雑誌『をちこち(遠近)』
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関西国際センターのもう一つの顔"日本語で結ばれた連帯の絆"

深沢 陽
国際交流基金
関西国際センター 副所長

熱気を帯びたリエイ氏のスピーチはいよいよクライマックスに達しようとしていた。研修の成果を具現するかのような正確で温かみのある日本語には、彼女の誠実な人柄が滲み出ていた。6週間前初めて関西センターに到着した時の不安。見知らぬ国から来た他の大勢の研修生との初めての出会い。関西センターで寝食を共にし、課題に取り組み、一緒に苦労を乗り越えてきたかけがえのない39人の友人達との別れを惜しみ、こみ上げて来る感情を必死に抑えていた。そして彼女は最後に、そのような素晴らしい機会を与えてくれた国際交流基金への感謝のしるしに、14ヶ国語で「ありがとう」を贈りたいと言った。



彼女の音頭で、中国語の「ありがとう」、韓国語の「ありがとう」、の大合唱が始まった。勿論一人ずつしか参加していないベトナムやフランスやルーマニアなどの国からは一人ずつ、母国語による「ありがとう」が輪唱のように続いて行く。

関西センターは単に日本語の研修事業を行うところではない。勿論日本語の授業が基本ではあるが、東京や広島などへの研修旅行、和太鼓や茶道などの文化体験もあれば、小学校訪問や大学生との交流も行われる。そしてテーマ別に行われる現場インタビュー、その結果を分析してまとめた発表会を最後に開き、地元の人々からの厳しい質問攻めに耐えると、漸くコースは修了する。これは正に異文化体験である。

そして特にユニークなのは、こうした国際交流が英語ではなく日本語で行われる点である。日本語で行うことにより、研修生が接する日本人対象者は無限に広がるし、一方、日本人にとっては何と言っても話しやすいという利点があるので、議論の内容が自然に深まる。英語ではどうしても限定されがちな交流の層が拡大され、敬遠されがちな議題がいとも簡単に取り上げられることになる。 発表会を見ていると、外国人の視点から見た日本文化論にはいつも驚かされるし、観客の日本人からは率直な疑問や意見が出て来て非常に興味深い。関西センターは正に国際交流の実践の場である。それが日本語でできるという、ある意味で誠に贅沢な場所でもある。

関西センターの日本語教育のもう一つのユニークな点は、リエイ氏の感動的なスピーチにも関係している。それは日本語を学ぶという共通の課題の下に、様々に異なった国の人々が集まり、同じ釜の飯を食いながら苦労を分かち合い、お互いの理解を深める中で、次第に友情を育んでいく過程にある。研修生たちは研修が終われば直ちにそれぞれの国に帰ることになるが、日本で、日本語学習を通じて生まれたこの連帯のネットワークはその後も永く続いていくであろう。日本語という共通の目的を持っているので、またいつの日か再会する機会もきっとあるだろう。

苦労して日本語を学び、晴れて修了証書を手にした彼らは、そこで初めて、日本語だけでないもう一つの大切な宝物を手にしたことに気が付く。関西センターは毎年600人近くの研修生にこの連帯という贈り物を与え続けている。





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