雑誌『をちこち(遠近)』
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国際交流基金の関連事業

さまざまな青春の形

沼野充義(東京大学教授)



 国際交流基金は「翻訳出版助成プログラム」を通じて、過去40年以上にわたり、日本関連図書の海外での出版に対する支援を行ってきました。出版された図書の言語は50を超え、そのジャンルは古典文学、現代文学、歴史、社会学、政治、経済、文化論等多岐にわたります。この度、新たな試みとして、海外の方々に日本の現代社会をよりよく理解してもらうための良著を"Worth Sharing―A Selection of Japanese Books Recommended for Translation"という冊子にまとめ、「翻訳推薦著作リスト」として紹介していくことにしました。その第1弾は、「日本の青春」と題し、若者をテーマに20冊の選書を行いました。選書委員のお一人である沼野充義氏にご寄稿をいただきました。

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 文学は常に若者たちとともにある。若者の姿を描き、若者たちに語りかけ、若者たちとともに喜び、苦しみ、そして未来を考える。若者たちこそは、社会の未来である。
 ある国の未来は、その文学によって生き生きと描きだされた若者の姿によって占うことができると言っても過言ではないだろう。私たちは日本に関心を持つ世界の読者のために、小説を中心に、ここにさまざまな現代日本の若者の姿を鮮やかに描き出した本を20冊厳選した。ここには明るく楽しい青春だけでなく、悩み多き不安に満ちた青春もある。しかし、それらの光と影のすべてが交錯しながら、現代日本文学の興味深く魅力的な風景を作り出していることは確かだろう。

various_youth03.jpg various_youth04.jpg  小説が描き出す若者たちの姿は、実際、あまりに多様であって、「ひとつの日本」に像を結ぶことは難しいかもしれない。若者である以上、当然、風俗の最先端に位置している。ロックバンド活動や運動部の活動に熱中する中高生もいれば、渋谷や池袋といった都会文化の発信地に依拠する若者たちもいる。日本から外へ、はるかネパールまで冒険の旅に出る子供もいれば、日本の地方都市で育ち、恋愛をし、若くして死んでいく若者たちもいる。現代の東京で春夏秋冬の移ろいとともに、静かに生きる若い女性の充実した現在の瞬間を見据えた作品もあれば、現代日本から世代を過去にさかのぼって祖父母の満州体験にまで行き着く歴史的ビジョンを持った作品もある。「いじめ」に苦しむ中学生もいれば、日本と韓国の間で自分のアイデンティティを求めて揺れる在日韓国人の女性もいる。
 またこのブックリストには、小説の他に、若者が直面する現代の社会問題や、若者の現代的な価値観や美意識を論じた研究書や評論を6冊加えた。「格差社会」「ワーキングプア」「婚活」「恋愛観」「<かわいい>の美学」といった切り口を通じて、いまの日本の若者たちが何に悩み、何をよりどころにして、何を目指して生きているのか、くっきりと見えてくるに違いない。
 これらの本が示しているのは、一握りのベストセラー小説からだけではうかがい知ることのできない、現代日本のさまざまな青春の形である。それはとりもなおさず、いまの日本がどのような国であるかを、その多面性において示すものであり、現代の日本のことを――そして、さまざまな矛盾と問題を孕はらみながらも、底知れない文化的な活力を持つこの国の可能性を――本当に知りたいならば、どうかこれらの本を読んでいただきたい、と私たちは切に願う。

(2012年11月発行 "Worth Sharing―A Selection of Japanese Books Recommended for Translation"より転載)

【参照記事】
Feature Story「日本の地方のさまざまな風景
Feature Story「さまざまな愛の形





various_youth02.jpg 沼野 充義(ぬまの みつよし)
1954年、東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科を経て、ハーバード大学大学院修士課程修了。東京大学大学院人文社会系研究科・文学部教授。専門は現代文芸論、ロシア・ポーランド文学。文芸評論、翻訳、日本文学の海外への紹介にも積極的に取り組んでいる。著書に『世界は文学でできている 対話で学ぶ<世界文学>連続講義』、『世界文学から/世界文学へ』など。

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"Worth Sharing ―A Selection of Japanese Books Recommended for Translation"
「Vol.1 日本の青春 」で紹介している図書一覧


『インディヴィジュアル・プロジェクション』 阿部 和重
『ひとり日和』 青山 七恵
『桐島、部活やめるってよ』 朝井 リョウ
『青春デンデケデケデケ』 芦原 すなお
『すばらしい新世界』 池澤 夏樹
『ぎぶそん』 伊藤 たかみ
『ツリーハウス』 角田 光代
『ヘヴン』 川上 未映子
『由煕 ナビ・タリョン』 李 良枝
『風が強く吹いている』 三浦 しをん
『何もかも憂鬱な夜に』 中村 文則
『マークスの山』 高村 薫
『学問』 山田 詠美
『どんぐり姉妹』 よしもと ばなな
『「かわいい」論』 四方田 犬彦
『絶望の国の幸福な若者たち』 古市 憲寿
『下流社会』 三浦 展
『草食系男子の恋愛学』 森岡 正博
『「婚活」現象の社会学 ―日本の配偶者選択のいま』 山田 昌弘 編著
『学歴格差の経済学』 橘木 俊詔 松浦 司




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