雑誌『をちこち(遠近)』
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Vol.1 熱意と行動力だけで拓いた盆栽師の道

はじめまして。
小さな古民家に居を定め、盆栽を生業としている森隆宏と申します。
盆栽師。
愛好家や同業者が所有する盆栽の手入れを主な仕事としている職人です。
ひとつの街に一人いるかいないかのレアな存在。
そんな盆栽師の立場から、自分の経験を盛り込んだエッセイを綴らせていただきます。昨今盛り上がる盆栽の世界、興味を持っていただけたら幸いです。

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住宅街に建つ古民家はアトリエでもあり、ワークショップなどを開いています。

1979年生まれ、38歳。
「若いのに盆栽やっているの?」とよく言われます。
確かに盆栽界で生きる者としてはまだまだ若い。
現役の同業者で70代は珍しくないですし、愛好家も60代以上が多いです。

同業者の多くは、「家業」「身内に愛好家がいた」など盆栽を目にする環境で育ちます。しかし私の生い立ちに、盆栽と接した記憶はありません。

リクルートスーツを身に纏い、就職活動をしていた2001年。
新卒の就職が超氷河期と言われた時代。「IT文明の新時代を築き上げろ」とITビジネスが最高潮。
盆栽は皆目見当あたらず、私に「盆栽を生業とする」という選択など1%もありませんでした。

ではなぜ、盆栽の世界に?
就職活動の末に自己分析と将来像なるものが整理され、頭に浮かんだ「盆栽」という直感に根拠のない自信を持った結果、生涯の仕事とする揺るぎない決意が固まる、という嘘のような本当の話です。
当時の21歳にとって盆栽界は未知の世界で、勝手な思い込みからイメージを挙げ連ねていました。
「日本文化を武器に国内外で活動できる」
「手に職をつけて、定年なく働ける」
「自然とのつながりを持って仕事ができる」
「美意識の高い仕事」
「高齢化社会に向けて再び注目される」
「お金持ちの趣味」
などなど。

最後のひとつは、生涯の仕事と決めて盆栽を志す者としては不純な動機・・ ・・・・。

知識ゼロ、盆栽園の良し悪しもまったくわからない状態で、思いついた翌日から近隣の盆栽園を訪ね歩き、とある一軒の盆栽園の門を叩くことになります。

「こちらで修行をさせてください!」
当時50代前半の園主が営む茨城県ひたちなか市にある勝田光松園(平成27年夏、園主が急な病で他界し、現在は閉園)。

もちろん断られます。
高価な盆栽を扱うため、見ず知らずの若者を快く承諾してくれるはずもなく、今思うと無謀でした。
しかし、盆栽専門の本を読み、他県の園を歩き回り、再度惚れ込んだ盆栽園へ懇願に。

「本来なら大学を出てからじゃ遅い。でも、まだ一度も就職をしていないというなら何とかなるかな」
熱意だけは買ってもらうことができたのか、盆栽の道へ一歩足を踏み入れることを許されたのです。私はこの時、親方が口にした意味深な「一度も就職をしていないというなら・・・・・・」の一言にまったく意識を向けていませんでした。

「きれいに。ていねいに」
親方からの最初の教えでした。

仕事場や庭の掃除、雑草取り、雑用全てをきれいに。ていねいに。
盆栽に触らせてもらうまでに、確か4、5か月。昔は2、3年かかったという話も聞きますから、多少は現代に合わせてくれたのだと思います。

「盆栽は芸術」なんて考えは先の先。盆栽と共に過ごし、植物を知ること観察することに意識を集中させる日々です。

「5年間でも、5回の春しか経験できない」

植物は季節を通して美しい姿を見せ、私たちの心に豊かさを与えてくれます。
その植物を芸術の域まで育てながら、作り上げていくのが盆栽。
「育てながら」というのが、他の芸術作品とは異なるところだと思います。
枯らせてしまったら終わり。
樹齢100年の盆栽も、日々の積み重ねで出来上がってきたもの。
機械を使わず、人の手で時間をかけて育てたものを、世代を超えて受け渡していく。
それが、盆栽本来の姿であり、完成のない芸術と言われる所以です。

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日々の積み重ねによって作り上げていく芸術、それが盆栽。

「一度も就職をしていないならなんとかなるか」

初任給2万円、掃除、草取り、雑用。
限られた修行時代に、親方の一瞬一瞬の作業と植物を観察する姿勢を吸収する日々。
盆栽と同じく時間をかけて成長していくしかない盆栽師としての忍耐や素直に学び取る姿勢を持ち合わせていることが、必要とされていたのだと思います。

盆栽を始めてから17回目の春を迎えようとしています。
今年はどんな春になるのでしょうか。


bonsai_profile.jpg 森 隆宏(もり たかひろ)
盆栽師。1979年、東京都生まれ。常磐大学国際学部を卒業後、2002年より勝田光松園にて盆栽を修行。2006年に独立し、盆栽師として活動を開始する。2009年、由緒ある国風盆栽展で職人として手がけた作品が国風賞を受賞。2009~2013年、さいたま市大宮盆栽美術館の専属盆栽技師を務める。2013年、欧州文化首都2013コシツェに盆栽デモンストレーターとして、第8回世界盆栽大会(2017年開催)のさいたま誘致プレゼンテーションに盆栽師代表プレゼンテーターとして参加。2014年にはスロヴァキアの国際盆栽フェスティバルでもデモンストレーションを行い、2016年の国際園芸博覧会トルコ・アンタルヤでは日本政府出展の展示に盆栽専門スタッフとして携わった。現在、盆栽師の仕事に従事する傍ら、2013年に構えたアトリエ「盆栽もり」などで初心者向けワークショップを開く他、米カリフォルニアでも講習会を行うなど、国内外で盆栽の普及活動に取り組む。

盆栽もりHP http://bonsaimori.jp/
盆栽もりfacebook https://www.facebook.com/Bonsaimori/

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