雑誌『をちこち(遠近)』
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私たちが考える「グローバルに働く」ということ

◇スピーカー
草薙直基(認定NPO法人かものはしプロジェクト 広報・ファンドレイジング担当)
栗田佳典(認定NPO法人テラ・ルネッサンス 啓発・人材育成チームマネージャー)
濵田真里(「なでしこVoice」代表、株式会社ネオキャリア 海外事業部、
「ABROADERS」編集長)

「海外を舞台に働いてみたい」「日本と外国をつなぐ仕事がしたい」「国際協力の活動に携わりたい」――。グローバルなフィールドを同じ目指すのでも、その選択理由もアプローチも一人ひとり違うはずです。そこで「世界を変えるグローバルキャリア」と題し、過去の「国際交流基金地球市民賞」受賞団体の中からかものはしプロジェクト(2011年受賞)の草薙直基さんとテラ・ルネッサンス(2012年受賞)の栗田佳典さん、スピーカー兼モデレーターとして「なでしこVoice」代表で「ABROADERS」編集長の濵田真里さんを迎えてトークセッションを開催。これから就職や将来について考える若い世代の方々を前に、グローバルなフィールドで活動する3方に思う存分、自らの経験やモチべーション、ビジョンなどについて語っていただきました。

2016年2月17日 国際交流基金 JFICホール[さくら]でのトークセッション「世界を変えるグローバルキャリア」より

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私たちの「活動の原点」についてお話します

濵田 今日は「グローバルキャリア」をキーワードに、ざっくばらんにトークを進めていきたいと考えています。それでは最初に、各自のバックグラウンドと現在の活動についてお話します。

私が活動の柱にしていることは主に3つです。Webサイトの「なでしこVoice」で海外に出て働く日本人女性のリアルな声を発信、「ABROADERS」ではアジアを舞台に活躍している日本人の声を発信。そして3つ目が、海外で働くことについてのコラムをはじめとする執筆活動です。

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濵田さんが「なでしこVoice」立ち上げの理由を語る。

「なでしこVoice」を始めたのは2011年。立ち上げのきっかけは大学2年の秋に出合った1冊の本でした。マイクロソフトの重役のポストを捨ててNGO団体ルーム・トゥ・リードを設立したジョン・ウッドさんの著書『マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になった』です。私はこの本を読んで知らないことだらけの自分に気づき、世界の現状を知らずにいると今後の人生にマイナスではないかと強く感じました。とにかく自分の目で見てみよう――。そう決意し、大学を休学して一人で世界一周の旅をしたんです

訪れた国は22カ国です。その内6カ国で教育支援や下水道整備などのボランティア活動をし、「生き方は人それぞれ。海外で働くという選択肢があっていい」と実感して帰国しました。それが、就職活動を始めるにあたり海外で働く女性の情報を探してみたものの、ほしい情報が見つからなかった。ならば自分でWebサイトを作ろうと思い立って、「なでしこVoice」を立ち上げました。

以来ずっと現地取材で海外を飛び回っていますが、この4月からついに海外に移り住むことにしました。マレーシアを活動拠点に現地で働く人々を取材し、コミュニティを作って、自分自身も海外で働く存在として発信を強化させていきたいと思っています。

草薙 僕が所属するかものはしプロジェクトは、インドとカンボジアでだまされて売られる子どもたちを守る活動に取り組んでいます。カンボジアでは生活雑貨を手作りする工房を運営し、貧困層の女性に仕事と収入を提供することで、だまされて売られる危険を防いでいます。インドでは2012年に活動を始めました。現地のNGOと提携し、少女をだまして売春宿に売り飛ばすトラフィッカーと呼ばれる人身売買業者の有罪判決率を上げる活動に取り組んでいます。

僕は子どもが売られる世界の現状を日本で伝えるための講演活動をメインに担当していますが、かものはしプロジェクトに入職してまだ2年です。大学卒業後は、一般企業に就職しました。でもその会社に数年勤務した段階で、自分が本当にやりたいのはこの仕事だったのだろうかと、ふと疑問を感じたんです。すると、学生時代に経験したベトナム旅行の記憶が甦ってきました。

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大学2年時の海外旅行での体験について話す草薙さん。

ベトナム人留学生である友人の帰省に同行させてもらった時のことです。着いてまず驚いたのは、友人の実家が5階建ての立派な建物だったこと。彼は大富豪の息子だったわけです。ところが、道を1本隔てた向かい側には粗末な家が建ち並んでいる。僕の目に留まったお母さんと赤ちゃんは、ご飯を十分に食べられていないことが明らかなほど痩せ細っていました。

その母と子の姿は、帰国したあとも頭から離れませんでした。彼らはベトナムの貧困層に生まれたがゆえに、ご飯を満足に食べられない生活を強いられている。一方、日本の東京という都市に生まれた僕は、食べるに困らず生きています。生まれ育った環境が違うだけで、生活に大きな開きができる。このアンフェアな現実をなんとかしたい。そう当時の僕は考えました。

一般企業に就職し、サラリーマン生活を送る中で、一旦は学生時代に抱いた思いを忘れてしまったことは確かです。でも自分とじっくり向き合った時に、本当にやりたい仕事を考え直すことができました。そして、かものはしプロジェクトと巡り合って今に至っています。

栗田 テラ・ルッネッサンスは2001年に京都で誕生した団体で、地雷・子ども兵・小型武器の3つの課題に取り組んでいます。活動の場はアフリカのコンゴ、ウガンダ、ブルンジ、アジアではカンボジアとラオス、ここ日本の計6か国です。それぞれの国によって課題は異なっていて、たとえばカンボジアでは地雷撤去、ラオスはクラスター爆弾撤去の支援、さらにそこに住む貧困層の人々への開発支援も行っています。アフリカで取り組んでいるのは、誘拐されて無理やり兵士に仕立てられる子ども兵の問題です。彼らは自力で逃げ帰る、あるいは政府軍に助け出されて帰ってきますが、自分の力で生活を取り戻すことがなかなかできません。テラ・ルッネッサンスは、そんな元子ども兵への支援を行っています。

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栗田さんは学生時代に途上国の貧困問題に関心を持ったという。

私は静岡出身ですが京都の大学に進学し、北欧の福祉政策を学びました。でも、世界のいろいろな課題を勉強していく過程で関心を持ったのは、福祉制度が未整備な途上国の貧困問題でした。中でも一番ショックだったのが、テラ・ルネッサンスが取り組んでいる子ども兵の課題です。

ウガンダで内戦が始まったのは1980年代です。紛争というと過去のイメージがあったけれど、自分が大学生の時にも現在進行形で起きていて、同世代の人たちが実際に紛争を経験している。その事実を初めて知り、「もっと知りたい」「現実をたくさんの人に伝えたい」という思いから、テラ・ルネッサンスにインターンとして関わり始めました。大学卒業後、そのままテラ・ルッネッサンスに就職し、現在は国内で事務局を運営する仕事や教育機関での講演など啓発活動を担当しています。

皆さんの「聞きたい」「知りたい」ことに答えます

Q1.どんな学生時代を過ごしていましたか?

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参加者にも質問を投げかける濵田さん。

濱田 トークセッションを開催するにあたり、皆さんから事前に質問を募りました。ここからはその質問に答える形でトークを進めていきます。学生の方が多く参加していることもあって、大学時代に何をしていたかという質問をたくさんいただきました。

草薙 僕は大学でとにかくいろいろ勉強しようと思い、授業が終わると大学の図書館にこもって本を読むという生活を送っていました。年間で150冊ほど読んでいたので、2日に1冊のペースになりますね。

栗田 学生時代は、さまざまな人に会って話を聞くことをテーマに過ごしました。実際、いろいろな人の人生観に触れた4年間だったと思います。

濵田 私は大学に5年間在籍したのですが、前半の2年間はサークルを6つかけ持ちし、サークル活動に明け暮れる毎日でした。世界一周をした1年の休学期間を含め、後半は海外に行くことが多かったですね。「なでしこVoice」を立ち上げたのが大学5年目の時で、学生生活の最後は今の活動につながる下地を作った1年間だったと感じています。 ところで栗田さん、学生の時に志望していた職業は今の仕事につながっていますか?

栗田 はい。世界の国々が抱える課題を知るようになってから、伝える仕事をしたいとずっと考えていました。私が大学で専攻した産業社会学部人間福祉学科国際福祉コースは、伝えることについても学べる学科なんです。映画監督の是枝裕和さんが客員教授だったので、監督の授業を受け、伝える側の工夫を学びました。今、日本の子どもたちに平和について話をする機会があるのですが、平和の種を蒔くことが自分の仕事だと思っていますし、やりがいも感じています。

草薙 栗田さんと違って僕は、今の仕事に就くまで数年かかっています。学生時代は漠然と、研究をする仕事をしたいと思っていました。でも現実的ではないと考え、人材紹介会社に就職したんです。その会社に約4年勤務した後、仲間と飲食ビジネスを立ち上げたものの、1年で手を引きました。そこで自分を見つめ直したことによって、かものはしプロジェクトと出合ったんです。

濵田 私はカンボジアで働きたいと思っていたんですよ。でも現地の情報が手に入らないから自らカンボジアに飛んで、そこで働いている日本人に話を聞いて就職活動をしました。現地に足を運んでみて思い知らされたのは、今の自分はこの国で何の役にも立てないという事実。それを痛感して、まずは自分に何ができるか日本の企業で働くことで見つけようと考え、1度切りの新卒チケットを使ってIT系の会社に営業職として入社しました。
ただしずっとその会社で働くつもりはなく、就職してからも「なでしこVoice」の活動は続けていたんです。結局、1年で退社しました。その後はフリーランスとして発信を続け、「ABROADERS」の編集長を任されることになります。海外とつながりながら情報を発信するというのが学生時代からやりたかったことです。今、それを自分が望む形で実現できていることに幸せを感じます。

Q2.国際協力に関心を持ったきっかけは何ですか?

濵田 次の質問に移ります。国際協力活動に興味を持ったきっかけを教えてください。

栗田 私は生まれつき心臓病を抱えていて、中学2年生の時に手術をしたんです。心臓にメスを入れられることがすごく怖くて、「死」を初めて意識しました。その時に、命は決して当たり前にあるものではないと強く実感したと同時に、もう一つ感じたことがあります。幸い私は、手術を乗り越えることができました。それは、支えてくれるたくさんの仲間がいたおかげです。今まで人に支えられる人生を送ってきた。これからは誰かを支える人生を歩んでいきたい。中学生の時に抱いたその思いが、今の活動のベースになっています。

草薙 きっかけはべトナムでの経験です。加えて、たとえばフローレンス代表の駒崎弘樹さんなどの著書から、NPOを発足した人の考え方や働き方を知ったことも大きかったと思います。

濵田 私が国際協力に興味を持ったそもそものきっかけも、先ほどお話したように本ですね。本を読み、現状を知りたくなって行動を起こしました。現地に行くと、その国にも知り合いができます。私の場合は彼ら彼女らのために何か力になることをしたいという気持ちが芽生え、いろいろな団体の国際協力活動に参加するようになりました。

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国際協力に関心を持ったきっかけを話す草薙さん。

Q3.グローバルに働くとはどういうことですか?

濵田 では3つ目の質問です。「グローバル」は今日のテーマでもありますが、定義づけをするのが難しいですよね。ご自身の活動を踏まえると、グローバルに働くとはどういうことだと考えますか?

栗田 グローバルに働くというと海外での仕事といったイメージがありますが、国際協力団体にとっては日本も大切な「伝えるべきフィールド」です。今、食べ物も衣料品も必ずどこかで海外とつながっています。先進国で暮らす私たちのライフスタイルは、途上国の貧困問題の一因でもあると思うんです。私たちのライフスタイルが変わっていけば、現地の問題を解決することができるかもしれない。日本で貧困問題の解決に取り組むこともまた、グローバルな活動と言えるのではないかと思います。

草薙 海外で働く上で重要なのは、先入観に捕らわれず、その国の文化がどういう背景で生まれたのかを考え、理解する姿勢ではないでしょうか。多様性を受け入れ価値観を変えながら従事することが、グローバルに働くということなのかなと僕は考えています。

濱田 実際に海外で働いている人は「海外」が目的というよりも、自分はこんな仕事がしたくてカンボジアに来た、シンガポールで働いているというパターンがほとんどです。自分のやりたいことありきで選んだ場所がたまたま海外だった、それだけのことだよと。つまりグローバルに働くとは、必ずしも海外で働くことを意味するのではないと思います。

Q4.人生のテーマを見つけるには?

濵田 人生のテーマの見つけ方について、草薙さん、いかがでしょうか。

草薙 正直言うと、テーマを見つけたという感覚がまだありません。今の仕事にすごくやりがいを感じていて、自分にとって重要なステップではあるけれども、これから身につけたいスキルややりたいこともたくさんあって、それらを一つ一つ消化していこうと思っているんです。僕はそうやって1段ずつ階段を上がっていく中で、人生のテーマを見つけていきたいと考えています。

栗田 実体験が大切だと思います。現場での五感を使った体験が、私のモチベーションになっていることは間違いありません。ウガンダへ元子ども兵の支援に行った時のことですが、赤ちゃんを抱いた女性がいたので「いつ生まれたのですか」と聞いてみると、「昨日、生まれました」と教えてくれました。かつて子ども兵だった彼女に赤ちゃんがいるということが、たまらなく嬉しかったですね。自分が取り組んでいる支援活動は新しい命の誕生につながっていくのだと、強く実感しました。その実体験があるからこそ、私は子ども兵の問題をなくすための活動をしている。現場での生の経験は大事です。

濵田 運命の人との出会いは、ロジックを立てて行動すればできるというものではないと思います。人生のテーマも一緒。「見つける」というより「出会う」もの。少なくとも私は、自分が使命だと感じている発信する仕事に巡り合ったと感じています。
2012年、ジャーナリストの山本美香さんがシリアで取材中に亡くなりましたが、私はその7カ月前に「なでしこVoice」で山本さんにインタビューをしたんです。取材を終えて彼女と別れる際に、手を握って「私も美香さんのように発信する仕事をしていきたいです」と伝えました。そう約束したから私は、IT企業を1年で辞めたんです。やはりロジックでどうにかなるわけではなく、出会ってしまうものだと思う。そして、その出会いを心に焼きつけて、自分の人生に生かしていくことが大事です。

栗田 私の究極の夢は、自分の仕事を失うことです。国際協力というものが必要とされなくなる社会を作りたい。言うなれば私は、仕事を失うために仕事をしているようなものかもしれません。

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自身の究極の夢を語る栗田さん。

これからのキャリアを考える皆さんにエールを送ります

草薙 仕事探しを始めると、自分はこれからどうしていけばいいか悩むこともあると思います。でも、焦ることはないのでは、という気が僕はします。大学卒業後、働く期間は40~50年もあります。その間にやりたいことを見つけて一つずつクリアしていくというステップは決してつまらないことではないですし、そういう積み重ねが大事だと思います。皆さんにも、自分の好きなことを大事にしながら1歩1歩やりたいことに近づいていっていただけたら、嬉しいです。

栗田 これは私の持論ですが、あまり遠回りをする必要はない気がします。NPO法人の求人情報には「社会人経験3年以上」などと書かれている場合がありますが、新卒で応募してもかまわないと思います。重要なのは社会人経験でも技術でもなく、その団体が取り組んでいる活動への共感度。皆さんが自分の思いを大切に更なるステージに上がっていくことを応援しています。

濵田 よく「濵田さんはどんなロールモデルがいいと思いますか」と聞かれます。正直、今やロールモデルはいらない時代ではないかと私は思います。ロールモデルとされる人の姿を追いかけるのではなく、自分がなりたいと望む姿を思い描いて、自分が今できることをクリアしていく。自分自身のロールモデルを目指すと、幸せな生き方に近づけるのではないでしょうか。海外で働いている人たちは道なき道を行くので、皆さん、自分軸で生きています。それはとてもハッピーなことですから、ぜひ参考にしてみてください。今日はありがとうございました。

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参加者は名札を付け、参加者同士で自己紹介したりトークの感想を交換したり、活発な交流が行われました。

国際交流基金JFICライブラリー所蔵の「世界を変えるグローバルキャリア」に関連する書籍展示。

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(編集:斉藤さゆり/撮影:相川健一)

global_career_10.jpg 草薙直基(くさなぎ なおき)
大学卒業後に人材紹介会社にて法人営業を担当したのち、退職して飲食事業の立ち上げに携わる。その後、学生時代にベトナムへ行った際に抱いた「世界の不均衡な現実をなくしていきたい」という思いから、認定NPO法人かものはしプロジェクトに入職し、現在は日本事業部で広報・ファンドレイジングを担当。また、子どもが売られる問題をなくすためにできることを多くの人々と共有するために講演活動を行う。

global_career_11.jpg 栗田佳典(くりた よしのり)
「誰かを支える仕事をしたい」という志を抱き、立命館大学で福祉を学ぶ。在学中に世界の貧困問題、特に子ども兵の問題に強い関心を持ち、3回生時にテラ・ルネッサンスにインターンシップ生として参加。主にウガンダでの元子ども兵社会復帰支援事業の国内担当として、ウガンダ出張を重ねながら、支援者への報告書作成、映像編集を担当。1年半のインターンシップを経て、大学卒業と同時にテラ・ルネッサンスの職員に。

global_career_12.jpg 濵田真里(はまだ まり)
早稲田大学3年次に1年間休学し、6カ国でボランティアをしながら世界22カ国を旅する。在学中に世界で働く日本人女性のインタビューサイト「なでしこVoice」を立ち上げ、これまでに海外で働く500名以上の日本人を取材。大学卒業後は通信事業会社、編集事務所を経て、現在は「なでしこVoice」代表。また、株式会社ネオキャリアの海外事業部に所属し、アジアで働きたい日本人を応援するサイト「ABROADERS」の編集長を務める。

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