雑誌『をちこち(遠近)』
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現代美術×インド農村地域の社会開発  「Wall Art Festival」の秘めた可能性

ニューデリー日本文化センター


経済発展めまぐるしいインド。高い経済成長率を背景に、急速に都市部を中心とした開発が進められています。2010年秋にはコモンウェルスゲームズ (Commonwealth Games、英連邦に属する国や地域が参加して4年ごとに開催されるオリンピックのような総合競技大会)を初めてホスト国として開催し、それに合わせて首都デリーの国際空港や地下鉄網も急速に整備されました。他方こうした華やかなニュースの裏で、経済発展の恩恵はまだ地方都市までには還元されていないのが現状です。十分なインフラ整備が進んでいないエリアも多く、子供たちが教育機会を得ることが難しいケースも少なくありません。

インド28州の中でも最貧州の一つとして挙げられるビハール州ブッダガヤ近郊にスジャータ村という小さな村があります。2011年2月19日から21日にかけて、この小さな村を舞台に日本とインドの現代美術作家が参加したWall Art Festivalが開催されました。2010年から始まり今年が2回目ですが、すべては日本の大学生有志がアルバイト代を貯めて村に学校を寄贈したことが始まりでした。「ニランジャナスクール」と名付けられたこの学校は、教育機会のなかったこの村のインド人青年がその運営に携わり、地元の方々の協力も得て現在では400人を超す生徒が通う地域の大切な拠点になるまでに成長しています。村の中での大切な場所として規模も大きくなるなかで、資金面や運営面での課題も徐々に表面化し、常にサポートしてくれてきた日本人学生たちと一緒になって、何ができるかを考えた時に出てきたアイディアが、このWall Art Festivalでした。

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インフラ設備さえも十分に整っていないインドの農村地域に、世界で活躍する現代美術のアーティストを招くというこの試みからは、ユニークな魅力が随所に感じられます。日本側のグループは学生を中心としたグループであり資金面での直接的な協力は困難でした。そこで彼らは「外部から村への関心を高め、それによって村の環境改善につながるきっかけとなるようなフェスティバルを開催できないだろうか」と考えました。インド国内には伝統的な壁画技法で知られる地域が多数あり、またこの学校ではお金は無くても白い壁面であればいくらでも提供できます。そこで学校の壁面をキャンバスに、壁画を描くフェスティバルという発想が生まれました。外部から村への注目が高まればそれは村人みんなの自信や誇りに繋がったり、フェスティバルを見にこの小さな村へ人がやってくるという直接的な効果もあります。

さらにこのプロジェクトの面白いところは、そのフェスティバルに世界的に活躍するレベルのアーティストを招いている点です。作家たちも、美しい風景の中で素朴で無邪気な村の子供たちとの共同制作できる環境に対して、積極的な関心を示して参加していました。

WAF2.JPGその中の一人、淺井裕介さんは昨年に引き続きの参加。彼自身、インドの伝統絵画に強い関心を示していて、今回の訪印に合わせてリサーチを計画していたほどでした。展示ではすべての壁面と天井をペインティングで埋め尽くし、床を藁で覆った部屋を作りました。子供たちと一緒になって、村の各地から採取した土をもとに絵具を作り、それを使用して描くことで壁画に土地の記憶を一緒に吹き込んでいます。


3日間の展覧会終了後には、プロジェクトに関わったアーティストをニューデリー日本文化センターに招き、アーティストトークを開催しました。デリー在住のインド人からは様々な質問や感想が寄せられましたが、中には「多くのインド人が近代化の中で伝統に背を向けている一方で、日本人がインドの伝統文化と出会い、それを自身の表現の中に取り込んで新しい形として発表している姿に感動した」という感想がありました。日本人のアーティストが発表したスジャータ村での経験に基づく作品が、インド人の誇りや伝統文化に対する想いを大いに刺激していたようです。

第3回目の開催は、すでに2012年2月の同時期で予定されているようです。また今回の報告会を4月以降日本各地で開催する模様ですので、お近くの方はぜひお立ち寄りください。

Wall Art Festival ウェブサイト
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