雑誌『をちこち(遠近)』
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Vol.9 自然が作り出す美しさに身を委ねに、森へ

9月下旬、尾瀬へ出かけてきました。
澄んだ空気の中、約1時間かけて山の遊歩道を抜けると、有名な湿原地帯が広がります。
樹々や草花に触れることで得られる自然との一体感は特別な感覚です。

秋は登山などの行楽シーズン。
紅葉や色づいた実の美しい光景が見られる場所に出かけましょう。

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尾瀬の見所の一つ、広大な湿原。

私見ですが、人が創り出す建造物、絵画や彫刻、工芸といった美術品よりも、手つかずの自然が見せる表情の方が、感動を与えてくれます。屋久島の原生林、スイスの雪山、モロッコの岩砂漠で見た夕焼け空、チベットの荒野に浮かぶ月……。自然の光景を眼前にした時の感動の余韻は、今も残り続けています。

森に入ると、樹木に囲まれる中、足元の草花、樹々の間から覗く実、瑞々しい葉やしなやかな枝の動きなどの美しさに目を奪われます。

多種多様な植物が共生と生き残りをかける営みが垣間見え、森の生態を感じ取ることができるのも楽しみ。
水辺や砂礫されき地といった土壌の環境。標高差による樹種の違い。日射量、降雪量などの気候。
盆栽を生業とするものにとって、山や森は勉強の場です。

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山道で見かけたツリバナマユミ。赤い実が目を引く。

盆栽が単体の作品でありながら見る者に感動を与えるのは、自然の景色までも想像させるからでしょう。
だからこそ私たち盆栽師は、あたかも自然界に実在するかのような雰囲気を醸し出すことを目指しているのであり、樹が育った気候条件をイメージすることは樹作りをする上で非常に重要なのです。

気候条件や樹の個性を考慮し、最大限に魅力を引き出す正面や角度を決め、不必要な枝を剪定し、針金を駆使して枝を整える。
長年盆栽を愛好している方でも、正面を決め、枝を選別するには知識と経験、そして技術を要します。
根の張り方、幹の見所、枝の配置、コケ順(根元から樹木の最上部に向けて幹をバランスよく細くする)と頭(幹先端部)の位置など、複合的に判断しなければならないので、ぐるぐると樹を回しながら悩むものです。

枝が曲折しながら伸びる様子を、森の中で観察するのも面白い。
傾斜地では、競うかのように枝が外へ張り出していく様子が見られ、豪雪地では枝元から枝が垂れているといった具合。

植物の生命は葉で光合成を行うことで維持されますから、日の当たる方向に枝を伸ばします。先端部分は数年内に形成された枝なので、比較的まっすぐ伸びているのですが、幹元に近い太い枝は曲線を描いている。先端部分に比べ、その何十倍も太い枝が曲がりくねっているのです。

そのような枝に目を向けたことはあるでしょうか。
枝はなぜ曲がることになったのでしょう。
それは、樹の育った環境が大きく関わっているためなのです。

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森の中で枝にじっくり目を向けてみたことはありますか?

例えば、こんな状況を思い浮かべます。
春。木漏れ日が所々に射す森深く。まだ若く、枝葉を必要とする細い枝が勢いよく伸び出します。しかし、直線に伸び出した方向は日陰で、そのまま伸びても、日射量が足りず、他の枝に水分や栄養が送られるため枯れてしまう。そこで、斜め先に日の当たる場が存在することを感じた枝は、脇枝の1本を日当たり目指して勢いよく伸ばします。日を求めて伸び出した枝はぐんぐん成長し、それ以外の枝は枯れ、自然淘汰されていきました。

日を求めて伸びた枝にはさらに試練の季節が続きます。
冬。降り積もった雪の重みで枝が垂れ、その状態のままじっと雪解けを待ちます。
そして再び春。雪の重みで枝が垂れ、屈折した枝から新たな新芽が日を求めて上へと伸びる。
このようなことが毎年繰り返され、曲線を備えた枝は次第に太く充実し、先端いっぱいに若い枝を広げ、光を集め、樹の生命を維持していきます。
太い枝が曲線を持ち成長した姿は、風雪、日射、病害虫など、様々な要因を経て形成された歴史であり物語なのです。

盆栽は自然への入り口であり、自然は盆栽への入り口。
盆栽を作ることだけに専念するのと、自然を踏まえた上で盆栽を作るのとでは、作品の説得力が違います。

12年ほど前に盆栽界の大先輩から言われた一言があります。
「君が作った樹は、盆栽から学んだ作りになっていて、樹が死んでいるよ。風や霧が抜けていく様子も、鳥が羽休めする情景も浮かばない。イメージをもっと外へ広げなさい」と。

樹が育つ環境に身をおいて、光や風、気温など体感することで、作品により深みを増すことができるのだと思います。
とは言っても、言うは易く行うは難し。
日々、仕事をしているとどうしても自分の癖というものが生まれてきてしまい、手慣れた自分流の作りとなってしまうこともしばしば。
そんな時に、自分への戒めを込め山や森に出向き、あるがままの自然の姿を観察し、自然が作り出す美しさに身を委ね、軌道修正をするのです。

盆栽に触れる時間には、森へ誘う不思議な感覚があるようです。

bonsai_profile.jpg 森 隆宏(もり たかひろ)
盆栽師。1979年、東京都生まれ。常磐大学国際学部を卒業後、2002年より勝田光松園にて盆栽を修行。2006年に独立し、盆栽師として活動を開始する。2009年、由緒ある国風盆栽展で職人として手がけた作品が国風賞を受賞。2009~2013年、さいたま市大宮盆栽美術館の専属盆栽技師を務める。2013年、欧州文化首都2013コシツェに盆栽デモンストレーターとして、第8回世界盆栽大会(2017年開催)のさいたま誘致プレゼンテーションに盆栽師代表プレゼンテーターとして参加。2014年にはスロヴァキアの国際盆栽フェスティバルでもデモンストレーションを行い、2016年の国際園芸博覧会トルコ・アンタルヤでは日本政府出展の展示に盆栽専門スタッフとして携わった。現在、盆栽師の仕事に従事する傍ら、2013年に構えたアトリエ「盆栽もり」などで初心者向けワークショップを開く他、米カリフォルニアでも講習会を行うなど、国内外で盆栽の普及活動に取り組む。

盆栽もりHP http://bonsaimori.jp/
盆栽もりfacebook https://www.facebook.com/Bonsaimori/

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