雑誌『をちこち(遠近)』
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ソーシャルメディアが社会を変える~国や文化を超えた若者の連帯

ディーナ・ハッサン・バスラン
アフマド・モハメド・アブドゥラ・エル・モネイム・エル・ドーガミー



2010年10月からはじまった「アラブの春」でエジプト、チュニジア等の長期独裁政権は終わりをむかえましたが、人々が目指す市民主導の社会を構築するまでには、さまざまな課題があります。
国際交流基金では、国をつくり、地域をつくる上で重要なのは、少数のトップダウンのリーダーだけではなく、ひとびとを巻き込み、力づける現場のリーダーたちだという観点から、「国とコミュニティーの構築におけるリーダーシップ」をテーマに、「中東次世代リーダー訪日事業」を実施しました。
エジプト、チュニジア、ヨルダンから来日した16名の社会起業家、ジャーナリスト、NPO関係者等は、2012年2月19日~28日の10日間の日程で、被災地域も含めて日本各地の団体・企業、現場で活躍する地域のリーダーらを訪ね、社会の再構築にあたりリーダーに求められるものを語り合いました。

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東京の下町「根津」を拠点に、新しい市民社会の基盤づくりに貢献する取り組みをおこなっている広石拓司氏(株式会社エンパブリック代表取締役)と、谷根千地域(谷中・根津・千駄木エリアの総称)の事例から「場」を作ることの意義について意見交換

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紛争後における人々の再教育や避難民の社会復帰を手がけるヨルダン地雷除去・復旧国立委員会国際部責任者のムナ・イブラヒム・アル・アルル(Muna Ibrahim Al Alul)、宮城県刈田郡蔵王町の「ざおうハーブ」で。農業や漁業の若手後継者らを中心に、若い担い手が地方で活躍出来る仕組みを模索する「宮城のこせがれネットワーク」の取り組みについて聞いた。

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2月下旬の雪の石巻を訪問。Ishinomaki2.0及びいしのまき被災企業「元気」復興委員会の皆さんと、中東と石巻における社会の再構築を考えるワークショップを行った。


日本滞在中には、ジャーナリストの津田大介氏から「危機対応と復興におけるソーシャルメディアとソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の役割」をテーマにした講義があり、ソーシャルメディアが中東の変革に圧倒的な力を発揮した経験を踏まえて、参加者の2名が、日本と中東・北アフリカ地域の共通点や相違点について、綴ってくれました。

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津田大介氏と「社会変革のときのSNSの役割」をテーマに意見交換





津波への危機対応と「アラブの春」の共通点

「自分が正しいと思ったことをやる。そうすれば、後に続きたい(フォローしたい)人は、付いてきて(フォローして)くれる」、ツイッターでの活発な情報発信で著名な津田大介氏の講義のなかで、これがおそらく、私たちが一番気に入った発言である。
これは、現代を生きるリーダーたちにもあてはまることである。さまざまな国で、さまざまな理由によって起きている、急速な変化や危機的状況に、今日のリーダーたちは迅速に対応しなくてはならない。

国際交流基金の中東次世代リーダー訪日事業の4日目の活動として、私たちはソーシャルメディアに関する津田氏の講演を聞く機会があった。津田氏は、昨年日本を襲った津波への危機対応の中でソーシャルメディアが果たした重要な役割についても語ったが、それを聞いて、私たちは中東・北アフリカ地域が置かれている状況との間に、多くの明確な類似点があると感じた。特にチュニスとエジプトで革命が起きたときの状況、さらに革命に続く市民社会活動には、多くの類似点があった。

・ 即時的なコミュニケーション・ツール(通信手段)が、いかに人々を素早く団結させ、相互支援に役立ったか。そして、それらが人々を危険から救うのにいかに役立ったか。

・ ソーシャルメディアがニュースや情報を手段として最も早く提供することができたこと。ソーシャルメディアはときには公式のニュースソースより適切である。それによって各メディア間の連携が促進された。

・ ソーシャルメディアによって、コミュニティー自身が、行政機関と同じ役割を迅速に果たすことを可能にしたこと。コミュニティーが自主独立的存在になるのにいかに貢献したか。

・ リーダーたちが、ツイッターなどのツールを手段として使ったこと。多くのコミュニケーションがソーシャルメディアによって提供され、リーダーらが常に連絡のつく状態でいられたこと。(例えば、ヨルダンのラニア王妃はツイッターを活発に利用している。王妃はヨルダンの観光促進のためにYouTubeにチャンネルを立ち上げるなど、ソーシャルメディアを利用した多くのイニシアチブで称賛を受けている。)

そして、ソーシャルメディアを通じて、各々の危機に際して発信された情報が、国際的に関心を集め、多様な支援を受けた「クラウドソーシング」(インターネットなどを通じて、世界中の不特定多数のソーシャルメディア利用者が問題解決に参画する様)も、見逃せない類似点と言えるだろう。

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(左)エジプトで起業家育成を目的とするNPO起業家ビジネスフォーラム(Entrepreneurs Business Forum)で理事を務めているタマル・アシャラフ・バドレルディン(Tamar Ashraf Badreldin)。自身も雇用創出のためのプラスティック加工会社を経営
(右)チュニジアのビジネス系ラジオ局「ラジオエクスプレスFM」において、プライムタイム番組のホストを務めるタレク・ムラド(Tarek Mrad)。若者層を中心に多くのリスナーを抱える著名なラジオ・ホストの一人。局のマーケティング担当としても活躍



ソーシャルメディアが活用されたアラブの具体例

津田氏の講義の後、我々を含め、エジプト、チュニジア、ヨルダンからの参加者らは、それぞれの国の事例を用いて、津田氏と議論を行った。
エジプト革命では、ソーシャルメディア、そして"Kollena Khaled Said"やその他多数のグループのFacebookページが触媒となった。
また、ヨルダンでは、自然破壊につながる開発計画への反対運動が成功を収めた時にもソーシャルメディアが使われていた。例えば、ヨルダン北部のバーゲシュの森(Bargesh Forest)に陸軍士官学校を建設する計画が持ち上がったとき、それに反対する環境保護活動がツイッターを使って行われたことはよく知られている。メディア間の連携という現象も、中東・北アフリカ地域での多くの事例と非常に類似していた。ヨルダンのブロガーや市民ジャーナリストのツールとなっている「7iber.com」もその一例で、主にツイッターやFacebookを利用して活動している。
一方、チュニジアでは、ソーシャルメディアが、称賛に値しない「スター」を創り上げる一因となっているのではないかとの議論があった。エムナ・ベン・ジェマー(Emna Ben Jemaa)がその一例である。ジェマーは熱心なブロガーで、オンライン・ソーシャル・ネットワーク上のさまざまなチャンネルに多くのフォロワーを持っており、そのおかげで注目度の高い政府のスポークスパーソンに任命された。ジェマーの地位と評価は誇張されたものであり、彼女をそうした地位や評価に値しないと考える人々もいる。

津田氏はこうした問題がいかにして起こるかについて説明し、チュニジアに似た、称賛に値しない「スター」の出現は日本のソーシャルメディアにもいるかもしれないこと、さらにこうした問題はどこでも起こり得ると応え、津田氏と参加者とで、ソーシャルメディアの賛否に関するさらに多くの類似点、そしてソーシャルメディアの利用についての広く深い議論が行われた。

この他に、ソーシャルメディアの利用に関して、日本と中東・北アフリカ地域が共通課題として抱える問題としては、不正確だったり、古くなってしまった情報も流通してしまう点がある。例えば、救難連絡が発信された後、その発信者は救出されて、事態は解決してしまったにもかかわらず、救難連絡が残り続けてしまい、現場が混乱してしまう場合などである。ソーシャルメディアの空間には古くなった情報も残り続けるので、情報の混乱を増大させることがある。日本ではツイッターで発信された救助要請で、正しい情報に基づいているのはおよそ半分だったというのが印象に残っている。 それでも危機的状況下におけるソーシャルメディアの利用には、これらのデメリットをはるかに上回るメリットがあることは間違いない。

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(左)チュニジアで第1位の視聴率を誇る民放テレビ局Hannibal TVの文化番組『文化にズーム』の司会を務めるナウェル・スケンダジ(Nawel Skendaji)。ジャーナリストとして文化関連の取材・報道経験も豊富
(右)環境保護を行う企業のIT・コミュニケーションスーパーバイザーとして勤務するアフメド・エル・メハラウィ(Ahmed El Mehalawy)。勤務のかたわら、その専門技能を活かし、社会発展プログラムを手がけるボランティア組織「Resala」や赤新月社のコンピュータ・ネットワーキング構築など、非営利団体のITインフラ構築にも貢献



ソーシャルメディアが果たした役割の違い

津田氏との議論の中では、ソーシャルメディアの役割と使用に関して、日本と中東・北アフリカ地域が置かれている状況には、共通点だけでなく、異なる点も多数あることも明確になった。
中東・北アフリカ地域に比べ、日本のほうがソーシャルメディアの普及率が高い。中東・北アフリカ地域では携帯電話とコンピューターの普及率は高いものの、ソーシャルメディアに関してはまだそれほど普及していない。(しかし革命後、中東・北アフリカ地域でも普及率は急速に上昇している。アラビア語のコンテンツが増えていることからも、ソーシャルメディアを利用するのは、コミュニケーション言語として主に英語が利用できる新しもの好きな人々だけにとどまらず、さまざまな階級や学歴を持った人々に広がっていることがわかる。)
また、津田氏はソーシャルメディアが依然として危機対応・管理の面に限定されており、まだ社会的活動に利用されていないと語ったが、その点は中東・北アフリカ地域と異なっている。中東・北アフリカ地域ではすでに、コミュニティーや国家の建設のための信頼できるツールとしてソーシャルメディアに大きく依存している。事実、政府機関もFacebookを市民とのコミュニケーションの主要手段として利用している。

津田氏の講演では、地域活動におけるリーダーシップの例として、日本の社会起業家がボランティア仲介のウェブサイトを立ち上げ、ボランティアの機会とコミュニティーのニーズを結びつける活動をしている話も興味深かった。
同様のイニシアチブは、中東・北アフリカ地域でも広がっている。エジプトの「kheirna.com」がその一例で、これはNGO 「Nahdet El-Mahrousa」によって生み出された社会事業である。この事業は日本の事例と全く同じ役割を果たしており、さらに同じように主要な役割として、革命後のエジプトで市民の社会参画を促進している。

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(左)カイロ郊外の貧困層が集住する不法居住地区の住民を対象としたプロジェクトStabl Antar Dream Projectを率いるガーダ・アリー・モハメド・アフメド・ガブル(Ghada Aly Mohamed Ahmed Gabr)。コミュニティスクールの運営、女性を対象とした手工芸ワークショップなど、10年以上にわたり地域密着型の社会開発や教育プログラムに取り組んでいる。
(右)ヨルダンの代表的な英字紙「ヨルダン・タイムズ」の編集者として地元ニュースの編集を行うとともに、文化を専門として記者としても活躍するランド・ダルガモーニ(Rand Dalgamouni)



刺激と革新的なアイディアを創造するツールとして

津田氏の講演を聞き、参加者とも議論を行って、最も喜ばしく思ったのは、今日の若者は、どこにいようと、全く異なった文化を持っていようと、多くの点で同じであり、同じ課題に直面し、お互いに支え合い、刺激を与え合っているという見解である。革新的なツールとアイデアを受け入れて大きな課題に迅速に対応していくとき、自分たちの生活に意味を与え、コミュニティーに良い影響を与えられるよう、私たちは皆、努力しているのだ。

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エジプト、チュニジア、ヨルダンから来日した16名の社会起業家、ジャーナリスト、NPO関係者ら、国際交流基金JFICで。2012年2月19日~28日の10日間の日程で、被災地域も含めて日本各地の団体・企業、現場で活躍する地域のリーダーらを訪ね、社会の再構築にあたりリーダーに求められるものを語り合いあった。





socialmedia01.jpg ディーナ・ハッサン・バスラン Dina Ghassan Baslan
国連プロジェクトサービス メディアアシスタント
ヨルダン出身。国際機関に勤務し、ヨルダンにおけるイラク避難民のためのプロジェクトにてドナーやパートナーとの連絡調整およびPR担当として勤務している。 white.jpg

socialmedia02.jpg アフマド・モハメド・アブドゥラ・エル・モネイム・エル・ドーガミー
Ahmed Mohamed Abd El Moneim El Dorghamy

アラブ・ヨーロッパ環境開発センター エネルギー・環境コンサルタント
エジプト出身。環境コンサルタントとして活躍をする一方、『エジプトのルネッサンス』という NGO のボードメンバーとして環境・厚生に対するアウェアネス促進に精力的に取組んでいる。都市交通や環境問題対策としてサイクリング運動等も組織する。




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