雑誌『をちこち(遠近)』
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十、落語家にとって「手ぬぐい」は名刺代わりでもあるんです。

立川志の春




そろそろ師走が近づいてきましたね。何だか、年々クリスマスシーズンの到来が早まっているような気がしませんか? 

まず、少し前まで秋のイベントといえば運動会と紅葉狩りくらいしかなかったところへ、ハロウィンという大型新人が参入してきました。あっという間に日本を、少なくとも東京を席巻しましたね。渋谷中にゾンビとポリスとナースとかぼちゃが溢れるという、10年前には想像できなかった未来が今ここにあります。
ちょっと思いましたけど、ナースとかぼちゃ、っていいですね。

そんなことはさておき、ゾンビとポリスとナースとかぼちゃがいなくなった街には、間を置くことなく色とりどりにライトアップされた木々が現れます。ザ・ロマンティックシーズンの開幕です。11月の上旬から! そして、ふた月近くの助走期間を経て元ゾンビと元ナースは、クリスマスイブにケーキとフライドチキンを食べた後、1週間の短い助走期間を経て大晦日を迎え、年越しそばを食べるのです。
年を越したらみかんとお餅を食べて、お揃いのマフラーをして初詣でへ出かける。少し「和」の生活に戻ったと思いきや、2週間もすると今度は、チョコレートの準備に取りかかる。チョコレートを食べたら今度は、ひな祭りをさらっと通り過ぎて、またホワイトデーのお返しのマカロンを食べて、やっとザ・ロマンティックシーズンが閉幕する。

11月から3月までの5か月間。ザ・ロマンティックシーズン、長すぎやしませんか!!! 日本の冬は、ロマンティックに背を向けるものにとっては酷なシーズンです。
そしてもう一つ、日本の冬には「和」が圧倒的に足りません。そんなことでいいのでしょうか!?

というわけで、今回は我々落語家の世界の師走に向けた準備、その中から「手ぬぐい」について書こうと思います。

我々落語家にとって、そもそも手ぬぐいとは一体どんなものなのか、というところからご説明いたしましょう。
落語家が高座で使う道具は二つだけ、手ぬぐいと扇子です。またの名を扇子が「かぜ」、手ぬぐいが「まんだら」と言います。まあ業界用語ですね。初め私はそのような業界用語を知らなくて、師匠に「かぜをよこせ」と言われて扇子で扇いでいたらつかみ取られたことがあります。

この扇子と手ぬぐい、まずは落語の小道具として使います。扇子が筆、刀、箸、手ぬぐいが手紙、財布、巾着、焼き芋、最近だとスマホなんてのもありますね。
実用的な用途ですと、手ぬぐいは高座で汗をぬぐうのに使ったりもします。前座の時に楽屋でお茶を持って行く時なんかは、手ぬぐいにのせて持っていったりもします。

そして今回の本題ですが、手ぬぐいは落語家の名刺代わりにもなります。二つ目以上になると毎年、自分の手ぬぐいを作るようになります。それをお正月シーズンに会う、他の落語家や色物の芸人さんと交換します。前座さんにはお年玉とともに渡します。これが合わせて、少なくとも100本から200本くらいにはなります。
そして人にもよりますが、日ごろお世話になっている方や、これからお世話になろうとしている方に配ったりもします。つまり毎年お正月を前に、300本から400本くらいの手ぬぐいを作るわけです。

そんなわけで、毎年自分の手ぬぐいのデザインを考えるんですが、私はあまりそういう方面は得意ではありません。「じゃあいっそのことイベントにしてしまったらいいんじゃないの?」という友人たちの発案により、以前、2年連続で「手ぬぐいデザインコンペ」というものを開催しました。
秋に手ぬぐいのデザインを公募して、年末の落語会でお客さんに投票してもらい、最も多くの票を集めたデザインで次の年の手ぬぐいを作るという企画です。ついでに手ぬぐいを通じて、まだ落語を聞いたことのない方々に落語そのものにも興味を持ってもらえたら、というのが隠しテーマでした。
優勝賞品は手ぬぐい現物10本と、なんと・・・・・・志の春独演会1年間無料パスポート!
微妙?・・・・・・うるさいです。

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(左)2014年度「手ぬぐいデザインコンペ」応募作品の1点。
(右)同じく2014年度の応募作、小学生の手描きデザイン。


果たして応募があるかどうか、ドキドキしましたが、友人たちの働きかけもあり最終的には20点を超えるデザインが集まりました。ありがたかったですね~。本職のデザイナーさんや油絵画家さんからの応募もあれば、お子さんの手描きデザインもありました。
もちろんパクリ・・・はなし。一つに絞るのが難しかったですね。初年度などは結局、優勝作品と準優勝作品のデザインで2パターン作ってしまいました。

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2014年度「手ぬぐいデザインコンペ」の優勝作品。すっきりしたデザインながら、ほのぼの感がたっぷり。

この「手ぬぐいデザインコンペ」、主催してくれた友人たちにあまりにも膨大な作業と労力をかけてしまうので、2年で一旦中止となりましたが、またいつか再開したいですね。手ぬぐい制作も、新年の楽しみの一つです。

この手ぬぐい、手作業で染められたものですから、色合いになんとも言えない味わいがありますし、肌触りもとってもいいですよ。使い方も若い方なんかは頭に巻いたり、スカーフみたいにしたり、パソコンのキーボードのカバーにしたり、いろいろあるみたいです。
ある程度の量(確か100本以上とか)があれば、「マイ手ぬぐい」を染めることも可能だそうですから、お試しになってみてはいかがでしょうか?





shinoharu00.jpg立川志の春(たてかわ しのはる)
落語家。1976年大阪府生まれ、千葉県柏市育ち。米国イェール大学を卒業後、'99年に三井物産に入社。社会人3年目に偶然、立川志の輔の高座を目にして衝撃を受け、半年にわたる熟慮の末に落語家への転身を決意。志の輔に入門を直訴して一旦は断られるも、会社を退職して再び弟子入りを懇願し、2002年10月に志の輔門下への入門を許され3番弟子に。'11年1月、二つ目昇進。古典落語、新作落語、英語落語を演じ、シンガポールでの海外公演も行う。'13年度『にっかん飛切落語会』奨励賞を受賞。著書に『誰でも笑える英語落語』(新潮社)、『あなたのプレゼンに「まくら」はあるか? 落語に学ぶ仕事のヒント』(星海社新書)がある。最新刊は『自分を壊す勇気』(クロスメディア・パブリッシング)。


*公演情報は公式サイトにて。
立川志の春公式サイト http://shinoharu.com/
立川志の春のブログ  http://ameblo.jp/tatekawashinoharu/




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