雑誌『をちこち(遠近)』
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Vol.11 盆栽との出合い、触れ合い、そしてこれから

あっという間に師走。
盆栽の世界に入り、今年で17回目の冬を迎えています。
冬支度を終え、いつものように依頼された仕事を進める日々。
寒さにめっぽう弱い私ですが、やかんを置いたストーブのそばで黙々と仕事をするこの時期のスタイルが好きです。

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盆栽の手入れが、盆栽師である私の主な仕事。

私の仕事は盆栽の手入れが主で、愛好家の自宅へ出向いたり、園へ持ち帰り作業したりといったやり方。そのため、自身の盆栽園を4年前に構えたものの、平日は閉じ、土日のみ開園という形をとっています。
お客様は高齢の方が多く、概ね60代後半から80代といったところでしょうか。10年以上のお付き合いとなる愛好家も多くなり、年月を共に過ごす中、愛好家と家族と盆栽の関係が垣間見られ、それらについて考えることが増えてきたように思います。

愛好家の棚場(盆栽が置かれる場所)に行き樹を見ると、盆栽が大切にされているかどうかはわかります。
「盆栽は正直」とはよく使われる言葉で、概ね健康そうに見える盆栽でも、天候や作業工程の不具合で傷んでいる場合があります。しかし、それも致し方ありません。物言わぬ盆栽の難しさでしょう。

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愛好家の棚場は盆栽との思い出が詰まった空間でもある。

愛好家自身が体調を崩された時、盆栽も同じように健康を崩すものです。
ここ数年、体調を崩し、以前と同じように管理することができなくなってしまった方が数名いらっしゃいました。
入院や治療に専念されている間、水やりなど、ご家族の助けが必要。
「水やりしてくれているから、文句ひとつも言えないよ」
何もできない寂しさと、家族への感謝が混ざり合ったような言葉が力なく出てきます。
「○○さん、ご家族に感謝されていますよ」
「水やりをしてくれているおかげで、盆栽も変わらず元気です」
と、安心してもらえるよう私からもご家族に感謝の言葉を伝えます。

そうしているうちに不思議と、盆栽にさほど興味を示さなかったご家族も「花が咲いたわ」「実が可愛らしいわね」「松も葉を落とすのかしら」といった具合に、少しずつ盆栽の変化に目を向けてくれるようになるのです。
長年連れ添った間柄でありながら、なかなか共有できなかった趣味の盆栽。病気がきっかけとはいえ、家族の話題に盆栽が加わることを、少し微笑ましく思うのです。

体調を崩した、入院を余儀なくされた、家族に不幸があった、など、一時的に無気力に陥ってしまった方も、盆栽と共に過ごしてきたこと、盆栽から必要とされる存在であると思うことで、
「もう一度、頑張って育てていくよ」
と活力を取り戻すようです。
愛好家にとって、盆栽との触れ合いは家族と似た存在であり、生涯を通した生きがいなのです。

私にとって盆栽は、22歳のある日、突然飛び込んだ世界でした。
幼い頃、森の奥に秘密基地のようなものを作って遊んだことはありますが、植物との触れ合いというものはなく、その後、大学時代も環境問題に関するレポートを作成するため自然環境に関する本を数冊読んだくらい。

「子供の頃、山を駆け回って、面白そうな樹を見つけたら引っこ抜いて、鉢に入れて楽しんだもんだよ」
「昔はそんなに娯楽ってものがなかったしね」
そんなエピソードを話してくれる愛好家はたくさんいます。
自然の中で遊び、自然から頂戴し、自然と共に成長する。
高齢になった今でも、当時と変わらぬ好奇心で盆栽を楽しむ姿は、とても羨ましく、そんな方々との交流は私にとっての財産となっています。

植物との接点は人並み以下だった私が、盆栽と出合ったことで、少しずつ植物の声を聞き取れるようになり、天候、季節感、山や森の樹々、道端に咲く花やひょっこり顔をのぞかせる実などから、自然の厳しさや優しさを体に取り込むことの素晴らしさを感じています。

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盆栽と出合ったことによって、今では樹々の声を聞き取れるように。

長い時間軸の中で生きるひと鉢の盆栽に込められた先人の思いを過去から未来へ繋ぐ。その出合いの機会を多く得られる職人として、謙虚に、盆栽に向き合い続けていく。ささやかではありますが、愛好家のそばに寄り添いながらそんな日々をこれからも過ごせれば、それは幸せなことかもしれません。
もちろん、盆栽を始めた頃に思い描いた大きな夢を見据え、今もその道をしっかりと歩んでいる、と自分では思いますが ……。

約1年間、ご愛読いただきありがとうございました。
このエッセイが盆栽作りのヒントとなり、新たな愛好家を生み出すことができたのなら、嬉しく思います。
新しい年が皆様にとって穏やかな一年でありますよう、心よりお祈り申し上げます。

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「盆栽もり」でいつの日かお会いしましょう。

bonsai_profile.jpg 森 隆宏(もり たかひろ)
盆栽師。1979年、東京都生まれ。常磐大学国際学部を卒業後、2002年より勝田光松園にて盆栽を修行。2006年に独立し、盆栽師として活動を開始する。2009年、由緒ある国風盆栽展で職人として手がけた作品が国風賞を受賞。2009~2013年、さいたま市大宮盆栽美術館の専属盆栽技師を務める。2013年、欧州文化首都2013コシツェに盆栽デモンストレーターとして、第8回世界盆栽大会(2017年開催)のさいたま誘致プレゼンテーションに盆栽師代表プレゼンテーターとして参加。2014年にはスロヴァキアの国際盆栽フェスティバルでもデモンストレーションを行い、2016年の国際園芸博覧会トルコ・アンタルヤでは日本政府出展の展示に盆栽専門スタッフとして携わった。現在、盆栽師の仕事に従事する傍ら、2013年に構えたアトリエ「盆栽もり」などで初心者向けワークショップを開く他、米カリフォルニアでも講習会を行うなど、国内外で盆栽の普及活動に取り組む。

盆栽もりHP http://bonsaimori.jp/
盆栽もりfacebook https://www.facebook.com/Bonsaimori/

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