「ロボットは友達」か?:シンポジウムで日独比較

  

堀江映予

国際交流基金

 日本研究・知的交流部

欧州・中東・アフリカチーム

 

 

 日独シンポジウム「異文化交流の視点から見た人間とロボットのインタラクション」(主催:ベルリン日独センター、国際交流基金/ケルン日本文化会館)では、2010年12月7〜8日の2間にわたり、日独の18名の登壇者が基調講演・報告を行いました。

登壇者は、工学系の学者、研究者を始め、行政、社会科学系の学者、牧師と多岐にわたっていましたが、内容も日独両国におけるロボット戦略から、ロボット開発、ロボット工学に関する倫理的・法的側面、ロボットのセラピー効果まで非常に幅広いものでした。

 

 

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 日独の登壇者が共通して指摘していたのは、今後高齢化が進むほど若い労働力が減少し、産業用・サービス用ロボットの需要が否応なしに高くなるであろうということでした。
ある研究者は、日本では2035年には、ロボット産業の市場規模が9.7兆円にも及ぶと予測しています。

 そのような情勢の中、ロボットの先進国である日本では、人間になり代わって働くロボットを開発するためには、まず人間を理解することが必要である、と考えられており、
いかに人間そっくりなアンドロイドを開発できるかといった研究も行われています。

1robot.JPG

 そうした研究の第一人者である大阪大学の石黒浩教授は、ご自身そっくりのロボット「ジェミノイド」を作ったことで有名ですが、脚本・演出家の平田オリザ氏とのコラボレーションによりロボットと人間が舞台上で「共演」する「ロボット演劇プロジェクト」もプロデュースしています。私が、あいちトリエンナーレで拝見した「森の奥」というロボット演劇では、人間6名とロボット2体が出演しますが、途中、観客はロボットをあくまでロボットとして見ているはずなのに、終盤に差し掛かる頃には、ロボットに感情があるようにすら見えてしまいました。 

 

 石黒教授は、いかにロボットを人間らしく出来るかについて研究を続けるうち、平田氏と知り合い、演劇にロボットを登場させることによって、ロボットに心があるかのように演出してみせることで、心を持たないはずのロボットが、心を持っているように見える要素は一体何なのかを追究しようとしています。この研究は、最終的には「心(人間性)」とは何かという哲学的なところにまで発展していくのではないか、というのが石黒教授の見解です。2robot.JPGのサムネール画像

 

 一方、欧州では、ロボットが人間社会に(人間と同等の存在として)入ってくることに懐疑的な傾向がありますが、それは「人間」と「それ以外」を明確に分けようとする西洋の哲学観や宗教観が背景にあるのではないかと言われています。

 

3robot.jpgドイツ連邦国防軍大学ミュンヘンのグレーフェ教授の発表では、ドイツで開発された「エルメス」というモデルが紹介されましたが、見た目はまさに、四角いボックスが組み合わされたロボットであり、オフィスなどで「今日は何曜日ですか?」などの具体的な人々の質問に答えたり、お水をとってきたりするバトラー(執事)としての役割を果たすものでした。

 

 これは、ロボットは人間に忠実な僕(しもべ)であり、人間が必要とする機能さえ備えていれば良いという、西洋的な考えを反映している典型的な例かもしれません。この点「鉄腕アトム」や「Aibo」に見られるように、一般的に「ロボットは友達」と考えられている日本とは対照的に感じられました。

 

 シンポジウムでは、この「ロボットは友達」という概念の典型的な例とも言える、アザラシ型のセラピー・ロボット「パロ」についても発表されました。セラピー・ロボットとは、アニマル・セラピー(動物介在療法)の代わりとして急速に研究が進められている、ロボット・セラピー(ロボット介在療法)で使用されるロボットです。

 

 動物介在療法には、対人関係を気にすることなくリハビリが行える、また、精神的癒しをもたらし、加療期間が短縮されるといったメリットがあります。動物型ロボットを用いた際にも、同じような効果が得られるそうです。さらには実際の動物を使用する場合と比べ、動物が受けるストレスがないこと、衛生面の心配がないこと、感染症や動物アレルギーなどの事故を防ぐことができるなどといったメリットもあります。 

 

☆RIMG1417.JPG こうした研究の成果である「パロ」は、日本国内では、2005年に販売が開始されて以来1000体以上を売り上げ、高齢者施設や病院などで使用されています。また、2009年からはアメリカでも販売が開始されました。欧州でもデンマークを始め、高齢者施設などでの導入が始まっており、セラピー・ロボットを使った認知症患者などのメンタル・サポートが行われると同時に、セラピストの負担軽減策としても活躍しています。 

 

日本のロボットが欧米の福祉現場でも受け入れられ始めているということは、いずれ「ロボットは友達」という日本の考え方が世界的に広まっていくということなのでしょうか。これは異文化交流という観点から考えても非常に示唆に富むテーマだと思います。 

 

 そのうち、我々の身の回りに当たり前のようにロボットが存在するようになった時、そのロボットは人間の形をしているのでしょうか?それとも、見た目も機械なのでしょうか?

 

 

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