01『放課後』 がんばるぞー! おー!

大山慶



皆さんはじめまして。大山慶と申します。

普段は肩書を「映像作家」と書くことが多いのですが、もうずいぶん長いことアニメーション以外の映像作品を作っていないし、まだしばらくはアニメーションという技法で楽しく制作できそうなので、「アニメーション作家」にしちゃってもいーかなーなんて考えているところです。

さて、この連載では、僕の作品やその制作法などについて書きつつ「短編アニメーション」という、超マイナーな世界についてのご紹介をできたらと考えています。今回は第1回目ということもありますので、この連載のタイトル「あ は あにめーしょん の あ」についてと、現在制作中の作品について書かせていただきたいと思います。


「あ は あにめーしょん の あ」
実はこれ、パクリなんです。
いや、パクリというよりインスパイアされたというか......オマージュ?

1992年にイギリスで制作された短編アニメーションに『ジは自閉症のジ(原題:A Is For Autism)』という作品があります。自閉症の子供たちが描いた絵をもとに作られたアニメーションに、子供たち自身が語りを入れた11分の作品で、子供たちの絵を動かす際の再現度の高さが素晴らしく、しかも、ただ動画を描いて撮影するだけではなく、実写にはめてみたり、カメラワークを激しくしてみたり、といろいろやっています。オープニングの、次々と絵が別の絵に変わっていく(モーフィングしていく)シーンは、何度観ても気持ちがいい! 興味のある方は、ぜひ、原題をネット検索してみてください。

それではなぜ、連載タイトルでオマージュを捧げるほど『ジは自閉症のジ』を意識してしまっているかといえば......実は、現在制作中の新作に関係があるのです。


僕は現在『放課後』という作品を制作中です。この作品は、2008年に3分程度のパイロット版を作り、2011年に本編の制作を開始、2012年に完成させるはずが、あっという間に2014年になってしまった、という作品で、『ジは自閉症のジ』同様、様々な画材で描かれた様々な絵柄によって構成しています。

keioyama01.jpg 舞台は中学校の放課後。球拾いをしている野球部の1年生は退屈であくびをし、不良学生は屋上からランニングする陸上部員めがけてツバをたらし、お調子者の男子生徒は気になる女子生徒を図書室で見つけるものの彼女に好意を伝える勇気がありません。芽生えたばかりの自意識に振りまわされながら、皆がそれぞれの放課後を過ごしています。

keioyama02.jpg 予告編を見るとおわかりいただけるかと思いますが、この作品は、各カットの絵柄が「登場人物たちがおのおの描いた自画像」である、という設定で展開していきます。つまり、画面の中心に映る人物が変わるたびに画面全体の絵柄も次々と変わっていくのです。

A君から見たB君と、B君自身が思うB君には当然違いがあるでしょうし、B君の世界にとってA君は背景の一部としか認識されていないかもしれません。この作品では、世界観の統一ではなく多様化を目指し、登場人物一人ひとりの内面に迫ると同時に、彼らが一堂に集まる場としての学校を、また、思春期という時代そのものを描き出そうとしています。



『放課後』を作り始めた頃はまだ『ジは自閉症のジ』を知らず、初めてこの作品を観たときは「20年前に作られたこの作品と比べて、どこか一つでも良い部分がなかったら、『放課後』を作る意味がないよなあ」なんて落ち込んだものです。

連載の最終回では、完成した『放課後』について、メイキングや受賞風景の映像と共にお伝えできればと思っています。 がんばるぞー! おー!





keioyama00.jpg 大山 慶(おおやま けい)
アニメーション作家 1978年東京都生まれ
2005年、東京造形大学の卒業制作『診察室』が学生CGコンテスト最優秀賞、BACA-JA最優秀賞などを受賞。カンヌ国際映画祭監督週間をはじめ、海外の映画祭に正式招待される。'08年には愛知芸術センターオリジナル作品として『HAND SOAP』を制作。オランダアニメーション映画祭グランプリや広島国際アニメーション映画祭優秀賞など多数の受賞を果たす。映画『私は猫ストーカー』('08)、『ゲゲゲの女房』('10)ではアニメーションパートを担当した。現在、自ら設立に加わったCALFに在籍し、制作、配給、販売など幅広くアニメーションに携わりながら、新作『放課後』を制作中。

公式サイト : http://www.keioyama.com/
CALF : http://calf.jp/
CALF STUDIO : http://calf.jp/studio/




Page top▲