雑誌『をちこち(遠近)』
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一、落語は観るものではなく、聴くものなんです

立川志の春



お初にお目にかかります。
立川志の春と申します。落語家です。「笑点」には出ていません。でも落語家です。
そんな落語家いるの? います。すごく沢山います。すごく沢山いる、その一人が私です。
食べていけるの? いきなり、はらわたをえぐるようなことを聞かないでください。
とにかく、これからしばらくの間、連載エッセイを担当させていただきますので、お付き合いのほど、どうぞよろしくお願い申しあげます!

shinoharu01_01.jpg 私から皆さんに質問です。
落語、生で聴かれたことはありますか?
ある、という方、ありがとうございます!
ない、という方にはもしかするとちょっと敷居が高いと思われているかもしれません。
伝統芸能だから、歴史とか文化についての予習が必要だと思われているかもしれません。

実は私自身もそのように思っていました、実際に落語に触れてみるまでは。
私は25歳の時、巣鴨という町で、生まれて初めて落語というものに出合いました。
私の師匠、立川志の輔の独演会でした。

偶然通りかかって、気まぐれに入ったその独演会で、私は落語の「虜」になりました。
小さな会場の中、80人のほかのお客さんたちと一緒に腹をよじらせて笑いながら、「なんでこんな面白いものをこれまで知らなかったんだ!」と思っていました。

何よりも驚いたのが、落語に入った途端に師匠の姿がフッと消えたことでした。
別に高座から降りて用を足しにトイレに行ったわけではありません。
そうではなくて、噺の登場人物たちがブワーっと私の頭の中に描き出されて、しゃべっている本人が消えたという感覚があったのです。小説を読んでいるような感覚でした。
ぞくぞくっとしました。予習なんか必要ない。生の落語は身体で感じるものでした。

最初に「落語を聴いたことはありますか?」とお尋ねしました。
落語って、基本的には観るものではなくて聴くものなんです。演者は一人で座布団の上に座り、右と左を向いてしゃべっているだけですから。視覚的な情報は最小限です。
でも、だからこそお客さんの想像力を刺激し、一緒に素敵な絵を描き出すことができる――それが落語なんだと私は思っています。

初めて出合った時の衝撃があまりに大きくてすっかり心を射貫かれ、1年後に勤めていた会社を辞めて落語家になりました。それから12年、一度も後悔したことはありません。

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二つ目に昇進する前の前座時代

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演者名が書かれた紙の札「めくり」

これから1年間、私が惚れこんだ落語の世界について、皆さんにできるだけ身近に感じていただけるように書いていこうと思っています。
最終目標は、皆さんに実際に落語に触れていただくこと。別に私じゃなくていいんです。誰のでも。私のなら、なお嬉しいですが。

何はともあれ、来月またお会いするのを楽しみにしています!





shinoharu00.jpg立川志の春(たてかわ しのはる)
落語家。1976年大阪府生まれ、千葉県柏市育ち。米国イェール大学を卒業後、'99年に三井物産に入社。社会人3年目に偶然、立川志の輔の高座を目にして衝撃を受け、半年にわたる熟慮の末に落語家への転身を決意。志の輔に入門を直訴して一旦は断られるも、会社を退職して再び弟子入りを懇願し、2002年10月に志の輔門下への入門を許され3番弟子に。'11年1月、二つ目昇進。古典落語、新作落語、英語落語を演じ、シンガポールでの海外公演も行う。'13年度『にっかん飛切落語会』奨励賞を受賞。著書に『誰でも笑える英語落語』(新潮社)、『あなたのプレゼンに「まくら」はあるか? 落語に学ぶ仕事のヒント』(星海社新書)がある。


*公演情報は公式サイトにて。
立川志の春公式サイト http://shinoharu.com/
立川志の春のブログ  http://ameblo.jp/tatekawashinoharu/




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