日本における「アートとテクノロジー」の現在・過去・未来形

畠中実(NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]主任学芸員)

国際交流基金アジアセンターは、アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)と共催で、「メディア・アート」をはじめとした時代を牽引する革新的な技術による芸術文化の創造・発信を目指し、国際シンポジウム「"アート&テクノロジー"-時代の変遷、同時代の動向、これからのプラットフォーム-」を2016年7月9日に開催します。
これまで数多くのメディア・アートの展覧会を手掛け、本シンポジウムにもご登壇されるNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]主任学芸員の畠中実氏に、日本における"アートとテクノロジー"の変遷と現状、そして今後の展望についてご寄稿いただきました。

現在、私たちは、映像装置や音響装置、コンピュータやインターネット、そのほかさまざまなテクノロジーを使った芸術表現を多く目にすることができます。また、そうしたテクノロジーを駆使していろいろな分野で活動するアーティストも多くなっています。だから、アートとテクノロジーとは、とりたてて対立するもののように思うことはあまりないでしょう。その意味で、「アート・アンド・テクノロジー」という言葉に、かつてのような、別々の出自を持つと思われている異なる分野同士が協働することの、ある種の期待感のようなものを投影させていた時代とは異なる印象を持つかもしれません。
20世紀の美術は、これまでも社会との関わりにおいて、アートとテクノロジーの恊働を展開してきました。それは、テクノロジーを直接表現手段として使用することにとどまらず、技術やそれによって作られる社会に触発されて生まれた表現や、工業技術から生まれた新しい素材をとりいれるなど、その影響関係は広範囲におよびます。たとえば、20世紀には未来派やポップ・アートといった動向が、テクノロジー化する現代社会に反応して現れたように、アートとテクノロジーとは、互いに影響を与えあう関係でもあったのです。
日本におけるテクノロジー・アートは、1950年代より音楽、美術、文学、演劇などを出自とするメンバーからなり、新しいテクノロジーを表現に取り入れることを行なった、実験工房の活動を嚆矢として、60年代、おもに日本の高度経済成長後期から、1970年に大阪で開催された日本万国博覧会へといたる期間に台頭しました。また、メディア・アートへと継承される動向は、70年代後半ころからのヴィデオ・アートに始まり、80年代後半以降、ヴィデオやコンピュータ・グラフィックスの隆盛、パーソナル・コンピュータの普及などを背景として準備されていきます。

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日本万国博覧会でのペプシ館とロバート・ブリアによる作品《フロート》(1970/2003年)の再現展示。「E.A.T.─芸術と技術の実験」展(2003年)
撮影:高山幸三 写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

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岩井俊雄《アナザータイム,アナザースペース》(1993年)
「オープン・スペース」2006年展示風景
写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

そして、90年代中頃には、海外での動向も含め、メディア・アートが新たな芸術潮流として注目されるようになっていきます。それは、パーソナル・コンピュータの処理速度の向上と通信環境の整備などにともなう、いわゆるマルチメディア時代の到来が大きな要因となっていました。そうした流れから、たんに鑑賞するだけではなく、作品が観客の介入によって変化する、体験/参加型アートとも言われる、インタラクティヴ・アートが、メディア・アートを代表する特徴とみなされるようになりました。また、90年代後半には、コンピュータ・サイエンスの可能性と創造性がメディア・アートの領域に応用されるようになり、ヴァーチュアル・リアリティ(VR)による人工現実感の研究や、アーティフィシャル・ライフ(人工生命)による生命のシステムなどの研究が進められ、それに附随したメディア・アート作品が多く海外から紹介されました。
そのように、日本のテクノロジー・アートは、新しい技術の登場と伴走して、そのつど新しい動向を生み出してきました。たとえば、インターネットの登場以後も、ネット・アート、ソフトウェア・アート、といったネットワーク上で展開される動向が生まれています。ゆえに、同時代の美術の主流としては認識されにくく、一過性の流行のようにとらえられてきたことも否めないでしょう。しかし、現在では、コンピュータや周辺技術の性能の向上と低価格化が急速に進み、メディア・アート作品の印象も変化しています。インターネットの全世界的な普及と一般化などのメディア技術の浸透度の高まりを背景に、「ポスト・インターネット・アート」が台頭し、また、3Dプリンターやレーザーカッターなどの普及に伴うデジタル・ファブリケーションの動向などは、メディア・アートにとどまらず、デザインや現代美術の領域でも展開されるものとなっています。また、エンターテインメント分野への展開なども多く行なわれ、より広範囲な表現を守備範囲とした動向へと広がっています。さらに現在では、バイオ・テクノロジー、宇宙開発技術など、これまで芸術の範疇にとらえられてこなかったさまざまなテクノロジーが、アートとの接点をもとうとしているのです。

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《Perfume WORLD TOUR 2nd intro》
「ライゾマティクス inspired by Perfume」展(2013年)
撮影:木奥恵三 写真提供:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

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畠中 実(はたなか みのる)
1968年生まれ。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC] 主任学芸員。多摩美術大学美術学部芸術学科卒業。1996年の開館準備よりICCに携わる。主な企画には「サウンド・アート──音というメディア」(2000年)、「サウンディング・スペース」(2003年)、「サイレント・ダイアローグ」(2007年)、「可能世界空間論」(2010年)、「みえないちから」(2010年)、「[インターネット アート これから]―ポスト・インターネットのリアリティ」(2012年)など。ダムタイプ、明和電機、ローリー・アンダーソン、八谷和彦、ライゾマティクス、磯崎新、大友良英、ジョン・ウッド&ポール・ハリソンといった作家の個展企画も行なっている。

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