雑誌『をちこち(遠近)』
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ジャポニスム2018 (Vol.1)

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cTadao Ando (2017安藤忠雄建築展会場)

安藤忠雄 ジャポニスム2018

安藤忠雄

 西側諸国から見ると、日本は東洋のなかでも最も東の端に位置します。かつてヨーロッパ人は、東の果てに存在する文化国家に神秘性を感じ、強い関心を持ちました。
 マルコポーロは「東方見聞録」で日本を「黄金の国」と紹介しましたが、西洋社会がこの国に強い興味を持ったのは、その文化の独自性によるものだと考えます。
 文化というものは、生きるためのエネルギーです。新たなる価値を創造し、人生を奥深く豊かにするものは文化の力に他なりません。国際社会では、経済の力の方が目に見えやすいですが、文化の持つ力は本来、経済よりもはるかに大きなものです。
 近世までの日本人は、四季の変化に富んだ美しい自然の中で、きめ細やかな感性を育んできました。このような土壌から、江戸末期には歌舞伎、文楽、浮世絵など、庶民の生活に密接した様々な文化を生み出し、世界でもまれに見る大衆文化国家となったのです。こういった日本独自の美意識は、モネに代表される印象派の画家をはじめ、西洋の芸術家に大きな影響を与えました。
 文学においても、日本は独自の文化を発展させました。松尾芭蕉に代表される俳句の世界は、5・7・5という極限の制約の中で、美しい自然の光景や奥深い人間の情緒を表現する、日本人特有の感性が生み出したものです。
 フランスでは、こういった日本の芸術文化はジャポニスムと呼ばれ、人々の関心を集めました。もちろん芸術の国フランスの文化もまた、日本の芸術家たちに多くの影響を与えて来ました。日仏の文化交流は両国の文化発展に大きく貢献しながら、現在まで続いています。
 そして今年、日仏友好160周年を記念し、「ジャポニスム2018」がパリで開催されます。この機会に合わせて、10月より、ポンピドーセンターで展覧会を開くことになりました。展覧会では、直島や、光の教会などの展示を行います。
 直島での取り組みは、単に美術館をつくるというものではなく、自然環境とアート、そして建築による地域のまちづくりです。瀬戸内海の離島である直島に行くためには、船を使わなければいけません。
 初めてプロジェクトの概要を聞いたのは1988年。当初はそのアクセスの悪さから、「こんなところに人は来ないだろう」と思いましたが、今では年間40万人以上が訪れる「芸術の島」として世界中で有名になりました。
 30年にわたり、島のまちづくりに関わり、建築をつくってきましたが、瀬戸内の風景を壊さないよう、自然に埋没する建築というコンセプトを一貫して守ってきました。合理性や利便性とはかけ離れた条件だからこそ、「ここでしかできない建築」を実現できたのではないかと思います。
 ここでは日常生活から離れて、生きているということについて思索をめぐらすことが出来ます。自然とともに生きてきた日本の美意識から多くを学びながら、建築と芸術、そして自然が一体となった環境づくりを目指しました。
 光の教会では、日本の伝統建築でも古くからテーマとされてきた「光と闇」について、自分なりに考えました。光や闇は、人間の生命の根源であり、それらを利用して「魂の拠り所となる建築」をつくることが出来ないかと考えました。
 打放しコンクリートの単純なボックスに穿たれた十字架から差し込む光によって、時間の経過とともに空間は刻一刻とその表情を変化させます。光の十字架を輝かせるのは、深い闇の存在です。その闇の中で、光を道標にして人々は祈り、心を一つにします。光を求めて人々が集まり、光を頼りに対話を重ねる場をつくる。それはある面で力強く、またある面で儚さをもった空間です。
 展覧会では、これらの仕事を通して、ここにしかない建築、ここにしかない空間をつくるプロセスを紹介したいと思っています。

 思えば、はじめてパリで展覧会を開いたのは1982年、IFA(Institut Francais d'Architecture) でのことでした。あれから36年の年月を経て、この記念すべき年に、再びこういう機会に恵まれたことを、大変光栄に思っています。

japonismes_2018_01_02.jpg 安藤忠雄
1941年大阪生まれ。独学で建築を学び、1969年安藤忠雄建築研究所設立。代表作に「光の教会」「フォートワース現代美術館」「プンタ・デラ・ドガーナ」など。79年「住吉の長屋」で日本建築学会賞、95年プリツカー賞、
05年国際建築家連合(UIA)ゴールドメダル、10年文化勲章など受賞多数。97年から東京大学教授、現在名誉教授。00年、瀬戸内海の破壊された自然を回復するための植樹活動「瀬戸内オリーブ基金」を設立。11年「桃・柿育英会 東日本大震災遺児育英資金」 実行委員長。

福原義春 「ジャポニスム2018」に期待する

パリ日本文化会館・日本友の会
会長 福原義春

 文化の定義は無数にあると言われるが、私自身は芸術と文化について次のように考えてきた。
 「文化とは、人間が古来より持っていた"より良く生きよう"という思いの産物であり、良い生き方を求める人間の、創造的な行為の過程と産物である」
 その国の自然や風土の上に人間生活があり、より良い生き方を追求してきた歴史が積み重なって国ごとの固有の文化が成立する。それをきちんと受け継いで、自分の世代で磨きをかけ、次の世代に手渡す。このようなサイクルを回し続けることが出来れば、豊かで競争力のある力強い国家を作り上げることと、国民一人ひとりの幸福を同時に成立させることが可能になるはずだ。
 もはや経済が人間に優先する時代は終わった。人類の発展は、文化を抜きにして語れない。世界のどんな民族・国家も、いまこそ文化の重要性をもっと認識し、文化を中心に据えて未来社会をデザインすべきだ。
 そのことを世界で最も深く理解しているのが、文化大国フランスだ。文化力は、民族や地域固有のものが別のものと衝突する際に大きくレベルアップするが、フランスは欧州の古典様式の上にイスラムの影響を受けた文様を発達させたり、さらにはルネサンスの輝きを巧みに取り入れたりしてきた。19世紀にはジャポニスムという東洋の異文化を積極的に消化し発展させ、アールヌーボー、アールデコの盛隆へと進んでいく。明治維新後の日本の芸術文化はフランスから大きい影響を受けたが、そのフランス文化の土台には浮世絵など江戸文化の影響があったという具合に、特に日仏間の文化交流は一方通行ではなく、寄せては返す波のように発信と受容を繰り返しながら、互いを新たなる高みに押し上げてきた幸福な関係と言えるだろう。
 日仏友好160年という記念すべき年に、フランスを起点として新たな日本文化のムーブメントを起こそうというのが「ジャポニスム2018」という試みである。交通や通信の発達とともに世界は急速に狭くなり、伝統と革新が共存する日本文化は世界に影響を与えている。この時代に、現代の日本は欧州文化の中心地であるフランスにどのようなインパクトを与えることができるだろうか? その波はすぐに欧州全域に広がり、さらには海を越えて押し寄せ、日本の新たな発展の起爆剤にもなる。「ジャポニスム2018」という試みは遠い異国の話ではなく、人類が近未来の世界地図を描く第一歩になるはずだ。ここで蒔かれた種が次世代に美しく大きい花を咲かせることを心より願っている。

japonismes_2018_01_03.jpg 福原義春(ふくはら よしはる)
1931年東京生まれ。1953年慶応義塾大学経済学部を卒業し資生堂入社。社長・会長を歴任し2001年より名誉会長。同社のグローバル展開を導くと同時に、文化芸術振興にも積極的に取り組む。現在、文字・活字文化推進機構会長、東京都写真美術館名誉館長、企業メセナ協議会名誉会長など多くの公識に従事する。『企業は文化のパトロンとなり得るか』(求龍堂)、『メセナの動きメセナの心』(求龍堂)、『美』(PHP研究所)など著書多数。

片川喜代治 ジャポニスム2018開催にあたって

在仏日本人会会長 兼 ジャポニスム2018応援委員会会長
片川喜代治

1978年に総合商社の駐在員としてパリに赴任。その後、ロンドンとハンブルグに移動はしたが、常にパリにての役職も兼任していたので、今年で在仏40年という節目を迎えた。そこに、「ジャポニスム2018:響きあう魂」という歴史的取り組みが企画され、なんと私はついているのかと思った次第である。
日本の文化は人の魂に作用するとかねがね思っており、視神経で把握したままに理解することは難しい。私はキノタヨという現代日本映画祭を当地で12年間主宰してきているが、映画でその物語や役者に感情移入しすぎると、その物語が終わるとき心を抉られたような感覚に襲われる。一種の喪失感である。パリ市内を中心に20超の会場で繰り広げられる展覧会や文化イベントで、いかに観客をして、感情移入をさせるかは重要な課題である。そのためには、あらゆる手段を講じて各イベントの知識と意味を人々に知らしめ、前提知識を持たせ、感情移入がたやすくなるようにする必要がある。本会では、去る1月の理事会で「ジャポニスム2018応援委員会」を設立。私自らが指揮を執ることにした。どうやって人々に感情移入をさせて魂に響くようにするかを、皆で考えながら側面からイベントの成功を応援していこうとするものである。2018年2月現在、法人会員と個人会員は合わせて、2000世帯。約6000人が会員である。これらの会員全員がジャポニスムの広告塔となり、同僚・隣人・友人の日常を共にするフランス人の魂にそれを響かせ、一人でも多くジャポニスムの世界に踏み込むように導きたい。従い、本会のサイト・ニュースレター・会報等を通じて各イベント内容を随時案内してゆく。恒例の5月に行う「希望祭」は、東日本大震災がきっかけで始めた義援金活動で、チャリテイバザーとなっているが、昨年は、4000人を超える訪問者で賑わった。「希望祭」は訪問する人々を一挙にジャポニスムの世界に導くまたとないチャンスであり、ジャポニスムの特別スタンドを設営することやハッピやTシャツを使うことを含め最大限にこの祭りを活用することで進めている。本会では約60に上る各種活動を行っており、それら一つ一つの活動においても、ジャポニスムをいかにフランス人に伝えるかの検討が始まっている。この一大イベントに生で関与できることに感謝し、これ以上なきほどの感情移入をし、8か月後にジャポニスムが終わった時、日仏関係は劇的に跳躍し、何とも言えない喪失感に襲われていることを願ってやまない。

パリ2018年2月28日

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片川喜代治
1947年生まれ。静岡県吉田町出身
1969年早稲田大学第一商学部卒業
1992年~98年フランストーメン社社長
1998年~2006年トーメン欧州・中東・アフリカ総支配人
2006年~2009年船井電気ヨーロッパ社長
2009年~Vin Passion Group会長兼VP Wines France代表
2012年~(株)ネイキッド社長顧問

2003年~2005年在仏日本商工会議所会頭
2003年~2017年在仏日本人会副会長
2017年~在仏日本人会会長
2006年~2011年キノタヨ現代日本映画祭協会発起人兼副会長
2012年~キノタヨ現代日本映画祭協会会長
2012年~日仏経済交流会副会長
2006年~2011年キノタヨ現代日本映画祭協会発起人兼副会長
2012年~キノタヨ現代日本映画祭協会会長
2012年~日仏経済交流会副会長

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