2018.12.26
言葉を生きるとは、どこまでも流れゆくことである。小説家にして詩人である多和田葉子が、2018年度国際交流基金賞の受賞挨拶のなかで語りかけていたのは、このことの静かな創造性であろう。彼女は、交流の「流」の字に目を留め、それに自身の、そして──彼女の近作の表題に因んで言えば──地球にちりばめられた他の作家たちの創作を重ねていた。凄まじい量と速度の情報の奔流が地球を覆うなかで、伏流のようにじわじわと、しかしあらゆる境界を越えて人々のなかへ浸潤し、いくつもの成分を含んだ沈殿物のように作品を生み出していく言葉の流れ、それを貫くのは気息(きそく)である。
2018.6. 1
西側諸国から見ると、日本は東洋のなかでも最も東の端に位置します。かつてヨーロッパ人は、東の果てに存在する文化国家に神秘性を感じ、強い関心を持ちました。 マルコポーロは「東方見聞録」で日本を「黄金の国」と紹介しましたが、西洋社会がこの国に強い興味を持ったのは、その文化の独自性によるものだと考えます。 文化というものは、生きるためのエネルギーです。新たなる価値を創造し、人生を奥深く豊かにするものは文化の力に他なりません。国際社会では、経済の力の方が目に見えやすいですが、文化の持つ力は本来、経済よりもはるかに大きなものです。
多和田葉子氏は1982年以来ドイツに生活の中心を置き、ドイツと日本の間で国と言語の境界を越えて自由に行き来しながら、詩と小説を書き続けてきました。日本語とドイツ語の両方で行われてきたその創作は、ドイツでも日本でも高く評価され、両国ですでに数々の権威ある賞を受けています。国や文化の壁を越えた真の相互理解の促進に貢献してきたその功績が称えられ、2018年度国際交流基金賞を受賞。受賞を記念して開催された講演会「言葉を運ぶ旅、探す旅」でのお話を基に、多和田氏にご寄稿いただきました。
2019.1.30
サンドラ・フィリップス氏は、米国のサンフランシスコ近代美術館において、長年にわたり日本の写真作品の収集・展示を積極的に行い、また著作や講演会などを通じて日本の写真を世界に広く知らせるとともに、日本の写真家を世界の写真史に組み込んできました。その多大な貢献により、2018年日本写真協会賞国際賞を受賞しました。2000(平成12)年度の国際交流基金芸術家フェローでもあるフィリップス氏の受賞を記念して国際交流基金で開催された講演会の内容をもとに、ご寄稿いただきました。