日印友好交流年に寄せて~「人と人のつながり」をテーマに

2018年6月号

夫津木美佐子
ニューデリー日本文化センター

2017年は日本・インド文化協定発効60周年を記念し、両国首相間で合意された「日印友好交流年」でした。60年の年月は決して短くないものの、まだまだ近そうで遠い、日本とインド。私自身、2013年末にニューデリー日本文化センターに文化芸術交流担当として着任して以来、互いに理解し合うためには、単に一方的に見せるだけの日本紹介事業だけではなく、双方向性のある共同事業が必要だと強く感じてきました。インドが益々経済発展をしていくなか、日印の文化交流もまさに過渡期にあるのです。

この節目の年に、ニューデリー日本文化センターでは、「人と人のつながり」をテーマにさまざまな事業を実施しました。これまでインドと交流のある日本の公演団やアーティストとの縁を大切にし、持続性・発展性に焦点をあてる事業を通じて、インドにおける日本文化への理解を増進するとともに、日印友好の絆がより一層深まることを目的として実施した共同制作事業を紹介します。

日印両国の若手現代演劇劇団が作り上げた演劇公演

まずは、日本の劇団「範宙遊泳」とインドの劇団「The Tadpole Repertory」による『午前2 時コーヒーカップサラダボウルユートピア(This Will Only Take Several Minutes)』。The Tadpole Repertory の演出家ニール・チョードリさんと範宙遊泳の演出家山本卓卓さんが出会った2014年から、互いに交流を重ねた3年間。その集大成として、2016年12月から55 日間、範宙遊泳メンバーが寒く霧深いデリーに滞在して生まれたこの作品は、2017年2月にインド4都市(デリー、ムンバイ、プネ、ベンガルール)で上演され好評を博し、7月には東京で日本公演が実現しました。

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出演者:(左から)ピユシュ・クマール、田中美希恵、シャイク・シーバ、椎橋綾那、ビクラム・ゴーシュ、福原冠。

最初は言語の壁や習慣の違いから戸惑うこともありましたが、出会い以降、俳優同士はもちろん、制作関係者も含めた全員が対等な立場で、必ずお互いの気持ちを確認し合いながら、最後まで作り上げました。すでに書かれたものをベースにするというよりは、俳優も含めた即興やアイディア出しからストーリーが紡がれ、キャラクターが確立していきました。まさに現代に生きる我々の生活から浮かび上がったような作品で、だからこそどちらの国でも観客に身近なものと感じてもらえたようでした。国際共同制作が珍しいものでなくなってきた昨今ですが、二人の脚本・演出家がいながら、2つの劇団が苦楽を共にし、まるで別の1つの劇団になったような関係を築き上げることができたこのような公演は、それほど多くはないのではと思います。

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日本舞踊とインド伝統芸能とのコラボレーション公演

2017年日印友好交流年の締めとして行われたのは、現代の日本舞踊界を担う気鋭の舞踊家5名が流派を超えて結成した「五耀會(ごようかい)」(西川箕乃助さん、花柳寿楽さん、花柳基さん、藤間蘭黄さん、山村友五郎さん)と、邦楽器奏者(堅田新十郎さん、鳳聲晴久さん)、インド楽器奏者(シタール:ファテー・アリ・ハーンさん、タブラ:アマーン・アリ・ハーンさん)、そしてインド舞踊家(カタック:サンギータ・チャタルジーさん)により共同制作された舞台。本公演は、2016年に五耀會がインドを訪れたことから交流が始まり、2017年12月にインドで再会し、共同制作・上演しました。
どれも自身の国の歴史と伝統に支えられてきた芸能。それぞれの個性が強くぶつかり、相容れないのではという心配もありましたが、タブラのリズムで舞う『三番叟』、シタールの響きでカタックダンサーが天女を演じる『羽衣』、そして全員での『ラーマーヤナ』。古代インドの壮大な叙事詩を日印伝統舞踊で見事に表現した踊りと、リズムの取り方も音階も全く異なるインド楽器と邦楽器の合奏。日印アーティスト双方が互いに尊重し理解を深めた舞台に、デリー公演では、会場いっぱいのお客さんが総立ちで鳴り止まない拍手を送っていました。

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『三番叟』

『羽衣』

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『ラーマーヤナ』

インドで好評を博した本公演は、日本凱旋公演「印度の魂 日本の心 真夏の宵の競演」として2018年7月3日(火)、公益財団法人日本舞踊振興財団主催のもと、国立劇場(小劇場)で行われます。貴重な機会ですので、ぜひお運びいただければ幸いです。

Photo credit: One Frame Story

japan-india-friendly-exchanges_06.jpg 夫津木 美佐子(ふつき みさこ)
2009年国際交流基金採用。文化事業部生活文化チーム、経理部財務課を経て、2013年12月よりニューデリー日本文化センターの文化芸術交流分野担当として勤務。舞台芸術のみならず、映画上映や展覧会、ワークショップ等、日印文化交流に貢献できるよう日々邁進中。

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