トロント:トロント日本文化センターの活動報告(2008.12)

トロント日本文化センター

10月4日 土曜日夜から翌朝まで、夜を徹してトロント市内全域で現代アートの展示を行う「ヌイ・ブロンシュ」が開催されました。今年が3回目にあたるこの祭典。老若男女が普段着感覚で現代アートを楽しむイベントです。新聞によれば今年は約100万人が参加したとのこと。トロント市の人口が約550万人であることを考えると、いかに多くの人が現代アートを楽しんだのか、その規模がわかります。

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今年の目玉展示のひとつとして日本のアーティスト藤原隆洋さんの作品「INTOTHEBLUE」が選ばれ、この展示の実現に向けて当センターも協力してきました。

鮮やかなブルーのオブジェが、市内最大のショッピングモールの空間に吊るされ、きらきらと光を浴びながら回転するこの作品。ブルーの物体の出現でショッピング街が非日常空間に変わり、下から見上げるとブルーの中に吸い込まれていくような感覚にとらわれます。市内で最も人の集まるショッピングモールだけあって、夜にもかかわらず常に数百人の市民がこの作品のまわりを取り囲み、携帯で写真をとったり、ビデオ撮影をしたり、寝転がってボーっと見上げたり、思い思いに楽しんでいました。おそらく一晩で2万人以上の人がこの作品を観たと推定されます。

この展示が実現するまでには、紆余曲折がありました。責任キュレーターのゴードン・ハット氏から藤原氏に、環境にやさしい素材で作品を作ってほしいという要請が寄せられたのは今年の春。藤原氏は素材探しからはじめ、「ソフトアクリル」という素材にたどり着きました。ビニールと同じように加工ができて、かつ、環境にやさしいその素材をシート状に開発している企業「稲畑ファインテック株式会社」に素材の提供をお願いしたところ、同社が快く引き受けてくれたところから、この展示がようやく現実味を帯びてきました。なにぶん新しい素材なので、作家が必要とする青い色のついたものはまだ存在せず、在庫も余分はほとんどない状況。とにかく無色透明な「ソフトアクリル」を無償で提供いただくことができました。

さらにこの新素材にブルーの色を印刷したり、作家のイメージどおりの形に成型していく作業も、それぞれ別の企業にお願いし、現場の技術者の方々の協力を得て、ようやく作品が完成したのが展示まであと数日というところでした。日本の企業や技術者が現代アートのために汗を流してくれたことが、夜中のトロント市の大ショッピングモールに漂い数万人を超える市民を吸い寄せているこの青いオブジェの裏側にあったことが、ますますこの作品に魅力を与えているような気がします。

センターは作品輸送料の一部を助成し、責任キュレーターのゴードン・ハット氏や藤原氏と緊密に連絡をとりつつ、さまざまな形で本件展示実現に協力をしました。また、当センターも「木版画展」などでヌイ・ブロンシュに参加し、一晩で3,000人以上の方が訪れるなど、現代アートの一夜を市民と一緒に楽しみました。

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