『ファイナルファンタジー』が結んだ4,000kmの蜘蛛の糸~天野喜孝さんとブラジルの少年の出会い

サンパウロ日本文化センター
梶原 新吾



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Red Sword (©Yoshitaka Amano)
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左:Ray of Princess (©Yoshitaka Amano)、右:Crystal (©Yoshitaka Amano)


「天野喜孝さんをブラジルに呼びたいです。」
このスタッフの一言から始まりました。
ゲームソフト『ファイナルファンタジー』は全世界で発売され、多くのファンがいます。ブラジルも例外ではありません。そのビジュアルコンセプトデザインを手がけた天野さんのファンはブラジルにもたくさんいます。お呼びできればインパクトのある事業になることは間違いありませんでしたが、ブラジルにお呼びすることは蜘蛛の糸をたどるような話でした。
全くコンタクト先を知らなかった私たちは、インターネットでの検索や他の海外事務所への問い合わせの結果、ようやく天野さんの事務所の連絡先を探し出しました。その後は驚くほど話がまとまり、サンパウロで毎年開催される「EXPO GAMEWORLD」というゲーム関係のイベントで講演会と展示を実施することになったのです。

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EXPO GAMEWORLDの告知
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左:GAME WORLD入り口、右:講演会が行われたホール。ファンがたくさん!

「私は絵を描くのが仕事だから」とあまり話すのが得意ではないとおっしゃっていた天野さんですが、ゼネラルマネージャーの鈴木真理子さんのサポートもあり、講演ではありのままの「天野喜孝」を紹介して頂きました。
講演会場にはファイナルファンタジーに憧れてゲームクリエイターを目指すブラジル人がたくさん詰めかけていました。「僕はファイナルファンタジーに関わった時も今も同じことしかしていません。それは、頭の中にあった世界を絵にしていただけなんです。その絵がゲームキャラクターやマンガ、本など色々な形になっただけです。ゲームは表現する手段でしかありません。だから自分が伝えたいことを手段に合わせて変える必要は無いんです。表現したいという強い思いが大事なんです。」と彼らに語りかけていました。

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左:講演中の天野氏、右:作品展示スペースでテレビの取材に応じる天野氏

講演会の後、100人限定でサイン会を実施したのですが、ちょうどサインが終わろうとしている時、会場の警備員に中に入りたいと懇願している若い男の子がいました。スタッフが事情を聞きに行くと、サンパウロから2,600km(大体北海道の稚内から鹿児島までと同じ距離)離れたレシフェという街から天野さんに会いに来たが、整理券をもらえなかったとのことでした。特別にサインをお願いしたところ、手のひらを使って涙をぬぐいながらサインをもらっていました。
しかし、これで終わりではありませんでした。昼食をとっていると、同席していたEXPO GAMEWORLDの主催者の携帯電話に連絡があり、会場で男の子が泣き叫んでいるという報告がありました。天野さんに会うためにホライマ州から来たというのです。ホライマ州はベネズエラとの国境の州でサンパウロまでは4,000km以上です。その話を聞いた天野さんはすぐに筆を手に取って、その男の子のために絵を描き始めました。会場に戻った主催者によってその絵が手渡され、後日、メッセージが届きました。「不可能と思った(サイン)を頂いたことは一生忘れられない記念になりました。私は天野さんとその作品の素晴らしさを深く尊敬します。ありがとうございました。」

最初は蜘蛛の糸のようだと思っていましたが、いつの間にかその糸は蜘蛛の巣のように広がり、ブラジル中を覆っていたのです。4,000kmという距離を動かしてしまう天野さんの作品の力に驚くとともに、私たちが紹介している文化の力を改めて気付かせてくれました。また、遠くから来た彼らの天野さんへの強い思いが天野さんと結び付けてくれたのでしょう。
そして、今、当センターにはブラジルで天野さんが制作された「ブラジルにて」というタイトルの4枚の絵があります。この新作を含めて2012年5月10日から30日までジョー・マベ芸術文化センター(JOH MABE Espaço Arte & Cultura)において作品展示を行う予定です。

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ジョー・マベ芸術文化センターの告知





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