日印協力:今こそ求められる再生可能エネルギー分野での取り組み パナーセルヤン・プラカシャ

パナーセルヤン・プラカシャ



日本とインドの関係は今に始まったことではありませんが、政治と安全保障の分野における日印協力は比較的新しいものです。両国には共通の社会文化的伝統があり、最も重要なことは、日印関係には構造的な障害がないことです。日本は原子力爆弾で大多数に犠牲者を出すという被害を受けたにもかかわらず、工業化を進め、短期間に高度の経済成長を成し遂げました。
日印両国が実際に緊密な相互関係を築き始めたのは、冷戦後の時代になってからでした。インドが経済の自由化という重大な決定を下し、これにあわせて政府が「ルックイースト政策」を取ったことが、日本からの投資を引き付けたのです。今日の日印関係は、安定しているばかりでなく、広い範囲の経済的・戦略的事項を含むまでに拡大しました。とりわけ、両国の関係は民生用原子力に関する協力協定の交渉が行われるまでに成熟しました。日本は、インドと民生用原子力協力協定を結ぶことによって、インドの原子力エネルギー市場に大規模に参入することが可能になります。一方、インド政府にとっては、この協定によって、国の原子力発電には不可欠な主要技術に手が届くようになり、エネルギー市場の拡大に役立ちます。

インドはその急速な経済成長によって、そのエネルギー市場は世界で2番目の速さで成長するに至っています。現在の経済成長を維持するためには、インドはエネルギー消費を4パーセント増やさなければならないと専門家は考えています。国内エネルギー消費の急激な増加はインドにとって大きな課題であり、インドの外交政策に影響を与えることは必至です。日本も深刻さを増すエネルギー危機と無関係というわけにはいきません。というのも、日本は国内エネルギー需要を満たすためのエネルギー源を大幅に海外に依存しているからです。
したがって、石油や石炭などの炭素エネルギーや原子力ではなく、太陽光、風力、水力などの再生可能なエネルギーを代替のエネルギー源として考えるべき時が来ています。日本でもインドでも原子力発電に対しては激しい反対があり、両国は共同で再生可能エネルギーのメリットを活用できるよう関係を深める必要があります。
最も大切なことは、再生可能エネルギーは、エネルギー自給と二酸化炭素排出問題の両方の解消を確約しているということです。それゆえに、再生可能エネルギーに関する相互協力は、もともと協力関係にある日本とインドにとって、今こそ取り組むべき協力課題なのです。

エネルギー問題は日印両国にとってきわめて重要です。東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故で、原子力に対する一般の人びとの信頼は大きく揺らぎました。日本は海外から輸入する原油に過度に依存しており、福島原発の事故は石油危機をさらに悪化させました。ニュース報道によると、北海道の泊原発3号機が定期検査に入るため、2012年5月6日に稼働を停止し1970年以来初めて、日本国内の原発全てが止まりました。

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日本の脱原発運動

一方、日本のLNG(液化天然ガス)の輸入量は2011年に12パーセント増加し、未曾有の原子力危機が続く中で、2012年にはさらに増加するものと見られています。日本が、二酸化炭素排出が少なく、しかも非原子力の代替エネルギーを模索する中で、日本政府は、再生可能エネルギーによりエネルギー需要を満たすため、エネルギー政策の見直しを進めています。日本では現在、非炭素エネルギー源から得られる電力は全体の9パーセントにすぎません。この比率を高め、原子力への依存度を下げるため、管直人政権は太陽光その他の再生可能エネルギー源への投資を促進するのに不可欠な再生可能エネルギー法案を決定しました。この新しい法律により、電力会社は太陽光、風力、地熱、水力、バイオマスを使って発電される電力をすべて現在の価格で最大20年間にわたって買うことが義務付けられることになっています。沖縄ではすでに、1メガワットの太陽光発電所が運転を開始しており、政府はこれらを促進するための補助金制度の制定準備を進めています。このプロジェクトを効果的に実施することにより、日本は政府目標としている2020年までに28ギガワットの太陽光発電能力を持つことになりましょう。

 日本で起きた未曾有のレベルの「三重災害」は世界各地に大きな混乱を引き起こしました。インドの人びともこの災害によって深い衝撃を受けました。インドで建設される予定の原子力発電所の影響を心配したのです。クダンクラムとジャイプールの2ヶ所での原発建設予定地における大規模な抗議行動は、原発の安全性と深刻な事態が発生した際の政府の備えに重大な疑問を提起しています。しかし、大きな政策変更の動きはなく、インド政府はむしろ新興国インドのエネルギー需要を満たすため、原発建設プロジェクトを継続する決意を固めているようです。しかし、インドの総エネルギーにおける原子力の寄与度は3パーセント以下で、原子力の占める割合がきわめて高い日本とは比較になりませんが、インドは原子力発電の拡大を計画中で、2020年までに原発による電力供給能力は2万メガワットに達する見込みです。
世界的に見ると、原発に対する考え方は今や否定的であり、多くの先進国は再生可能エネルギーを原子力に代わるエネルギーと見なしています。インドは発展に向けて大躍進を遂げつつありますが、今はそのエネルギー政策を再考すべきときに来ています。

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インドの原発建設予定地における大規模な抗議行動

 ここで、発展途上にあるインドにとって最も実行可能性が高く、しかも将来性のある基本的なエネルギー源は何かという疑問が出てきます。重要な問題がいくつかある中で、まず考えてみなければならないのは、どうやったら日本とインドが、再生可能エネルギーおよび省エネルギー事業から恩恵を受けることができるかということです。インドは地理的特徴により、エネルギーその他の天然資源に非常に恵まれています。長い沿岸水域、サンゴ礁、1年中降り注ぐ太陽光、そして風力利用の大きな可能性が、再生可能エネルギーと省エネ事業を有望なものにしています。これらのエネルギー供給を推進し、確実なものとするには、最先端の技術と最高のエネルギー管理手法が求められ、特にインドはそれらの技術やノウハウを必要としています。日本の効率的な技術と代替エネルギー技術はすでにその実績が証明済みであり、インドにおける開発努力に役立つ可能性があります。
日印両国の首相はすでに共同声明で新しいエネルギー源や再生可能エネルギーの開発で協力することに合意しています。この共同声明によると、両国はエネルギー分野での協力を検討・推進するため5つのワーキング・グループを設置しました。さらに、双方はインドの都市の一つを「ソーラーシティ」として共同で開発することを決めました。インド政府はこれまでに国内34都市を「ソーラーシティ」計画に基づく開発対象都市として認定しています。専門家によると、「ソーラーシティ」計画の目標の一つは、従来の化石燃料エネルギー技術による発電量を今後5年間で少なくとも10パーセント削減するというものです。さらに、日本は自然資源を利用して地域社会の自給力を高める「緑の分権改革」を進める計画です。
また、研究開発における協力や専門家間の交流も日印両国間の再生可能エネルギー分野における協力の重点事項になっています。今年度(2012年度)の日本のインドに対するODAのうち、円借款は1326億4600万円を上回る見通しで、再生可能エネルギーの利用促進を含むインフラ整備にあてられることになっています。

 こうした事実や数字は、日印両国がともに再生可能エネルギー分野で着実な進展を遂げていることを示していますが、理想的な計画の実現を目指すには、省エネルギーを推進するための法的枠組み、税制、助成制度を協力してつくり出すことが必要です。技術やエネルギー管理手法の導入は時間がかかり、しかも骨の折れる仕事で、中央政府、州政府、および実施機関の間の調整が必要です。加えて、官僚による規制やお役所仕事が、実行可能性の最も高い省エネルギー技術を実施に移す機会をさらに減らしてしまう可能性もあります。したがって、インドとしては、そのエネルギー需要見込みの詳細を提出し、それに基づいて、日本など友好国の力を借りて再生可能エネルギー推進策を進めなければなりません。一方、それによって、日本はインドのエネルギー市場に参入することが可能になります。インドのエネルギー市場は、国内需要の増加が引き続き見込まれることから、将来はさらに拡大するものと見られます。

 最後に、日印両国は今年、国交樹立60周年を迎えていますが、持続可能な開発のためにさらに努力する必要があります。国際関係はプラグマティックなものであり、2国間の関係においては、正しいバランスを見出し、平和、安定および秩序ある移行を確かなものにする必要があります。日印関係は地域的にも重要な意味があり、地域の他の諸国が自給力を高める道を歩むのを主導するものでなければなりません。さらに、日印両国が現在の友好的な関係を今後も保ち続けるためには、数多くの「友情の橋」を築く必要があります。再生可能エネルギーでの協力は、両国が「二酸化炭素を排出しない関係」を築くために重点を置かなければならない橋に一つでなければなりません。





japan_india01.jpg パナーセルヤン・プラカシャ Panneerselvam Prakash
国際交流基金日本研究フェローシップにより、2011年10月に来日。海上自衛隊幹部学校の客員研究員として「日本の海洋安全保障」に関する博士論文を執筆中。
マドラス大学防衛戦略学部で学士号・修士号を取得。商船員の訓練を受けた経験があり、日印関係に関する論文を複数発表している。



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