レポート:ポンピドゥ・センター・メッス(フランス)における「ジャパノラマ Japanorama 1970年以降の新しい日本のアート」展 報告会

国際交流基金(ジャパンファウンデーション)は、「ジャポニスム2018:響きあう魂」に先駆けて、美術展「ジャパノラマ Japanorama 1970年以降の新しい日本のアート」を2017年10月20日から2018年3月5日までポンピドゥ・センター・メッス(フランス・メッス市)にて開催しました。会期後半の2月7日、同展覧会のキュレーター長谷川祐子氏(東京都現代美術館参事・東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授)による報告会が東京の国際交流基金本部にて行われ、出品作家の高山登、名和晃平、荒神明香の3氏も登壇。年代や分野の異なる作家らによる率直な議論が展開されました。

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菅木志雄《周位律》《Law of Peripheral Units》(1997/2017)
ポンピドゥ・センター・メッスでの展示風景

©Kishio Suga
©Centre Pompidou-Metz/Photo Jacqueline Trichard/2017/

大阪万博が開催された1970年以降の日本の現代美術、視覚文化を概観的に俯瞰することを目的とした本展は、約100人・組の作家による350点あまりの作品を紹介する大規模なイベントであり、ポンピドゥ・センター・メッスにおける「Japanese Season」(2017年9月から2018年5月まで)の核となる展覧会として行われ、会期中、10万を超える入場者がありました。

フランスの美術館の人から、「フランス人は"かわいい"と"禅"は知っているのでそれ以外のものを見せてほしい」と言われたことから、それらを超えた深みをどう見せるかに注力したという長谷川氏。展覧会では、日本の力を「ポップ」、禅を「簡潔さ」、そして "かわいい"を 軽やかさ、儚さや脆さ、反語的な強さと言い換えて見せることで、フランスでは興味深く受け取ってもらえたといい、ニューヨークタイムズのレビューでも、これまでの日本の紋切り型の展覧会を超えたと評されていることも紹介しました。

長谷川氏はこの展覧会を1986年、パリのポンピドゥ・センターにおいて開催された「前衛芸術の日本1910-1970」展の後継企画と位置づけています。1970年代は欧米からの文化的影響から脱却しようとする移行期の始まりであり、自己文化の形成を目指した時代。アートでは、「もの派」や「日本概念派」が活躍しました。

妹島和世氏(SANAA)による展示会場デザインで構成された本展は、地上階のForum に、もの派の重鎮、菅木志雄氏による石や金属パイプ、ロープを使った《周位律》が展示され、ギャラリー2、3には、時系列ではなく、6つのテーマを島と見立て、群島を有機的につなげるユニークな配置で作品が展示されました。それら6つの島は、「A: 奇妙なオブジェクト/身体─ポスト・ヒューマン」「B: ポップ・アート─1980年代以前/以後」「C: 協働/参加性/共有」「D: 抵抗のポリティクス─ポエティクス」「E: 浮遊する主体性/私的ドキュメンタリー」「F: 物質の関係性/ミニマリズム」。

長谷川氏は、「モダニズムの文脈にのっとり国家的文化として形成をなしえた建築、デザインに対して、現代アートは、包括的な理論や言説に貫かれることなく、さまざまな文化や出来事、現実の状況と関係を持ちながら混沌としたまま展開してきた。その中心になるのが、個人の自意識のあり方と、現実環境に敏感に反応していく身体性、身体性と結びついている知や知覚の生産である。一貫した言説が形成されえなかったゆえに、多くのユニークな表現が生まれえたということもできる」と述べ、本展を「日本の現代アート、視覚カルチャーを再考し、新たなトランスレーションを試みる」としました。

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高山登《Underground Zoo (Part)》(1969/2003)
©Private collection
©Centre Pompidou-Metz/Photo Jacqueline Trichard/2017/Exposition Japanorama. A new vision on art since 1970

登壇した高山登氏は枕木を用いて空間全体を作品化することで知られています。学生時代に見た炭坑の枕木や鉄道の坑木を出発点とし、近代を支えた鉄道の象徴と同時にその時代の犠牲者の「人柱」ととらえられることもあります。今回の展示とともに、1973年パリ・ビエンナーレでフランスの枕木をつかった作品展示を振り返り、当時、鑑賞者に「ミイラを思い出す」といわれたエピソードを紹介。このような鑑賞者とのコミュニケーションが日本ではほとんどないことを伝えるとともに、日本では、つくることと美術、観衆との接点がないままに時代が過ぎてきているのではないかと意見を述べました。

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名和晃平《Force》(2016)
Courtesy of the artist
©Kohei Nawa
©Centre Pompidou-Metz/Photo Jacqueline Trichard/2017/Exposition Japanorama. A new vision on art since 1970

その高山氏の活動に、どこかしら影響を受けていたかもしれないと語った名和晃平氏は、シリコンオイルを使った作品を展示。本展について、「これだけの規模と批評性を持った展覧会はほかになく、これまで海外で展覧会が開催されても、個人で戦っているだけで、自分が日本でどういう位置にいるのかを鑑賞者に分かってもらえなかったが、今回の展覧会でやっと分かってもらえた気がする」と語り、日本のアートはどこが中心で、どこで生まれているかわからない状況であったが、本展に参加したことで、日本の作家たちから自身がどう影響されてきたのかかがよく分かったと述べるとともに、帰国展はもちろんのこと、世界巡回展になるべき展覧会だと絶賛しました。

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荒神明香《Reflectwo》(2008/2017)
Courtesy of the artist
©Haruka Kojin
©Centre Pompidou-Metz/Photo Jacqueline Trichard/2017/Exposition Japanorama. A new vision on art since 1970

荒神明香氏は、ギャラリー空間や窓の生かし方について強調し、街の景観を大切にするフランスの様子とともに、作品一点一点の面白さが伝わってくる展示だったといい、自身の作品でも、展示によって想定していなかった偶然性をみることができたと述べました。

長谷川氏は、本展を通じて、展覧会を見たときと帰る時の違い、帰るときに曖昧模糊とした状態があることを知ったといい、それゆえに、また展覧会に行くということにつながるのだと述べて報告会を終えました。

展覧会図録 Japanorama : nouveau regard sur la création contemporaine
(ポンピドゥ・センター発行、フランス語版)
国際交流基金ライブラリーでは閲覧および貸し出しも行っています。1986年に開催された「前衛芸術の日本1910-1970」展図録および報告書とあわせてご利用ください。

6つの島と出展作家

「A: 奇妙なオブジェクト/身体─ポスト・ヒューマン」
イエロー・マジック・オーケストラ、石原友明、小谷元彦、川久保玲、スプツニ子!、ダムタイプ、中原浩大、ライゾマティクス、森万里子、森村泰昌
赤瀬川源平、大野一雄、工藤哲巳、嶋本昭三、田中敦子、中西夏之、土方巽、平田実

「B: ポップ・アート─1980年代以前/以後」
会田誠、アンリアレイジ、泉太郎、大竹伸朗、岡崎京子、加藤泉、金氏徹平、草間彌生、荒神明香、タカノ綾、田名網敬一、束芋、できやよい、蜷川実花、日比野克彦、町田久美、村上隆、やなぎみわ、ヤノベケンジ、山口はるみ、横山裕一
横尾忠則、木村恒久、中村宏、タイガー立石

「C: 協働/参加性/共有」
アトリエワン、島袋道浩、田中功起、津村耕佑、八谷和彦、みんなの家、吉岡徳仁、SANAA、wah document
オノ・ヨーコ、塩見允枝子、ザ・プレイ

「D: 抵抗のポリティクス─ポエティクス」
石上純也、伊藤存、小沢剛、樫木知子、照屋勇賢、中園孔二、奈良美智、藤本壮介、 山川冬樹、 mame
古賀春江、福島秀子

「E: 浮遊する主体性/私的ドキュメンタリー」
荒木経惟、川内倫子、河原温、ホンマタカシ、hatra
中平卓馬、森山大道、細江英公、奈良原一高

「F: 物質の関係性/ミニマリズム」
池田亮司、榎倉康二、川俣正、小清水漸、菅木志雄、杉本博司、高山登、名和晃平、野村仁、宮島達男、村上友晴、山本耀司、李禹煥

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