駕するポテンシャルがこの国の選手にはある」と評しています。

 一見するとBTFAの指導も、日本と同じような指導をしているように見えます。しかし、インドネシア人のコーチに話を聞くと「練習方法はYouTubeの動画を真似た」と話すなど、練習の型はあっても、何を意図した練習かといった点まで指導出来ていないことが多いようです。自身もBTFA出身で指導にあたっているボニー・サフルディンさん(35)も、込山さんの指導を「メニュー1つ1つに意味があり、創造性がある。効果的な練習が多くて勉強になる」と評価しています。

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パス練習中に指導する込山コーチ

次の動作に移りやすいボールの止め方を指導

アカデミー出身の誇りを持って

 込山さんも実はFC東京のアカデミー出身で、ユースチーム在籍時には、全国屈指のチームでレベルの高い指導を受けた経験があります。大学でもサッカーを続けましたが、卒業と同時にFC東京に指導者として復帰することを選びました。当時は、地域リーグからJリーグを目指し、現在はJリーグに所属しているチームから選手としてのオファーもあったといいますが、「選手とは違う道でスペシャリストになりたい」という気持ちが芽生え、指導者に転身。インドネシアへの長期派遣にも自ら希望して赴任しました。

 込山さんは、FC東京のアカデミーでサッカーの技術の他にも、「自分で考ることの重要さ」や「アカデミーという繋がりの重要さ」を学んだといいます。BTFAの子ども達にも、「BTFAというアカデミーで育ったという誇りを持って卒業していって欲しい。その為にも焦らずにしっかりと向き合って指導していきたい」と先を見据えています。

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左:パス練習中に受け手との意思疎通をする様子
中:真剣にミニゲームを行う子どもたち
右:練習最後のミニゲーム前に整列

2026年、共にW杯出場を

 FC東京による指導者の長期派遣事業の目的は、インドネシア国内のサッカー競技のレベルアップですが、さらにその先にはワールドカップ(W杯)があります。

 国際サッカー連盟(FIFA)は2017年1月、W杯の出場枠を現行の32カ国から、2026年のW杯からは48カ国に増やすことを決定しました。アジア地域からの参加枠も4,5カ国から8カ国に増えるため、ASEANの国々にはW杯初出場のチャンスが到来します。

 現在込山さんに指導を受けている中高生は、2026年には20代半ばになり、正に代表チームの中心選手となる世代です。実際に込山さんに指導を受けて来日し、FC東京ユースチームに練習参加をしたBTFAの選手2人が、インドネシアU19の代表選手に選ばれるなど実績も出てきています。

 日本人指導者から指導を受けたインドネシアの子どもが代表チームの選手となり、W杯で日本代表とインドネシア代表が共に躍動する---。そんな物語の序章が、夢物語でない現実的なものとして、今、ジャカルタで始まっています。

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左:皆で掛け声をかけて練習を終える
中:熱い口調で振り返りを行う込山コーチ
右:練習の振り返りを行う

japan-Indonesia-soccer_10.jpg ◆派遣指導者 込山友
栃木県出身。FC東京U-18から鹿屋体育大学に進学し選手としてサッカーを続ける。大学卒業後、指導者に転身し、FC東京サッカースクールにて主にU12の指導にあたる。JFA公認B級ライセンス所有。

◆執筆者 藤本迅
国際交流基金アジアセンター海外調整員としてジャカルタ日本文化センターに勤務。高校時代はJリーグチームのユースに所属し、全国大会にも出場。現在インドネシア在住4年目。

*国際交流基金アジアセンターとJリーグが主催する「サッカー指導者の短期派遣事業」について
「サッカー指導者の短期派遣事業」は、ASEAN10か国のサッカー技術向上と日本との交流深化を目的に、日本の指導者を派遣し、若手サッカー選手の育成に取り組む事業。1カ国ごとに1Jリーグクラブを担当に設定。事業を通じて技術向上とともに日本サッカーを体験し日本文化を直接感じてもらうことで日本に親しみを感じてもらい、また同時に日本の指導者・スタッフも各国への理解を深め、活躍の場を広げることが期待されている。本取り組みは、2015年度に開始し、2020年まで継続して実施を予定。2016年度からは、双方向交流の拡大とネットワーク強化に取り組むため、重点国(タイ、ベトナム、マレーシア、インドネシア)を中心に、派遣とともに各国の選手・指導者・スタッフ等の短期招へいを行っている。
「サッカー指導者の短期派遣事業」は、国際交流基金×JFA×Jリーグ アジアサッカー交流の一環として行っています。同交流事業については、以下をご参照ください。
http://jfac.jp/culture/dictionary/asia_football/

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