雑誌『をちこち(遠近)』
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多様な文化の中で、わたしのコミュニティは - 『絆』プロジェクト

日本研究・知的交流部
欧州・中東・アフリカチーム
後藤 愛


●震災後の日本で、コミュニティの絆を思い出したい

7月3日、日曜日。東京九段南のイタリア文化会館に、ヨーロッパ各国から集まった登壇者と日本のパネリストたちが集まった。「もう一度、コミュニティの絆を呼び起こそう!」という呼びかけに応えたのだ。

国際交流基金は、EUNICジャパン(在京EU加盟国文化機関ネットワーク)との共催により、「日欧 『絆』プロジェクト ~コミュニティが育む連帯と多様性~」(http://www.jpf.go.jp/j/intel/new/1106/06-02.html)と題した、シンポジウム/演奏会を開催した。

当初は、今年の3月に「ヨーロッパの多様性、アイデンティティ」をテーマに開催を予定していたが、東日本大震災の影響で延期となり、放射能を危惧する海外参加予定者の中には、やむを得ず来日を断念した人もいた。しかし、こんなときだからこそ、自分たちにできることをやるしかない。文化やアートや人々の持っている知見を持ち寄ることが文化、機関にできるひとつのこと。であれば、それをやるしかない。

3月の震災以来、文化交流を担う機関のスタッフたちは、他の仕事の人々と同じく、震災という突発的で管理しきれない状況に心理的には圧倒されつつ、実務的にはとにかく目の前のイレギュラーな業務に追われることになった。それは、海外から来日していた人の安否確認であり、海外へ戻りたいという人のための手続き処理であり、またこれから来日を予定していたが不安だと困惑した人たちへのできる限り客観的な複数の情報源からの情報提供であった。

震災という非常事態を経験して、多くの人が感じたこと、今も感じていることは何だろうか。悲壮感であり絶望であったかもしれない。身近な人を亡くした方にとっては言葉にできない悲しみだろう。これからを生きてゆく私たちは、いったいどんな大切な気付きを得たのだろうか。

それは、言葉にしてしまえば素っ気ないが、人と人の「つながり」の大切さ、有難さだったのではないだろうか。家族であり、友人であり、職場の同僚であり、普段、当たり前に顔を合わせている人たちとの何気ない「つながり」。それが実はかけがえのないものであったことに、多くの人が気付かされたのではないだろうか。

このシンポジウムでは、人とのつながりがつむぎだす「コミュニティ」のあり方に思いを馳せ、日本とヨーロッパから、各自の経験を持ち寄って話し合うことにした。ここから大切な何かを心に刻むことができるのではないか、と。





●わたしたちのコミュニティでは・・・ 

1.言葉の多様性が、文化の多様性を表す
~セッション 1: 言語、方言、コミュニティ~


朝一番の始まりは、アイルランドの民族音楽だ。ギャリー・シャノンさんは、著名な音楽一家シャノン家の出身。現在はフルート奏者としてのソロ活動に加え、キルフェノーラ・ケーリー・バンドの一員としてアイルランドの伝統音楽を今に伝える活動をしている。やさしく気さくな人柄は、アイルランド語とフランス語の教師でもあるという一面をうかがわせてくれた。

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kizuna02.jpg 続けて、大船渡市出身の医師、山浦玄嗣(やまうらはるつぐ)さん。ご自身も車を流されるなど被災し、今も自宅近くの鉄道は復興のめどが立たない中、タクシーと新幹線を乗り継いで東京までお越しいただいた。ケセン語(気仙地方の言葉)に文字を与え、文法を整理し、文学や舞台作品を翻訳することで、ケセン地方の人々の誇りの復権に貢献したお話しを披露。言語という側面から日本文化の多様性を紹介。 white.jpg

さらに、ブルガリアから来日した2名の若い演奏家が、ヨーロッパをひとつに束ねる文化としてのクラシック音楽を披露。ピアノとバイオリンの奏でる音色で聴衆を魅了した。

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昼食をはさんで、午後のセッションへ。



2.大災害から、コミュニティはいかに立ち上がってきたのか
  ~セッション2: 逆境にあるコミュニティ~


逆境に対してコミュニティがどのように立ち向かえるのか、具体的事例の紹介に移る。

仙台在住の村上タカシさんは、宮城教育大学准教授として教鞭をとる傍ら、アートによって町を元気にするMMIX Labの代表としても教育や街づくりの中にアートの視点を取り入れる活動をしている。その中から、アートによるバリアフリーの活動「アート・インクルージョン(Ai)」や、震災の被害を受けた建物などを保存する「メモリアル・プロジェクト」を紹介。

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イタリアから来日した、ダリオ・バルナバさんは、1976年のフリウリ地震からの復興に携わった経験から、長期的に、多方面から、総合的に、再建を進めてゆく大切さを力説。30年以上前に起こった地震と復興を、今から振り返ってみることで、震災直後を生きている日本の人たちには「未来の目線」から現状を見る機会を与えてくれた。30年後の日本人たちそして世界の人たちは、2011年の私たちをどのように見るだろうか。

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そして、日本の尺八と琴による演奏。尺八奏者の大友竹邦さんは、日本の伝統的な楽器である尺八を用いて、和の曲目だけでなく、ジャズなどにも自在にアレンジ。被災地へのレクイエムとして『鶴の巣ごもり』『アヴェマリア』に続き、応援曲として『萌春(ほうしゅん)』を演奏した後、ジャズとの出会いとして『レフト・アローン』、そして『テイク・ファイブ』に続いて、最後には『浜辺の歌』を客席の歌声も誘いながら演奏。尺八の音が、曲目によってこんなに身近なものに感じられるとは。会場がひとつになった瞬間だった。

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3.コミュニティは一枚岩ではない。多様性に対して寛容になるには
~セッション3: コミュニティの多様性~


ついに最終セッション。ここではコミュニティの「多様性」を議論。「コミュニティ」と聞くと、とかく、「ひとつにまとまったもの」と思ってしまいがちである。しかし、決して一枚岩でないのがあらゆる人間の集まりの常である。ひとつのコミュニティにたくさんの「異なるもの」を内包できていれば、その分だけそのコミュニティはしなやかに強くなるのではないだろうか。

kizuna07.jpg ルイ・ズィンクさん。「靴を買ったら、小さかった。店員は『履いているうちに伸びてちょうどよくなりますよ』、と言ったが、やはり足が痛い。自分自身の直感に耳を傾ければよかった」という逸話で始まる講演では、自分の心の声に耳を傾ける大切さと、それと同じくらい、人の心の声を傾聴できる人が求められている、という講演。被災し、身近な人や自宅を失った人たちの喪失感は簡単に埋まるものではないが、私たちにできることの一つは、つらい思いを抱える人の心の叫びをただただ耳を傾けて受け止めることかもしれない。ご自身の友人が早世した経験から、友人の両親の嘆きにひたすら耳を傾けた経験も告白。 white.jpg

kizuna08.jpg カローラ・ホメリヒさん。データを用いて、日本人が心理的に「社会から排除されている」と感じているのだという点を紹介。経済的困窮に重ねて、人とのつながりが希薄な現代社会においては個人の感じる孤立感が問題であると指摘。 white.jpg
kizuna09.jpg エリザベス・オリバーさん。英語教師として1970年代に来日し、当時の日本で動物の扱い方に問題意識をもち、動物の里親探しを行うNPO法人アニマルレフュージ・関西(ARK)の活動を紹介。特に今回の震災の被災地でも動物を保護し、里親を探している活動を紹介。人間の救助、生活再建にも人手が足りない中で、動物の命が見捨てられないようにケアする活動の重要性を説いた。 white.jpg
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4.会場にご参加いただいた方々から・・・

丸一日のシンポジウムを終えて、ご参加いただいた皆様から、アンケートを通じて多くの貴重なコメントをいただいた。ご回答いただいた皆様、ありがとうございました。

<会場参加者からのコメント:抜粋> 「ヨーロッパから日本が、及び3.11がどのように受け止められているのかの一端を垣間見ることができた」

「知らなかったことが多くあって、その発見が嬉しいと同時に、底辺に流れる皆の共通の思いに、改めて励まされる気がして感動した」

「大友様たちの尺八と琴の演奏が印象に残りました。ジャズを尺八と琴で演奏することの楽しさ、震災後の復旧を願う気持ちが琴線に触れた」

「アートマネジメントを専攻している学生として、東北の方々のためにできることを考える上で非常に参考になるお話ばかりでした。特にお話の中でも言及されていた"Art inclusion"の輪を社会の中で広める為に、私にも何かできそうだと感じた。このシンポジウムの中で感じた使命感の様なものを大切に、私もできることから一歩ずつ、日本の未来のため、そして世界の未来のために大きな思いやりを持って行動していけたらと思います」

「ブルガリア、アイルランドといった日本ではあまり馴染みのないヨーロッパの国々の文化について理解が深まったことが良かった。とくにアイルランドについては、フランスやケルトの歴史との関連性がよく分かった」

「今回の災害に対し、こういったシンポジウムの開催はとても素晴らしいし、意義のあることだと思う」

「EUNIC Japanという活動があるのは、初めて知りました。独自のコミュニティとコミュニティ間の影響を与え合い、相互に磨きあうことが望ましいのであろうと思った」

* * * * *

終日のシンポジウムを終えて、登壇者にも会場の皆様にも、何か気付きを得ることができた、という満足げな表情が広がっていた。ここで心に刻まれたコミュニティへの思いを、それぞれが日常に持ち帰り、会場で感じることのできた海外からの支援と連帯の気持ちを胸に、被災を忘れず、それぞれの試みを続けてゆけたらと思う。




●イベントの詳細ページ(http://www.jpf.go.jp/j/intel/new/1106/06-02.html)をご参照ください。

●被災地への義援金
会場では、義援金BOXを設置し、ボランティアの皆さんのお力添えと、EUNICジャパンのご尽力により、【合計71,977円】の被災地支援のための義援金が集まりました。ご協力をいただいた参加者の皆様に、心から御礼申し上げます。集まったお金は、全額を、今回のパネリストであった村上タカシさんが代表を務めるMMIX Labの被災地をアートで元気づけるプロジェクトおよび、エリザベス・オリバーさんのアニマルレフュージ関西(ARK)の被災動物の救援活動にそれぞれ半額づつ寄付しました。ご寄付を下さった皆様ありがとうございました。

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