雑誌『をちこち(遠近)』
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デザインによる日本文化紹介

柏木博(デザイン評論家)



 日本のプロダクト・デザインを紹介する巡回展・新「現代日本のデザイン100選」が2014年6月、アメリカでスタートし、8月よりカナダのトロントで開催されました。100のプロダクトで日本のデザインの現在とともに、それらをとおして日本の文化を伝えるこの展覧会は新バージョンとしてはじまりました。つまり旧バージョンが、2013年で10年間の巡回を終えて、今回、第2回目の展覧会がはじまったということです。
 その内容は、100点のプロダクト中、11点は、Nikon Fや東芝の電気炊飯器など、戦後のきわだった歴史的なデザイン、そして残りの89点は、現在のあたらしいもので構成されています。89点は、理解しやすいように、「家具・什器」「テーブルウエア・調理器具」「衣服・アクセサリー」「子供用品」「文房具」「ホビー」「健康用品」「災害救援」「トランスポーテション」の9つのジャンルに分類して展示するようにしました。
 この巡回展にあわせて、10月17日から24日にかけて、トロント、モントリオール、そしてバンクーバー(バンクーバーでの展覧会巡回はありません)で、建築家・家具デザイナーの中村好文さんと一緒に講演しました。

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国際交流基金巡回展・新「現代日本のデザイン100選」
会場:国際交流基金トロント日本文化センター
(2014年8月6日~2014年10月30日)




講演と展覧会
 トロントでの講演は、時間が長めに設定されていたので、わたくしの方は、日本のモダンデザインの黎明期になる1920年代から40年代にかけての歴史的デザインを導入にして、現代の日本のデザインを紹介しました。歴史的なことでは、アール・デコやロシア構成主義、そしてバウハウスなど海外のデザインを日本がすぐに取り入れてきたこと。あるいは、建築家のブルーノ・タウトやル・コルビュジエの弟子でもある家具デザイナーのシャルロット・ペリアンらを、戦前の1930年代から40年代にかけて招き、デザインの指導を受けていたことなどを紹介しました。
 また、現代のデザインでは、さまざまな特徴がありますが、「クラフト的なデザイン」「ミニマルなデザイン」「心くばりのあるデザイン」「コンパクトなデザイン」「かわいいデザイン」といった5つのことが、きわだって特徴的であることをパワーポイントで実例を示しながら話しました。また、これらの特徴は、実のところ、日本の文化として深層に存在していたということを紹介しました。
 一方、建築家の中村さんは、この数年、自ら行っている実験住宅のプロジェクトについての紹介をしました。
 一間だけの小さな住宅と書斎兼風呂の小屋をつくり、電気・ガス・水道など一切のインフラをソーラーや薪、雨水などを利用して生活するという実験です。建築はもちろん、家具などともに、雨水利用のための装置などすべてを自らデザインし、それらの効果や機能を確認していくという話です。パワーポイントとともに、建築を立ち上げていく過程のムービーもあり、とても興味深いもので、講演会参加者も話に引き込まれていました。
 モントリオールとバンクーバーは、講演時間が短く設定されていたので、わたくしの方は、歴史的紹介をはぶいて、現代のデザインだけを紹介することにしました。中村さんも、テーマはトロントと同じでしたが、だいぶ圧縮して話されました。
 講演会での会場からの質問として印象に残ったもののひとつに、日本では、かつて「弱さ」ということを大切にする視点があったことを、わたくしが紹介したことに対するものでした。「弱さ」は良いことではないという視点からの質問でした。たとえば、北原白秋や小川未明などの児童文学にも、「弱さ」を大切にする視点が含まれていることなどを説明しました。「弱さ」に対する文化の微妙な差異に気づかされました。
 どの会場も、満席でした。とりわけ、トロントでは、同時に展覧会が開催されているので、講演会の前後に、参加者が熱心に鑑賞しており、展覧会も順調だと感じました。展覧会場は、スペースの制約もあり、展示台を比較的ランダムに配置するという当初の展示方法ではなく、整然と構成していましたが、この展示構成もすっきりして良いと感じました。

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モントリオールの巡回展にて(ケベック大学モントリオール校デザインセンター)
(2014年11月20日~2015年1月18日)
©Michel Brunelle




手前味噌――文化への共感
 余談になりますが、トロント滞在中、日曜日には、2014年トロントに開館したばかりの美術館「アガ・カーン・ミュージアム」を見ることができたことは、楽しい体験でした。

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アガ・カーン・ミュージアム

 建築は、 巨大な石のインスタレーションのようにも見える槇文彦のデザイン。コレクションはイスラム芸術で、七、八世紀のコーランや『千一夜物語』や医学書などの写本、あるいは陶磁器、ミニアチュールなど約千点。

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アガ・カーン・ミュージアムの展示風景

 わたしたちが、イスラム文化になかなか馴染めないことの最大の要因は、言語、文字の壁があることです。アラビア語やペルシャ語などから直接イスラム文化を知るには、ハードルが高い。このことは、日本にも共通しています。漢字や仮名などの文献を読むことは、欧米をはじめ漢字文化圏以外の人々にとっては間違いなく困難です。
 言語は悟性的に物事を理解させてくれます。したがって、言語をとおしてのイスラム文化の悟性的な理解はむずかしいことです。けれども、カリグラフィや陶磁器などのデザイン、あるいはミニアチュールなどは、わたしたちに共感を与えてくれます。いわば理性的な合意形成を目的としたコミュニケーションとは異なり、メッセージを引き受け、うなずくことへとつながっていきます。
 日本の書なども、手のストロークや息づかいを伝えてくれます。そして、おそらく、言語の壁を越えて、それぞれの感覚、美意識つまりは文化を受け取ることができます。
 現在では、漢字文化圏以外の人々の多くは、日本の文化を好ましく受け入れてくれているように思えます。ここで、手前味噌になります。アガ・カーンを見たことで、巡回展・新「現代日本のデザイン100選」も、100のプロダクトで、現代の日本の文化への共感をさらに広げてくれるのではないかと思いました。





japanese_culture_by_design08.jpg 柏木 博(かしわぎ・ひろし)
デザイン評論家。武蔵野美術大学教授。近代デザイン史専攻。1946年神戸生まれ。武蔵野美術大学卒業。著書『家事の政治学』青土社、『モダンデザイン批判』岩波書店、『「しきり」の文化論』講談社、『玩物草子』平凡社、『探偵小説の室内』白水社ほか。展覧会監修:『田中一光回顧展』東京都現代美術館、『電脳の夢』パリ日本文化会館ほか。




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