日本文化、先端技術、エネルギー政策を総合的に伝える~ニュージーランド、トンガ、フィジーでの太陽光発電の紹介

星井拓也 東京大学先端科学技術研究センター助教



「次世代太陽光発電」をトピックとした講演会とワークショップのために、東京大学先端科学技術研究センター岡田至崇教授とともに、2012年7月末~8月上旬にかけて、オークランド、ウェリントン(ニュージーランド)、ヌクアロファ(トンガ)、スバ(フィジー)といった3カ国4都市をめぐった。国際交流基金の事業としては、かなり異色のテーマだそうである。
最新の太陽電池研究についての講演会に加え、同年6月に駒場第2キャンパスで行われたオープンキャンパスでの理科教室企画「オリジナル太陽電池をデザインしよう」を海外で行うという、我々の研究室にとっても、前例のない企画でもあった。
理科教室用の素材であるシリコン基板(ICチップの製造などに使われる半導体の基礎となるもの)は現地調達できるようなものではないし、現地では化学薬品による洗浄もできないという、半導体デバイスの研究を行っている身としては不安だらけの準備。しかも取り寄せた基板が意図していた構造と違っていて、仕方なく手作業で薬液処理を...、といったドタバタを出発直前に繰り広げながらも、夏の日本を脱出し、いざ南半球へ。


自然エネルギー利用は盛んであるが故に、太陽光発電への注目度はまだまだのニュージーランド

当然のことながら季節は冬。ひどく寒いわけではないが朝夕はやはり冷えるので、防寒具を現地調達。空港からオークランド市内への車中、牧場の羊を見て先入観と見事に一致したのが印象的であった。また、同国の国鳥でもある"Kiwi"が、「ニュージーランド人」という意味でも使われることに少し驚いた。オークランドは日本人や中国人などのアジア系の人々が多く、ウェリントンでは逆にほとんど見ないというように、都市ごとの特徴が大きいようだ。現地の職員曰く、南の方ほどイギリス色が強いとか。
ニュージーランドでは3か所での講演(オークランド大学マクディアミッド研究所から14大学への中継講演、在ニュージーランド日本国大使館)、と、1か所でのワークショップ(オークランド大学)を行った。熱心な参加者が多く、講演会後の質疑では積極的に質問が寄せられた。
同国は自然エネルギーの活用量が多い。2010年統計によると水力をはじめとする自然エネルギーの比率は全発電量のうち実に74%である。中心産業が農業や酪農であり、観光業も盛んであることから、国として環境への意識が極めて高いことが伺える。しかし残念ながら太陽光発電への注目はニュージーランド国内では高くはないようだ。水力や地熱といった自然エネルギー資源を潤沢に持っていることも潜在的な理由として考えられるが、一般的な意見としては天候が向いていないという旨のものが多いように感じた。しかし雨が多いとされるオークランドでも、統計上の日照時間は日本と同等(~2,000時間/年)であり、さほど悲観的な数字ではないのである。

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ニュージーランドでの最初の講演は、オークランド大学で行われた。岡田至崇教授の講演では、日本国旗と太陽など日本人にとっての太陽の繋がりなど文化的な導入で聴衆の関心を引き付けた後、ニュージーランドと日本のエネルギー政策、日本の先端技術の事例として、様々な材料・構造の太陽電池、集光型太陽光発電装置などについて実物を示しながら講演を行った。
大学教員・学生に加え、幅広い年齢層の一般の方も含む110名超の来場者があり、活発な質疑応答が行われた。
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オークランド大学で行われたワークショップでは、筆者による太陽電池作りのワークショップが行われた。参加者は、太陽電池に用いられるシリコン基板に、導電性のペーストが入った特殊なペンを使って、その場で自分の好きな電極を描き、オリジナルの太陽電池を作成した。各自が作った太陽電池の発電量を競ったり、モーターを動かすために仲間同士の太陽電池を接続したり、楽しみながら太陽電池作りに取り組んだ。


太陽光の強度も強く将来が期待されるトンガ

ニュージーランドでの日程を終え、トンガへ移動。トンガはポリネシア人の国であり、体格のよい人が多い。アシスタントとして日本から同行した岡田研究室の大学院生は機内の3列席でとても立派な体格の方々に挟まれ、何とも窮屈そうであった。人々は温和で話好きといった印象で、サービス業にはあまり向かないのではと思われるほどのんびりしているように感じた。英語は通じるが独特の訛りがある。機内で隣席であった男性の発した「フェイスタイム」が"first time"であることを察するのに数手間要したことを話題にしたところ、後日乗車したタクシーでも運転手が同様の言い回しをして内輪の笑いをよんだ。
トンガは国内産業を十分に持っておらず、病院などの社会基盤施設には外国からの援助(日本のODAなど)によって建設されたものが多い。電力網については、大きく傾いた電柱が散見されるなど、安定供給がされている状況ではないようだ。また、国内の電力の9割以上をディーゼル発動機による発電から得ており、燃料の輸入コストが極めて高い。その貿易赤字を埋めるのも海外からの援助だそうだ。
しかし、トンガの年間日照時間は約2500時間あり、太陽光の強度も強いことから効率よく発電が行えると期待される。近年、1.5MWクラスの太陽光発電プラントの建設や、離島への家庭用太陽光発電システムの配布といった支援も進んでいるが、それらを管理・維持していくことが将来的には必要になる。トンガでの講演およびワークショップはトンガ科学技術専門学校で行ったのだが、同校で技術を身に付けた学生たちが、将来のトンガの社会システムを支えていくことを願ってやまない。

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トンガ科学技術専門学校での講演には、同校の教員・生徒の他に、トンガの電力会社の職員など、総勢70名余が参加した。トンガでは、ニュージーランドの民間企業との共同事業として、トンガ発の太陽光発電所が稼動したばかりだったこともあり、筆者の講演を熱心に聞いてくれた。 energy_nz04.jpg
講演の後に行われたワークショップでは、JICAシニア海外ボランティアの山形又三さんと同校教員の協力で、太陽電池作成のワークショップを行った。ワークショップの最後には、電流と電圧を測定し、性能を競った。


家庭用太陽光発電システムの導入が徐々に進むフィジー

最後の訪問国であるフィジーは滞在時間約45時間(しかも、うち移動が約8時間)という弾丸ツアーであった。スバへの到着は夜になっていたが、家先の街灯などが明るく、近代化の進み方が、隣国であるトンガと大きく違うことが直観できた。人の印象はやはりフレンドリーなのだが、トンガと異なるのは商魂であろう。空き時間に訪れたマーケットではかなり積極的に声をかけられた。マーケットの魚や野菜・果物の種類は豊富で、現地の職員曰く、魚は沖縄のものに近く、野菜は中国系移民のおかげで種類が増えているそうだ。
フィジーは近年までは80%程度の電力を水力で得ていたが、鉱山開発などにともない水力の割合が60%ほどに低下し、残りほとんどの電力は火力から得ている。比較的大きな島があり山や川を持つため火力への依存度はさほど高くないものの、近代化や開発に伴う電力消費の増大は避けられず、電力コストが増加していることが推察される。一方、離島では電化が十分ではない地域も多いため、家庭用太陽光発電システムの導入も徐々に進められているようだ。フィジーも年間日照時間が2,500時間程度望めることから、有効な電力源として働くであろう。
さらに、国内産業に占める観光業の比率も高いため、環境への意識はやはり高いと考えられる。南太平洋大学で行った講演およびワークショップには近隣の高校からの参加者が多く訪れ、環境分野への強い意欲を感じることができた。

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フィジーでは南太平洋大学で、有機系太陽電池の研究を行っているRaturi教授の司会により講演会を実施した。7つの高校から引率の教師・学生、大学生、民間企業の社員など80名余が参加した。講演終了後には、多くの学生が講師である筆者のもとに集まり、質問攻めとなった。 energy_nz06.jpg
また、ワークショップでは、忍者を描く女子高校生がいるなど、発電効率よりも個性あふれたデザインの太陽電池ができあがる楽しい場面があった。これらの様子は、地元紙「Fiji Times」でも取り上げられた


「太陽のエネルギーを電気エネルギーとして収穫する」太陽光発電の未来

約2週間の旅程を終え、真夏の太陽の照りつける日本に戻ってきた。振り返ってみれば、英語が使えればほとんどのコミュニケーションが取れたため、今回の旅は比較的気楽なものだったといえる。今回訪れた国で走っていた車の多くが中古の日本車であったことも気分を和ませた一因かもしれない。
太陽光発電は平たく言えば、太陽のエネルギーを電気エネルギーとして収穫するものである。太陽光パネルなどの初期投資は必要であるものの、燃料などを必要としないという点でランニングコストが低く、資源を十分に保有していない国や環境意識の高い国にとって有効な発電源となりうる。さらに、電力網が十分でない地域の独立電源としての用途もある(ただし、バッテリーは必要)。日射量の多い地域では尚有効である。今回訪問させていただいた国々は、それぞれのエネルギー事情に特徴があり、そのような国で太陽光発電がどのような見方をされるのかという点は大変興味深いものであった。
我々は工学の人間であるため、思想・信仰の類を偉そうに語れるものではないが、今回の講演の導入部では「御来光」への畏敬、日本神話の太陽神「天照大神」、「日本」という名称およびその国旗などを取り上げ、日本における"太陽"について言及した。多くの農耕民族にも言えることであるが、日本人が太陽の恩恵をありがたく感じていることは、海外の人々にとっても説得力のある事実であると思う。今回のような講演会やワークショップを通じて、環境への関心とともに、日本への関心もこれまでと違った角度から高めることができていれば、これ以上のことはない。





energy_nz07.jpg 星井 拓也(ほしい たくや)
1984年福岡生まれ。東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻博士課程修了、博士号取得。日本学術振興会特別研究員を経て、2011年より現職。東京大学先端科学技術研究センターでは、岡田至崇研究室にて、次世代型高効率太陽電池を目指した新材料・新構造の研究の一環で、自己組織化成長法を用いた3次元量子ナノ構造・超格子の作製技術と高効率量子ドット太陽電池の作製などに取り組む。



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