中国の新世代まんが家と「世界まんが塾」

斉 夢菲(北京日本学研究センター 文化コース博士後期課程)

私と「世界まんが塾」

 1980年代生まれの私は小さいころから日本のまんがを読んで育ちました。まんが家になって、自分の頭で考えたことを思いのままに描くことは、私たちの世代の多くの子どもたちの夢でした。しかし、大学受験のとき、私は当時まんが家という夢に一番近いと思われた美術専攻に申し込む勇気がなく、外国語学院に進学しました。10年以上の回り道でした。

 2011年から12年にかけて、私は偶然まんがの脚本作りの仕事に参加しましたが、力が足りず、いい出来にはなりませんでした。このときの経験によってもう一度まんがとの縁ができましたが、同時に自分とプロのまんが家との差を目の当たりにすることにもなりました。当時、自分には永遠にまんがと呼べるものは描けないとすら感じました。

 中国の青年まんが愛好家の間で高い名声を博している『多重人格探偵サイコ』(角川書店、1997年~)の原作者・大塚英志先生との出会いが、私の人生におけるひとつのターニングポイントでした。2012年に北京に戻ったとき、偶然のめぐりあわせで北京日本学研究センターでの学術講座のために来られた大塚先生と知り合い、さらに自分が描いた60ページのまんがを先生に見ていただきました。北京外国語大学の西キャンパスの喫茶店で、先生はその場で読みながら講評してくださり、その結果ページが強引に半分にまで削られてしまいました。私は緊張のうちに先生のお話を聞きました。心は谷底に落ちながらも、抑えきれないほど興奮していました。「まんがで物語るってこういうことなのか! 私が理解していたコマ割りと本当の意味で適切な表現の間にはこんなにも大きな差があったのか!」

 勉強したいです! そう大塚先生にお伝えしたところ、先生は私に当時先生が中心となって日本のニコニコ動画上で毎月1回生放送していたまんが教育番組「世界まんが塾」に参加してはと誘ってくださいました。番組はオープンな形で、日本まんがの表現手法を学びたい全世界の創作者を受け入れられるように、わかりやすく作られていました。テクニックの伝授や実践指導を行うだけでなく、方法論の解説やまんが史の知識、関連理論の紹介が行われ、講師たちが世界各地から収集してきたフレッシュな情報も添えられていました。内容は豊富で手堅く、落ち着いたスタイルでした。
 私は投稿の形で参加しました。1年で14回放送された番組を終えるまでに、指定の2つの脚本と約160ページのネームを描き終え、基礎を習得しました。

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(図1)石ノ森章太郎の古典的作品『龍神沼』をトレース。最初はどう描いたらいいか全然分からず、穴ぼこだらけでした。

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(図2)斉夢菲『煌めく星のようなあの頃のか弱き僕たち』。どのように表現すれば、よりおもしろくすることができるでしょうか。石ノ森章太郎の『マンガ日本の歴史』からインスピレーションを得ました。

 少しは進歩したでしょうか? 「世界まんが塾」との出会いは私にとって幸運なことでした。私はもう一度、夢への道を歩きはじめることができました。

「世界まんが塾」@北京

 2014年と15年には、「世界まんが塾」はオンラインからオフラインの活動へと移りました。「東アジアまんが創作法研究講座」というタイトルの下、2年連続で北京電影学院と協力し、内容の詰まったカリキュラムが展開されました。

 主な参加者は北京電影学院のまんがクラスの学生で、カリキュラムで設定された課題を提出する以外にも、たくさんの質問を携えて来ました。授業後は、わっと群れをなして講師のところに集まってきました。たくさんの人が自分の作品を取り出し、講師に講評してほしいと希望しました。毎回授業は延長され、ものすごい人気でした。

 2年間、北京電影学院はこの活動のために多大なサポートをしてくれました。中国の映画、テレビ、アニメ分野における最高学府として、北京電影学院は豊かなリソースと大量の教師陣を擁しています。現代のストーリーまんがの手法は映画から生まれており、北京電影学院まんがクラスの学生は間違いなく最高の学習環境にいます。しかし、日本と比較して、中国における「新まんが」の歴史はいまだに短く、若い業界であり、まさにそれがゆえに、中国国内のまんが教育は全体としてまだスタートラインに立っている段階です。この活動を通して私は、まんが教育の方法を模索するうえで、中国の高等教育機関はまだまだ長い道のりを歩まねばならないと感じました。

 このプラットホームで成長した若きリーダーは「まんが塾」の理念をもう一歩前に推し進めようとしています。講師のひとりだった浅野龍哉さんは北京に活動の拠点を移すことになりました。中国への熱意に溢れる浅野さんは、中日のまんが創作者や愛好者が集まり、友達になることができる交流・学習の場を立ち上げ、中国新世代まんが家と一緒にアジアまんがを発展させたいと願っています。

sekai-manga-jyuku_03.jpg 斉 夢菲(さい むひ/Qi Mengfei)
北京日本学研究センター文化コース博士後期課程在籍中。子どもの時代から日本のまんがに夢中。研究の分野もまんが。将来、大学教師とまんが家を目指す。

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