マダガスカルと日本、伝統楽器の共鳴

北中正和
民族音楽評論家

7月下旬から15日間、マダガスカルの弦楽器ヴァリハの演奏家であり、歌手、作曲家、ヴァリハ研究家でもあるザンバ(本名:ジャン-バティスト・アンジアナリマナナ)さんが来日しました。日本各地で伝統的な楽器の演奏家や製作者と交流し、学生たちとのワークショップを行なったザンバさんにお話をうかがいました。

満月の夜は外に出てヴァリハを弾く


北中  ザンバさんはマダガスカルの伝統的な楽器をいろいろ演奏されます。中でも重要なのが国民的な楽器ヴァリハですね。見た目も音もたいへん美しい楽器ですが、日本ではあまりおなじみではないので、まずこの楽器のことから教えていただけますか。

ザンバ  共鳴胴が長い竹の筒でできています。昔は、弦も竹の皮で作っていましたが、現在は金属の弦を使います。胴と弦の間に駒を立てて調弦します。大きな楽器はストラップで肩にかけ、小さなものは脇に抱えます。体の前に突き出すように構えて、両手の指を使って弾きます。

北中  竹の弦は竹ならではの優しい響きがしますし、金属弦は高音の澄んだ音がハープのようですね。いま使われているのはエレクトリック・ヴァリハですか。


ザンバ  エレクトロ・アコースティック・ヴァリハです。各地の大規模なフェスティバルで演奏したとき、ステージのマイクでは楽器の音がうまく拾えませんでした。それでエンジニアと相談して、楽器にピックアップマイクをつけたんです。音の質を変えるためにではなく、うまく響かせるためです。これはヴァリハ・クロマチックといいます。伝統的なヴァリハで出るのは5音階だけですが、半音階も出るように改良したものです。

北中  ヴァリハはいつごろから使われている楽器なのでしょう。


ザンバ  歴史については諸説ありますが、マダガスカルの口承の文化によれば、1600年ごろにインドネシアかマレイシア系の商人がヴァディという楽器を持ちこんだのがルーツと言われています。それをもとに、マダガスカル人がマダガスカルに合うように変えていったようです。マダガスカルには竹がたくさん生えているので、筒も弦も竹の皮を使いましたが、竹の少ない南部には木の箱を共鳴胴にした同種の楽器があって、マロヴァニーといいます。昔はヴァリハの弦は多いものでも5本しかなかったのですが、今回わたしが持ってきたものは19弦です。

北中  もともとはどういう機会に演奏される楽器だったんでしょうか。


ザンバ  昔のマダガスカルでは老人が一日の仕事を終えた後にヴァリハを弾くことが多かったんです。火を囲むような形で、子供たちが集まって来て、ヴァリハを北東に置いて。まだ学校がない時代でしたから、子供たちは老人からヴァリハの演奏だけでなく、話を聞いて勉強したんですね。特に満月の夜によく演奏されたそうです。

北中  満月の夜というのは、宗教的な意味合いか何かがあったのでしょうか。

ザンバ  子供たちが外に出かけるのに、満月のほうが夜道が明るいから、両親も安心できたんでしょう。電気のない時代でしたからね。ヴァリハは満月のほうがよく響くと言われているんです。なぜそうなのか理由はわかりませんが、その言葉が印象に残っているので、わたしも満月の夜は外に出てヴァリハを弾くようにしています(笑)

北中  お祭りで演奏したり、王様に聞かせたりもしたんでしょうか。

ザンバ  そうですね。ヴァリハはマダガスカル人の日常生活にとけこんでいて、祖先崇拝の儀式や割礼の儀式でも使われていたという記録があります。王制時代にイギリスの使節がおみやげに手回し式のオルゴールを王様に持ってきたことがありました。オルゴールですから、もちろん決まった曲しか演奏できません。そこで王様は、「ではマダガスカル風のオルゴールを紹介しましょう」といって、大きなミュージック・ボックスを出してきた。手を1回叩くとある曲が流れる。2回叩くと別の曲が出てくる。イギリスの使節はそれを聞いて、いったいどういう仕組みになっているんだろうと不思議に思ったそうです。単にヴァリハの演奏家が箱の中に入っていたんですけどね(笑)。

日本の伝統楽器と
とまどいなく音を合わせられた


北中  今回は日本に来て、和楽器の演奏家や製作者とお会いになりましたが、どんな方に会われたのでしょう。

ザンバ  大阪では尺八の製管師の永廣 真山氏と演奏家の永廣 孝山氏のお家におじゃましました。伝統的な日本の家屋で素晴らしかったです。そこには女性の筝・三味線奏者の太田 道峰氏もいらっしゃいました。尺八がどういう工程を経て作られるのか、演奏方法、筝と共演するときの演奏方法、尺八の楽譜の読み方などを教わりました。尺八と筝が合奏するときは、特別な楽譜の読み方があるんだそうです。同じ曲でも流派がちがえば楽譜がちがうということもお聞きしました。京都では篠笛の森田玲さんのご自宅で、「さくら」の一部を教えていただいて、篠笛とヴァリハで合奏しました。わたしはマダガスカルの「マンギナザザ」という子守歌を教えて、一緒に演奏しました。そのあと、森田さんの教室で、篠笛の音の出し方、舌の使い方、息づかい、楽譜の読み方などを教わりました。神戸ではインドの笛を演奏する中川博志さんと共演しました。

北中  一緒に演奏してみてどんな印象を持たれましたか。


ザンバ  日本の伝統楽器の方たちと演奏して驚いたのは、ヴァリハと篠笛、ヴァリハと尺八、ヴァリハと筝が素晴らしく合っていたということですね。初来日なので日本の伝統的な楽器の専門家と一緒に演奏するのははじめてだったんですが、とまどいもなく音を合わせることができました。

北中  筝とヴァリハはどちらも共鳴胴に沿って張った弦を指で弾く点は共通していますね。

ザンバ  たしかに共通点もありますが、異なる点もあります。筝はナイロン弦、ヴァリハは金属弦、音域も筝のほうが低く、ヴァリハは鋭い高音が出ます。おたがい補完しあえるので、うまく合うんですね。一緒に曲を作るようなプロジェクトだと、どの部分に日本のリズムを入れ、どの部分にマダガスカルのリズムを入れるか、あるいはフュージョンしていくかなど、時間をかけてきちんと打ち合わせをしていく必要があると思いますが、今回は短いセッションを楽しみました。

北中  今回の交流を通じて特に印象に残ったことはどんなことでしょう。


ザンバ  すべて印象に残っていますが、まず音楽家として暖かく歓迎していただいたことがうれしく、感謝しています。それから楽器の加工についていろんなヒントをもらいました。いい音を出すために楽器をどう加工し、どう仕上げるかということです。特に日本では楽器の仕上げの技術が進んでいて、たとえば尺八の中にうるしが塗られていますが、ヴァリハも同じ竹という素材を使っているので、生かせるところがあるんじゃないかと思いました。音響技術の面でもヒントをもらいました。それから、街を見ていて、日本は敗戦や自然災害があっても、見事に復活できていることに感銘を受けました。文化遺産を保存する一方で、テクノロジーが進んでいることにも。

北中  ザンバさんも伝統的な楽器を使って伝統的な音楽を大切にしながら現代的な音楽をやっていらっしゃるのが素晴らしいですね。

ザンバ  ありがとうございます。これからもいろいろな人の協力を得ながら研究を進めていければと思っています。

(ヴァリハ Valiha はマダガスカルではhaがほとんど発音されないためヴァリと呼ばれていますが、日本ではヴァリハと読まれることが多いのでそれにならいました。マロヴァニー/マロヴァンMarovanyも同様です)

プロフィール


Jean-Baptiste ANDRIANARIMANANA
(ジャン-バティスト・アンジアナリマナナ)

マダガスカルの音楽グループ 「ザンバ」のリーダー。歌手・ダンサーとしての活動を経て、ヴァリハ奏者および作曲・編曲家として多数のアーティストと共演を重ね、国内外の各種フェスティバルに積極的に参加、複数のアルバムを発表。また、国立音楽研究センターでヴァリハの研究にも従事している。

 



北中正和/インタビュアー

音楽評論家。東京音楽大学講師。「ニューミュージック・マガジン」の配本手伝いから編集者に転身し、中村とうようらとポピュラー音楽評論の一時代を築く。その後ワールドミュージックに傾倒し、世界のポピュラー音楽について、柔軟な視線で旺盛な紹介、評論活動を行なっている。NHKFM「ワールド・ミュージック・タイム」のDJも務める。

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