雑誌『をちこち(遠近)』
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知の新しい共有地としてのアニメーション

キム・ジュニアン(アニメーション研究者)



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2月17日に六本木ヒルズで開催されたメディア芸術ライブラリーカフェ『マンガ・アニメーション研究を可視化する!』。モデレーターを務めたジャクリーヌ・ベルント氏(京都精華大学マンガ学部教授/マンガ研究科長)(写真左)、土居伸彰氏(日本学術振興会特別研究員日本アニメーション学会理事)(同中央)、筆者

 第16回文化庁メディア芸術祭が開催される中、2013年2月17日、六本木ヒルズ内のメディア芸術ライブラリーカフェで『マンガ・アニメーション研究を可視化する!』というタイトルの催しが開かれました。日本国内及び海外におけるマンガとアニメーション研究をマッピング(把握)するプロジェクトの成果報告を兼ねたトーク・イベントです。今回、私はアニメーション部門の一人として参加させて頂きました。

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(左)『マンガ・アニメーション研究を可視化する!』トーク・イベント壇上の筆者
(右)『マンガ・アニメーション研究を可視化する!』トーク・イベント会場で

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トーク・イベント会場に展示されたイラストパネル

 アニメーションへの学術的な関心が高まってきたのは、1990年代以降ライヴアクション、つまり実写映画におけるCGの導入が背景にあるといえます。揺るぎない記録としての映像から、自由に操作可能な映像へのシフトは、アニメーションとの新しい接点を浮き彫りにしたのです。それ以来、CGと伝統的なアニメーションとの共通性に関しても、映画を超えたメディア研究のレベルで積極的に行われてきました。例えばレヴ・マノヴィッチ(Lev Manovich)著『The Language of New Media』(2001)がその一例といえるでしょう。
 実は、英語におけるメディアという言葉はかなり幅の広い意味合いを持っています。そもそもメディアという単語が複数形ということに注目する必要があります。このような考え方が背景にあったからこそ、例えば、かの有名な視覚論としてジョーン・バージャー(John Berger)著『Ways of Seeing』(1972)のような成果が実現できたといえます。これは、1970年代初めBBCのテレビ番組として放送された内容を本にまとめたもので、ルネサンス絵画から現代の広告に至る様々な視覚メディアの社会一般への影響に関する議論を展開した力作です。

 一方、日本社会におけるアニメーションへの学術的(印象論、ジャーナリズムなどと区別する意味で)関心が高まってきた背景の一部には、欧米における日本の大衆的なアニメーションへの反応、そしてそれに伴う学術的アプローチがあります。更に、そこには二つの流れがあります。一つは、欧米における日本もしくはアジア研究という地域研究(Area Studies)の一環としての流れで、もう一つは、大衆文化を積極的に取り上げるカルチュラル・スタディーズの流れです。これを受けて日本社会も反応した側面があって、例えば、雑誌『ユリイカ』は1996年8月号で「ジャパニメーション」を特集に取り上げたのです。日本の現代文化には欧米からの眼差しを常に意識する傾向もあるが故に、これも一助となったといえるでしょう。

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「ジャパニメーション」を特集した雑誌『ユリイカ』(青土社)1996年8月号

 ここから、アニメーション研究、アニメーション学とは何なのか、という問いが投げかけられるはずです。比較として、映画研究・映画学とは英語で今でも「フィルム・スタディーズ」、つまり映画に関する複数の研究を意味します。そこには、一つの原理ではまとめられないという意味合いがあります。じつは、英語における多くの学問の名称は複数形であり、一例として物理学の「Physics」さえも、現在同名称の下に属している様々な学問がそれぞれ独自の方向性の上で発展しながら、19世紀半ば「物理的な諸事象」を意味する複数形のPhysic「s」としてようやく成立しました(Michael J. Crowe, 2007)。同様にアニメーションという言葉で簡単に呼ばれますが、同単語が言い表している諸事象は、極めて多様で相違しており、そのため、それらにアプローチする方法論が多様で相違しているとしても不思議なことではありません。

 アニメーション研究の一方向としては、アニメーションが既に社会で享受されている文化の一部であることを認め、文化的なヒエラルキーに関係なく(逆に文化的なヒエラルキーに潜んでいる力関係を浮き彫りにすることで)、それらの研究が社会もしくは世界の認識につながるということを理解する必要があります。視覚言語としてのアニメーションは実写映画、ゲーム、広告、デジタル機器のインターフェイスなど、至るところに浸透しており、特に日本社会は、長編映画、テレビシリーズ、セルスルー・ビデオなどのフォーマットで数多くのアニメーション作品が制作、受容されてきました。それだけに、社会との関係性は非常に深いといえます。実際日本では、私の研究テーマである鉄腕アトムのほか、ロボット、アンドロイドに対して、多くの中高年の方々が興味を示し、一気に会話が盛り上がることがよくあります。さらに、それらのアニメーション作品は日本国内だけではなく、海外でも数十年間、封切・放送・販売されてきたことを鑑みると、しかも、既に海外で日本のアニメーションを文化の一部として真剣に取り扱おうとしている動きがある以上、日本社会内部からの知の生産と発信(勿論ネーティヴィズムを警戒しながら)は、よりダイナミックな知の発展につながるはずです。

(原文:日本語)

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日本の人形研究のために、2012年11月に飯田市の川本喜八郎人形美術館訪問した筆者

キム・ジュニアン(KIM, Joon Yang/金俊壌)
アニメーション研究者、評論家。韓国芸術総合学校で教鞭も執る。専門は工学、美学、哲学、日本研究。著書に日本のアニメーションの分析・批評を通じて、日本社会及び日本近代史における日本のアニメーションが持つ意味を考察した『イメージの帝国、日本列島上のアニメーション』(第1回国際交流基金ポラナビ著作/翻訳賞受賞)など。『アニメーションの事典』(朝倉書店)に執筆者として参加。現在、学術誌『Animation: An Interdisciplinary Journal』(Sage)のアソシエート・エディター(アジア担当)。日本アニメーション学会理事及び機関誌編集委員会委員長、ソウル大学日本研究所客員研究員。
2012年9月より、国際交流基金日本研究フェローとして、「哲学上の心身問題と日本の人形文化のコンテクストの中における『鉄腕アトム』が描いた機械人間の存在論」を研究テーマで東京造形大学に在籍中(2013年9月まで)。



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