雑誌『をちこち(遠近)』
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日本人は必要以上を求めすぎる贅沢病?

文化事業部 生活文化チーム
養父 美奈子


 今年6月、JENESYS(東アジア次世代リーダープログラム(*)では、「食料問題」をテーマにプログラムを実施しました。日本のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加賛否の激論に見られるように、国際化と貿易自由化の流れの中で、農業の位置づけが今揺らいでいます。そこで、今回私たちは合計14カ国、26名の参加者と数名のスタッフから成る青年調査団として、農業が盛んな地である北海道の道東地域に1週間をかけて「理想的な農業の在り方」を模索する旅に出ました。 jenesys01.jpg JENESYSメンバー北海道へ

 実は、このプログラムには通常であれば東アジア首脳会議(EAS)参加国15カ国に日本を合わせた合計16カ国から、それぞれ1,2名ずつが参加するのですが、今回は東日本大震災後に続く余震と原発事故のためか、うち2カ国から参加者がありませんでした。その一方で、30名もの応募者があったインドから、選りすぐりの次世代リーダーが3名参加しました。各国1,2名ずつの構成の中で、ただでさえ英語が流暢なインドの皆さん。人数が多いことも有り、グループの中でも注目を集める国のひとつでしたが、とりわけ、その強いアクセントのためにスタッフが幾度となく聞き返す羽目になっても、可愛らしい笑顔で質問や意見を繰り返すインドからの参加者Harshさんは、グループの中でも目立つ存在でした。



 今回のプログラムのハイライトは、別海と中標津の周辺に広がる「マイペース酪農」という、近代酪農とは逆を行くといえる「低投入・持続型酪農」の視察でした。この「マイペース酪農」を営む地域の酪農家の方々の家で、参加者はそれぞれファームステイを経験させていただきました。 jenesys02.jpg ホストファミリーと参加者一同

 多国籍からなるグループのホームステイで一番難しいのは、言語と並んで実は食事制限です。同様の食事制限を持つ人同士が組になり、2,3名ずつで12家庭にお世話になりました。そして、インドから参加したベジタリアンの男性二人は、なんとも幸運なことにNHKの人気番組「プロフェッショナル」にも出演したこともある酪農界のカリスマ的存在である三友盛行さんの牧場に宿泊させていただいたのです。
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牧場の土壌を調べる三友さん

 偶然、スタッフの滞在するホテルからもこの牧場が最寄りであったため、通訳を兼ね私たちもステイの様子を見学させていただきました(スタッフの本当の狙いは、本場フランスのチーズ協会も認める奥さんの作るチーズフォンデュだったのですが)。
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スタッフも美味しくいただいた夕食

 元々、「英語ができなくても何とかなる」からと、通訳は不要であるといっていたのは、このファームステイ全体を仕切ってくださった三友さんでした。しかし、共にお話好きのインド人と三友さんのこと。果てしなく続くディスカッションに、最後には「通訳としてきてもらって良かった」と言われる程でした。3人のスタッフが順番に自分ができそうな通訳をして紡いだ会話をご紹介します。
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常に質問を続けるHarshさんに次々と答える三友さん



 Harsh さん「現代人は必要以上を求めすぎています。日本人は、自国には本来なかったものを、海外から求め輸入し、「足りない」と渇望しています。日本が古来より有するものや伝統的に培ってきたものに立ち返れば、実は本当は「足りる」のではないでしょうか。結局グローバル化がいくら進んでも、農業は土地固有の自然生産物であって、世界中で画一的にできるものではありません。」
 三友さん「日本は高度成長期に非常に勤勉に、良くがんばってきました。ただ、がんばりすぎて本来の目標を超えてしまったようです。超えてしまった「目標」地点に戻ること。これが今後目指すべき暮らし方やあり方なのではないでしょうか。私たちは各国の違いを認め合い、お互いの自立を助け合うために貿易をするのではないでしょうか。」

 私たちは、「マイペース酪農」を営む牧場で、糞尿を循環再生させ肥料として利用する、なぜか不思議に「臭くない」糞尿処理施設を見学したり、糞を固めて作られたパイをナイフで切り分けて匂いを嗅ぎ、牛の健康状態を調べてみたり、様々な経験をさせていただきました。 jenesys06.jpg 匂わない森高牧場の糞尿処理場

jenesys07.jpg 糞を直接手に取りの臭いをかぐ酪農家

 これらの牧場は外から何かを持ってくるのではなく、既にそこに在るあらゆるものも資源として最大限活用することで、風土に生かされる農業を目指しているのです。外から取り寄せた穀物に依存するのではなく、そこで生み出されるものに真っ直ぐに向き合う姿勢がここにはあります。


 より多くコストをかけ、より多くがんばれば、より多く得られ、より多く幸せになれる。
そんな風に、私たちは信じているのではないでしょうか。本当の幸せや豊かさは、今ここにあるものに気づき、向き合い、感謝し、それを最大限活用することで得られる、もっと身近な存在なのではないでしょうか。それでもどこか足りない部分があれば、近隣の人や国とお互いに助け合って、補い合えばいいのではないかと思います。私たちの理想的な農業の在り方を探す旅は、結局、生き方を探す旅へと繋がり、皆それぞれが「他のものから与えられるもの」と「自分が本来有するもの」を考えるきっかけになったのでは、と思います。 jenesys08.jpg 牛と私たち



*JENESYS プログラム(21世紀東アジア青少年大交流計画/Japan-East Asia Network of Exchange for Students and Youths (JENESYS) Programme)は、2007年1月に開催された第2回東アジア首脳会議(EAS)において、安倍晋三総理大臣(当時)より表明された青少年交流事業で、大規模な青少年交流を通じてアジアの強固な連帯にしっかりとした土台を与えることを目的として、EAS参加国(ASEAN、中国、韓国、インド、豪州、ニュージーランド)を中心に、5年間にわたり、毎年6,000人程度の青少年を日本に招くものです。

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