雑誌『をちこち(遠近)』
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北京:デザインで社会を変える―― サラ・ペイリンの眼鏡をデザインした川崎和男さん、中国で語る

北京日本文化センター
佐藤訓子


「デザインで社会を変えたい。」大阪大学大学院教授でデザインディレクターの川崎和男氏は、そんな情熱を持って、人工臓器や医療器具、日用品など、様々なモノのデザインに取り組まれています。中国では特に80年代生まれ以降を中心とする若い世代の日本に対する関心が高まりを見せており、特にデザインは注目度の高い分野だと言えます。北京日本文化センターは川崎氏が提唱するデザインの可能性を、発展著しいここ北京でも紹介したいと、同氏を北京にお招きし、当センター及び中央美術学院美術館にて講演会を実施しました。


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 「デザイン、社会を変える力」と題されたこの講演会で、川崎氏はまず、おもにかたちをつくることがデザインだと考えられがちな既成概念を打ち破るところから始められました。同氏は、デザインは自然科学から社会科学に至るまで幅広い領域にまたがり、各々の領域を繋げることで、人々の生活をよりよくするための機能を有していると主張します。同氏はまず、2023年には100億人に達するのではないかといわれている世界の人口に対し、水、食糧、電力の問題は、デザインが取り組むべき大きな課題だと言います。また、デザインは、人口ピラミッドのトップにいる1億人だけを相手にするのではなく、ピラミッドの底辺にいる人たちを相手にするべきだとして、Peace Keeping Design(PKD)というプロジェクトを提唱しています。


同氏は自分のからだに関わるモノ、実際に手掛けてこられたモノを例に、これまでの活動やその理念を紹介していきました。まず取り上げられたのが除細動器。実際にご自身の体の中に埋め込まれた除細動器の映像を見せながらのプレゼンテーションはインパクトがあり、観客の興味を引きつけました。同氏は28歳の時に交通事故に遭い、それをきっかけに人の外側だけでなく、内側をデザインされることを決意されたのだそうです。そして、今も開発に取り組まれている人工心臓。同氏がデザインした人工心臓の第1期のモデルは、カナダ・モントリオールの科学センターに、同センターが選ぶ「21世紀の夢」の1つとして貸し出し展示されているそうです。続いては、米国副大統領候補として出馬したサラ・ペイリン氏がかけていたことで、一躍川崎氏の名を世界中に知らしめることとなった眼鏡。川崎氏は、眼鏡はファッションであるだけでなく、医療器具でもあると言います。ねじを使わず、素材も工夫した同氏のメガネは軽くてかけやすく、1番軽いものは5グラムしかないそうです。


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こういったデザインに通じるのは、同氏の理念である「いのち、きもち、かたち」。デザイナーはかたちをつくり、それによって人を気持ち良くさせ、その命を繋げる、という考え方です。

さらに、こういった理念は国際貢献の分野にも広がります。1日5,000人とも言われるペースで死んでいく子供たちを1人でも救いたいという思いから、現在、同氏が提唱するPKDの取り組みは、ワクチン接種用の注射器というところから実現が始まっています。1度注射すると再利用できないよう、パッケージに仕掛けのある注射器をデザインし、発展途上国の貧しい子供たちに届けるべく努力しています。今回の講演会では、PKDの資金集めのために開発されている、i-phoneのアプリケーションも紹介されました。今後、液体ではなく、粉にして、鼻から吸うタイプのワクチンや、ワクチンの輸送手段など、ワクチンを巡ってのデザインが展開されていくそうです。

同氏は、講演会の締めくくりとして、岡倉天心の「美しいものと共に生きれば、美しく死んでいくことができる。」という言葉を紹介しました。そして、デザインがますます重要視されてきている中国の社会事情に触れ、「産業や経済のためだけでなく、国際貢献、安全に生きるためのデザインに注目してほしい。デザインを学ぶ学生には、社会貢献というデザインの働きについてもよく理解してほしい。」と話しました。

同氏が提唱するデザインを通じた社会貢献という考え方は多くの人々の共感を呼び、質疑応答は1時間にも及びました。また、中国のデザイン雑誌や科学技術系の新聞など、多数のメディアでも取り上げられました。これからも、同氏と中国のデザインを通じた交流が続いていくことを願ってやみません。




今回の講演会は、様々な分野で活躍する日本のトップランナーを中国にお招きし、講演会を通じて現代日本の多様な側面について中国の方々に理解を深めてもらい、交流の機会を提供することを目的として実施している「現代日本文化探索シリーズ」の第2弾として実施しました。第1弾ではアートディレクターの北川フラム氏をお招きし、アートを通じた地域の活性化についてお話しいただきました。第3弾はこちらも中国で関心の高い日本の「建築」をテーマに、世界から注目を浴びる新進気鋭のアーティストをお招きする予定です。


現代日本文化探索シリーズ 詳細(中国語)
第1弾 北川フラム氏 http://www.jpfbj.cn/newsC64.asp
第2弾 川崎和男氏 http://www.jpfbj.cn/newsC70.asp

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