米国における日本文化・芸術の祭典「Japan 2019」を振り返って

2020.6.30

【特集072】

松本 健志
(国際交流基金ニューヨーク日本文化センター前副所長)

東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて、日本文化・芸術の魅力をアメリカに紹介する取り組み「Japan 2019」が、国際交流基金を事務局に2019年3月から12月にかけて行われた。中核事業として、ニューヨーク、ワシントンD.C.を中心に国際交流基金が主催・共催、協力する「公式企画」8件(展覧会3件、舞台公演5件)を実施、43万5千人を超える方々に日本の文化・芸術の魅力をご堪能いただいた。また会期中、日米関係をより重層的に強化することを目的として、官民が全米各地で実施する参加企画も138件行われた。

展覧会
(1)「『源氏物語』展 in NEW YORK~紫式部、千年の時めき~

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メトロポリタン美術館にお目見えした「源氏物語」展の巨大垂れ幕

「Japan 2019」のオープニングを飾ったのは、メトロポリタン美術館と国際交流基金の共催による「『源氏物語』展 in NEW YORK~紫式部、千年の時めき~」(2019年3月5日~6月16日)。日米両国32のコレクションから選りすぐった様々な時代やジャンルの作品138点(国宝2点、重要文化財9点を含む)を通じ、日本文学の最高峰『源氏物語』が1000年以上にわたり日本美術に与えた文化的影響の軌跡を紹介した本展は、これまで海外で開かれた『源氏物語』に関する展覧会で最も包括的なものとなった。

2019年3月4日、ニューヨーク・五番街に面する本館ファサードを『紫式部像』(土佐光起筆)の巨大な垂れ幕が飾り、大勢の関係者が見守る中、石山寺(滋賀県大津市)の僧侶による開白法要で本展は厳かに開幕した。筆者は翌5日、一般公開初日の様子を観察した。2人の女性が目を爛々と輝かせ、感嘆のため息を漏らしているのが気になり、声をかけたところ、パリから観光で訪れたフランス人母娘と判明。母親によれば、日本文化の魅力は「繊細さ、優雅さ、精確さ、詩情」。「展示方法が分かりやすく、展示作品は素晴らしい」とお褒めの言葉をいただいた。恋人同士や家族連れ、友達と連れ立って、あるいは一人で静かに、国籍、年齢や性別を問わず多くの来場者が思い思いの方法で鑑賞する姿は会期末まで絶えることがなかった。

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国宝 俵屋宗達筆『源氏物語関屋澪標図屏風』(静嘉堂文庫美術館蔵)に見入る来場者

漫画『あさきゆめみし』の作者、大和和紀氏と本展共同監修者の一人、メリッサ・マコーミック教授(ハーバード大学)との対談、学術シンポジウム、紫式部の人生を綴った新作オペラ、源氏香遊びなど様々な関連企画も行われ、来場者数は21万人以上を記録。本展を共同監修したジョン・カーペンター学芸員らの努力により完成した368ページに及ぶ浩瀚な英文図録は、『源氏物語』の国際的な研究に大きく貢献するものと思われる。

(2)「神道:日本美術における神性の発見」展

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神道にまつわる作品およそ125点が一堂に会した「神道:日本美術における神性の発見」展

クリーブランド美術館はアメリカ中西部を代表する名門美術館に数えられる。2019年4月9日~6月30日、国際交流基金の特別協力のもと、同美術館で「神道:日本美術における神性の発見」展が開かれた。日本人の心の源流とも言える神道について、米国で本格的な企画展が開催されたのは43年ぶり。平安時代から江戸時代にかけての神道にまつわる絵画や彫刻、神道の祭祀に使われた面や装束などおよそ125点(重要文化財28点、重要美術品1点を含む)を日米両国から一堂に集めた本展は、神々へのもてなし、春日神信仰、神仏習合など6つのテーマを通じ、神への畏敬の念が幾世紀にもわたり日本美術に与えてきた影響を紹介し、日本固有の神性を紐解くことを企図した。

2019年4月8日の開幕記念式典と翌9日の一般公開初日では、宮地獄神社(福岡県福津市)の協力により、古来伝承される筑紫舞・神楽舞が奉奏されたほか、展覧会場の出口には絵馬コーナーが設置されるなど、来場者を楽しませる工夫が随所に凝らされた。会期中、約3万4千人が訪れ、地元紙『クリーブランド・プレイン・ディーラー』紙の美術担当記者は「個々の展示作品を単に外国のエキゾチックなものと見るのは簡単だが、本展は(人と神との)普遍的な意味を捉えられるように組織されている」と評価。本展監修者シネード・ヴィルバー学芸員の尽力により、イェール大学出版会から292ページに及ぶ充実した英文図録が刊行されたことも特筆に値する。

(3)「日本美術に見る動物の姿」展

japan-2019_04.jpg米主要紙『ウォ―ル・ストリート・ジャーナル』の「2019年全米ベスト・アート」にも選出された

人間と動物の共生に関する豊かな表現は、日本美術の重要な特徴の一つである。「日本美術に見る動物の姿」展は国際交流基金、ナショナル・ギャラリー、ロサンゼルス・カウンティ美術館の共催により、2019年6月2日~8月18日に米国の首都ワシントンD.C.で、9月22日~12月8日に西海岸の中心都市ロサンゼルスで開催され、合計14万人以上の観客を動員した。古墳時代から1500年以上の長きにわたり日本人の暮らしや精神風土、宗教観と深く関わってきた多彩な動物表現に焦点を当てた本展は、ロバート・シンガー氏(ロサンゼルス・カウンティ美術館日本美術部長)と河合正朝氏(千葉市美術館館長、慶應義塾大学名誉教授)を共同監修者とし、日米両国の幅広い美術専門家の協力を得て実現した。5世紀の埴輪から現代アートまで、絵画、彫刻、漆芸、陶芸、金工、七宝、木版画、染織、写真など300点以上の作品に表現された、時に素朴でユーモラスな、時に神秘的な表情の動物たちが米国の老若男女に向けて日本文化の魅力を発信。会期中は講演会やシンポジウム、邦楽コンサート、動物を主題とした日本映画特集、家族向け日本文化体験プログラムなどの関連企画も行われた。

本展は『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙によって「2019年全米ベスト・アート」の一つに選ばれ、「非の打ちどころがなかった。多くの作品は記憶に残るものであり、抗しがたい魅力があった」と高く評価されたほか、同紙の特集記事「2010年代の回顧」では、米美術界が過去10年間、商業主義の傾向をますます強める中、美術館が今なお有意義な企画展を実施している好例として紹介された。また『ワシントン・ポスト』紙は「メトロポリタン美術館で開催中の『源氏物語』展と同様、国際交流基金の共催によるナショナル・ギャラリーの本展は、親しみやすく、遊び心に満ち、家族で楽しめる貴重な企画である。同時に、この種の展覧会で議論されることはあってもなかなか実現しないもの―文化交流の力―を現実のものとする、豊かで知的に充実した展覧会でもある」と評した。

舞台公演
(1)全米桜祭り

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桜色の衣装をった川井郁子氏のバイオリンの調べに酔いしれた

毎年3月から4月にかけてワシントンD.C.で開かれる「全米桜祭り」は、米国の首都で春の到来と日米友好を祝う大規模な市民の祭典である。1912年に尾崎行雄・東京市長(当時)が寄贈した桜の木々は日米親善の象徴としてポトマック河畔に見事な花を咲かせ、会期中150万人以上の人出でわう。2019年3月23日、ホワイトハウスにほど近いワーナー劇場で全米桜祭り開会式が挙行された。国際交流基金は3組の公演団を日本から派遣。『源氏物語』をテーマにバイオリンと和楽器のコラボレーションを披露した「川井郁子&和楽器アンサンブル」、高度なテクノロジーを駆使した映像とジャグリングを組み合わせた望月ゆうさく氏(Mochi)、世界的な人気を誇る漫画『美少女戦士セーラームーン』を原作とし、歌とダンスを融合したスピード感あふれる2.5次元ミュージカル『"Pretty Guardian Sailor Moon" The Super Live』のいずれにも満場の観客から大きな歓声が上がり、開会式のハイライトとなった。

翌24日午後にはスミソニアン協会フリーア|サックラー美術館で「川井郁子&和楽器アンサンブル」のコンサートを開催。キャンセル待ちの長い行列ができるほどの人気を博した。同美術館では門外不出の『源氏物語図屏風』が展示され、来館者は美しい衣装を身に纏った川井氏のバイオリンと語り、第一級の奏者による琵琶、尺八、筝、能管、鼓などの和楽器と綴る「源氏がたり」に酔いしれた。また同日夜にはワーナー劇場で『"Pretty Guardian Sailor Moon" The Super Live』の本公演を実施。チケットは早々に完売。カナダをはじめとする近隣諸国からも熱心なファンが駆け付け、2.5次元ミュージカルの北米デビュー公演を大歓声で迎えた。客席は若いコスプレイヤーのみならず、あらゆる世代の観客でびっしり埋まり、日本からやって来た美少女戦士たちの誠心誠意、体当たりのパフォーマンスに惜しみない拍手と熱いエールが送られた。日本のポップカルチャーの底力が炸裂する様はまさに圧巻。その後、本作品はニューヨークへ巡回し、2019年3月29日~30日にブロードウェーのプレイステーション劇場で3公演を実施。いずれも満員御礼となり、ワシントンD.C.に勝るとも劣らない成功を収めたことは言うまでもない。

(2)ジャパン・デー

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ジャパン・デーで演奏を披露する「和楽器バンド」

2019年5月12日、日本文化紹介と日米市民交流を目的として、ニューヨークのセントラルパークで毎年恒例の野外フェスティバル「ジャパン・デー」が開かれた。13回目を迎えた2019年は、メインステージでロックミュージシャン・甲斐よしひろ氏率いる「甲斐バンド」、「和楽器バンド」などが演奏を披露したほか、園内各所に日本文化体験コーナーや日本食試食コーナーが設けられ、生憎の雨にもかかわらず、子どもから大人まで約2万5千人が日本の多面的な魅力に触れた。

(3)ジャパン・ナイト

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ジャパン・ナイトで力強い歌声を響かせるMISIA

ジャパン・デー@セントラルパークに続き、同日夜にはブロードウェーのプレイステーション劇場とソニーホールに場所を移し、日米両国の若い世代の交流を図ることを目的として、日本の音楽シーンを牽引するアーティスト4組(HYDE、和楽器バンド、MISIA、Puffy AmiYumi)と書家・紫舟による一夜限りの特別ライブ『Japan 2019 presents Japan Night 』を国際交流基金と日米両国の協力会社の共催により実施した。降りしきる雨の中、両会場とも開場前から長蛇の列ができてチケットは完売。それぞれに個性的でパワフルなJ-POPのステージは約3000人の熱狂的な観客から大きな声援を受け、その模様は日本でもテレビで紹介された。折しも5月1日に元号が改まり、ニューヨークで令和時代の開幕を祝うに相応しいイベントとなった。

(4)宮城聰演出『アンティゴネ』

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初日翌日にチケットが完売になるほど好評を博した『アンティゴネ』

ニューヨーク・パーク街に威容を誇るパーク・アベニュー・アーモリーは、南北戦争を北軍として戦ったニューヨーク州兵第7連隊の練兵場兼社交場として1880年に完成。ヨーロッパの鉄道駅に典型的なアーチ屋根をいただく建物は、ルイス・カムフォート・ティファニーらが手がけた内装デザインの重要性と相俟って、アメリカ国定歴史建造物に指定されている。今日では世界最高水準の芸術を紹介する施設として確固たる地位を築き、ニューヨーカーから絶大な支持を受けている。国際交流基金は、アーモリーおよび静岡県舞台芸術センター(SPAC)との共催により2019年9月25日~10月6日、日本を代表する演出家・宮城聰氏の演出による『アンティゴネ』を連続12回上演した。ソポクレス作のギリシャ悲劇を日本の仏教的な視点から解釈した本作品は『ニューヨーク・タイムズ』紙に絶賛され、初日翌日にチケットを完売。一時はチケット転売サイトで正価の10倍を超える1枚1890ドルのプレミアム価格を記録。国際ニュース雑誌『タイム』によって「2019年の演劇ベストテン」の一つに選ばれた。

かつての軍事施設だった巨大空間には三途の川に見立てた水が一面に張られ、白装束に身を包んだ役者たちが能や文楽、盆踊りなど日本的要素を織り込んだ『アンティゴネ』を幻想的に演じた。人を敵と味方に区別しない王女アンティゴネの思想に「死ねばみな仏」という日本人独特の死生観を重ねた本作品は、アーモリーの地霊(ゲニウス・ロキ)と呼応し、分断と対立、争いごとの虚しさを訴え、1万人以上の観客に深い感動を呼び起こした。そのことは来場者から「最も気高く、気品に満ち、美的に魅了する『アンティゴネ』だった。この驚きを言葉では表現できない」「私の頭でなく、心を揺さぶった」などの感想が異口同音に寄せられたことからも裏付けられる。観客は、普段から芸術に親しんでいる人々ばかりではなかった。2019年10月2日の教育公演ではニューヨークの公立学校に通う12~17歳の生徒たちが劇場を埋め尽くした。市内各地から集まった多様な背景を持つ子どもたちが、開演前は弾けんばかりの元気さで騒いでいたところ、公演が始まると一転して舞台に引き込まれ、最後は温かいスタンディングオベーションを送る光景も感動的だった。また、公演期間中は演出家・宮城氏のトークイベントのほか、静岡県の主催によりメディア・旅行業界関係者を主な対象とする「ふじのくに魅力発信事業」などの関連企画も行われた。

「ステージナタリー」記事 SPAC「アンティゴネ」ニューヨーク公演レポート&宮城聰インタビュー
https://natalie.mu/stage/pp/antigone

(5)『杉本文楽 曾根崎心中』

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「ホワイト・ライト・フェスティバル」のオープニングを飾った『杉本文楽 曾根崎心中』

リンカーン・センターはニューヨークが誇る世界最大級の総合芸術施設。毎年秋には人間の内面を照らし出す舞台芸術の祭典「ホワイト・ライト・フェスティバル」が開かれる。第10回を迎えた2019年の芸術祭は10月19日、国際交流基金、小田原文化財団、同センターの共催による『杉本文楽 曾根崎心中』で幕を開けた。ユネスコ無形文化遺産に登録される人形浄瑠璃文楽がニューヨークで本格的な形で上演されたのは1992年以来、実に27年ぶり。人間国宝・鶴澤清治氏(三味線)が作曲を、世界的に名高い現代美術家・杉本博司氏(文化功労者)が構成・演出・美術を手がけた本作品は、近松門左衛門の原作を現代に甦らせたもの。フェスティバルのラインナップ発表と同時に大きな注目を集め、全4回公演はいずれも満員御礼。延べ4000人近くの観客が、お初と徳兵衛の悲恋物語の世界に入り込んだ。

豊かな感情を込めた、ダイナミックで抑揚のある太夫の語り、時に妖艶な表情の、時に切っ先鋭い刃物を思わせる、寸分の狂いのない三味線の演奏、抜群のチームワークで操る精巧細緻な人形の動き、これら三業で成り立つ三位一体の芸能の妙は、杉本氏の美学に貫かれたシンプルで優美な舞台美術、束芋の生き生きとした色鮮やかな映像作品と見事に融合し、満場の観客は300年以上前の大阪で実際に起きた情死事件に基づくストーリー展開を固唾をのんで見守った。「未来成仏疑いなき 恋の手本となりにけり」の有名な語りで締め括られ、幕が下りると、劇場内は漆黒の闇と完全な静寂に包まれた。次の瞬間、客席から万雷の拍手が沸き起こった。心中により来世で恋を成就するとのテーマは日本人の死生観に根差しており、米国でどのように受け止められるか気がかりであったが、目頭を押さえる観客の姿が少なからず見られたことから、深い感動は十分に伝わったものと思われる。来場者からは「生身の人間が演じるよりも、人間の感情がリアルに伝わってくる不思議な体験だった」「完璧な公演、感動的な作品。見事と言うほかない」など、本作品の清冽な美しさを称える感想が異口同音に寄せられた。即位の礼のタイミングと重なった『杉本文楽 曾根崎心中』北米デビュー公演は、2019年秋のニューヨーク文化シーンのハイライトの一つとなった。

参加企画

以上概観した8件の公式企画の他にも、全米各地で138件の日本文化紹介事業や日米交流事業が「Japan 2019」参加企画として行われた。2019年10月18日からニューヨークを代表するシネマテーク、フィルム・フォーラムと国際交流基金が共催した日本映画祭「下町―ダウンタウン東京の物語」はその一つ。1929年から2004年まで約80年間に製作された、東京の下町を舞台にした名作38本の特集上映は『ニューヨーク・タイムズ』紙や『ニューヨーカー』誌で大きく取り上げられ、4500人以上の観客を動員。とりわけ小津安二郎監督『東京物語』(1953年)に対する人気は根強く、追加上映が決定。映画祭の会期は1週間延長され、11月14日まで4週間に及んだ。また、メトロポリタン美術館で2019年7月24日から2020年9月20日まで開催中の「京都―芸術的想像力の都」展も参加企画の一つ。本稿執筆時点(2020年1月末)で来場者は30万人を突破した*。その他、様々なアクターによる多種多彩な参加企画が2019年12月末まで行われた。

「日本の美」の普遍性

「Japan 2019」の一環として実施された数々の事業はアメリカでどのように受け止められたのだろうか。公式企画8件に限っても、日米両国を中心とするメディア報道は400件近くに及んだ。その一つ一つを子細に分析する余裕はないが、特に米主要紙の批評記事では、長い歴史の中で培われた日本人の心性や自然観、人生観を幅広い芸術表現に読み取り、そこからアメリカとの何らかの共通性や普遍的な価値を見出そうとする評者の姿勢が顕著であったように思われる。一連の事業を通じてアメリカの人々に深い感動と喜び、新たな発見や気づきを与え、日本人の根底的な考え方に少しでも共感の輪が広がったならば、「Japan 2019」の準備と実施に携わった者の一人としてうれしく思う次第である。

日米交流の持続的な発展

最後に、質の高い日本文化・芸術紹介事業は一朝一夕に実現したものではなく、日米両国の文化専門家の存在と協力が不可欠であったことを明記しておきたい。例えば、公式企画として実施した展覧会3件は、いずれも国際交流基金日本研究フェローとして日本の大学院に留学し、日本美術について研究した米国のキュレーターが監修したものである。

「源氏物語」展の共同監修者の一人、ハーバード大学のメリッサ・マコーミック教授は1995年度国際交流基金日本研究フェローとして学習院大学に、同展を力強く支えるとともに「京都」展を監修したメトロポリタン美術館アソシエート・キュレーター、モニカ・ビンチク博士は2006年度フェローとして京都大学に、「神道」展を監修したシネード・ヴィルバー博士(クリーブランド美術館日本美術学芸員)は2002年度フェローとして東北大学に、そして「動物」展の共同監修者の一人、ロバート・シンガー氏(ロサンゼルス・カウンティ美術館日本美術部長)は国際交流基金の創設間もない1974年度フェローとして京都大学にそれぞれ留学、日本美術専門家として研鑽を積んだ経歴を持つ。日本文化に対する深い理解と該博な知識、外国人ならではのユニークな視点、日米文化・芸術交流への情熱とむことのない献身的努力なくしては、これらの大規模な展覧会は成立しなかった。

日米の視座を併せ持った専門家を将来にわたってサポートし、彼らのネットワークを強化することは地道な作業だが、日米交流の絶えざる深化と日米関係の永続的発展にとって欠くことのできないプロセスである。その意味で、「Japan 2019」はかつてまかれた日米交流の種が美しく開花した好例と見ることができるかもしれない。「Japan 2019」の成功をより高い次元の日米文化・芸術交流への序章とするためにも、これからも交流の種まきと基盤整備の重要性を忘れてはならない。

*同美術館は新型コロナウイルス感染症の影響により臨時閉館中です(2020年6月30日現在)。


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https://www.jpf.go.jp/j/about/area/japan2019/

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松本 健志(まつもと けんじ)
一橋大学社会学部卒業、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。1999年、国際交流基金入職。日本研究部、ニューヨーク日本文化センター、海外事業戦略部、ケルン日本文化会館副館長、文化事業部米州チーム長などを経て2016年、ニューヨーク日本文化センター副所長。2020年2月よりアジアセンター文化事業第1チーム長。

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