雑誌『をちこち(遠近)』
バックナンバー

バックナンバー一覧

アーティストと来場者の新たな架け橋に~「Media/Art Kitchen」展

ダヤン・イラオラ(キュレーター、ライター、文化資源管理者/フィリピン)



 本イベントは、日・ASEAN友好協力40周年を記念して実施されたものである。「記念」と「課題」という言葉はとても大きく思えたが、イベントの可能性を刺激的に広げてくれるものだった。参加国の13人のキュレーターにとって、これは心地良い領域(コンフォートゾーン)を拡大することのできる歓迎すべき機会であった。私たちに与えられた当初の課題は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、日本から出展されるメディア・アートの展覧会を創り上げることだった。数回のミーティングの後、ワークショップ、ラボ、パフォーマンス、トーク、上映プログラムが、やるべきことのリストに加えられた。



テクノロジーと身体感覚「Sensorium(感覚中枢/器官)」

 プロジェクトを形作るにあたり、考えなければならないことが2つあった。「イベントのタイトルをどうするか?」「誰に出展してもらうのか?」ということである。東京で行われた2回のミーティングと数回のオンラインミーティングでも、タイトルについては常に議題に挙がった。「Media/Art」という表記は、メディアとアートは異なるが相互に作用し合う力であるということを強調するためにあえて採用したものである。
 「Kitchen」は、メタファーであると同時に、イノベーションが起こり、共有され、多くの即興が行われる場所を文字通り表している。「Reality Distortion Field」とは、簡単に言うと、既存の豊かな資源からより多くのものを搾り取る可能性を表している。結果としてこのプロジェクトは、メディアとアートが共に、またはそれぞれに、持っているものを表現し、学び、探究し、そしてさらに掘り下げる手段となったのである。

 プロジェクトのタイトルから手掛かりを得て、「Media/Art Kitchen」マニラ展のキュレーターであるLian Ladia、服部浩之、そして私は、テーマに最も応えてくれそうなアーティストの選定にとりかかった。その過程で、考慮すべきもう一つの「力」が浮上してきた。テクノロジーである。メディア・アートというラベルを使用することは、それ自体、フィリピンではあまり一般的ではない。マニラのあるアーティスト・キュレーターが指摘したように、メディア・アートというラベルは、さまざまな種類のテクノロジー(アナログ、電子、機械、デジタル、サイバー、バイオ、解剖学的)を伴う作品と解釈される。テクノロジーとはつまり、シンプルなものから複雑なものまでさまざまな機械やシステムを意味し、そこに接続の「ノード(節点)」としての「身体感覚」が加えられた。この場合の身体感覚とは、解剖学テクノロジーからもたらされる能力であり、他のテクノロジーによって知覚の対象となるものである。こうして「Sensorium(感覚中枢/器官)」というテーマが生み出された。



現地アーティストやキュレーターを巻き込んだマニラ展

 展覧会は2013年11月8日から24日まで、アヤラ美術館で行われた。同美術館は、フィリピンで最も古い私立美術館の一つで、国内最大のビジネス中心街に位置する。そのため来場者は、学生グループ、海外駐在者、芸術愛好家、旅行者、そして多くの「通りすがりの人々(一度限りの来場者)」など常に多種多様である。展覧会で展示された作品は次のとおり。 
 Lifepatch(インドネシア)は、バイオテクノロジーと電子工学を組み合わせ、それらを美的好奇心の問題として表現した。Tad Ermitano(フィリピン)、Liby Limoso(フィリピン)、Manny Montelibano(フィリピン)、Anggun Priambodo(インドネシア)、Chulayarnnon Siriphol(タイ)、Maria Rosalie Zerrudo(フィリピン)は、シングル・チャンネル上映ステーションでカラオケのフォーマットを用いて、アジアの人々にとって珍しい、または非常に馴染みの深いさまざまなテーマに触れた。
 mamoru(日本)は身近な物や行為から生まれる音を、テキスト・サウンド・インスタレーションによって際立たせた。萩原健一(日本)は、社会的ニュアンスを記録し、微かなユーモアのなかに表現した。八木良太(日本)、Kawayan de Guia(フィリピン)、梅田哲也(日本)は、シンプルな機械を使い、それらをインタラクティブで動的な装置に再構成した。八木良太(日本)は、観客を装置の一部に組み込んだ。Ringo Bunoan(フィリピン)と牧野貴(日本)は、展示を鑑賞する際の一般的な期待を覆すべく、視覚・聴覚(牧野)や嗅覚(Bunoan)といった能力・感覚に訴える作品を提示した。田村友一郎(日本)、Renan Ortiz(フィリピン)、Manny Montelibano(フィリピン)は、オルタナティブでありながら利用しやすい電子・デジタル技術を使って相当な量の物語を人々に体験してもらう作品を提示した。Fairuz Sulaiman(マレーシア)とBruce Quek(シンガポール)は、デジタル技術を使って、どの都市でも馴染みのある問題を、必ずしも物語としてではなく感覚的素材として中継した。

Bridge_mediaartkitchen02.jpg
Lifepatch 《Moist Sense》

Bridge_mediaartkitchen03.jpg
(左)Fairuz Sulaiman 《The Sea of Screens》、(右)Renan Ortiz 《Murmur》

Bridge_mediaartkitchen04.jpg
Kawayan de Guia《Sungay》

Bridge_mediaartkitchen05.jpg
(左)萩原健一《sight seeing spot (Japan, Manila, Jakarta)》、(右)八木良太《Sound Sphere》

Bridge_mediaartkitchen06.jpg
Manny Montelibano 《Biya》

 パフォーマンスは、アヤラ美術館、エスコルタの98Bグリーン・パパイヤ・アート・プロジェクツの3カ所で実施された。アヤラ美術館では11月7日、「Media/Art Kitchen」マニラ展の開始に先駆けて、3組のペアによるパフォーマンスが行われた。Erick Callilan(フィリピン)とPaolo Garcia(フィリピン)は電子オーディオ・ビデオ・サンプリング、Caliph8とMannet Villariba(共にフィリピン)は、デジタルサウンド、ライブビデオ、身体表現を用いたコラボレーション型パフォーマンス、Mel Araneta(フィリピン)とBani Haykal(シンガポール)は、DIY工具と音楽システムを使った共同パフォーマンスをそれぞれ行った。
 11月9日には98Bで梅田哲也が、フィリピン大学デラサール大学セントベニルデ校デザイン・芸術学部の学生と共に、光と音と動きのシステムを使ったパフォーマンスを行った。同じプログラムの中で、Lirio Salvador率いるフィリピンで最も革新的な音楽・サウンド・ノイズ・グループの一つであるElementoと、デジタル・電子サウンドの自発的実験で知られるCaliph8のバンドBent Lynchpinのパフォーマンスも行われた。11月15日には、Pirate Radioワークショップの後、mamoruが観客の声と身近な物(ビン、ストロー、果物、テキスト、ラジオ)で音風景を創り出すパフォーマンスを行った。グリーン・パパイヤ・アート・プロジェクツで行われたこのパフォーマンスはWSK.FMラジオで放送され、オンラインでストリーム配信された。最後の2つのパフォーマンスは、TengalとMerv Espina(マニラのアーティスト・キュレーター)が指揮を執る独立系メディア・アート・フェスティバルFete dela WSKと連携して行われた。

Bridge_mediaartkitchen08.jpg
Elementoによるパフォーマンス

Bridge_mediaartkitchen09.jpg
WSK.FM Radioでのmamoruのパフォーマンス

Bridge_mediaartkitchen10.jpg Bridge_mediaartkitchen11.jpg
梅田哲也によるパフォーマンス

 ラボ、ワークショック、レクチャーは、98B(エスコルタ)、グリーン・パパイヤ・アート・プロジェクツ、セントベニルデ校デザイン・芸術学部の3カ所で行われた。「Project Joint」はStanley Ruiz(フィリピン/米国)とGary-Ross Pastrana(フィリピン)によるラボ、ワークショップで、エスコルタのFirst United Buildingの空きスペースで行われた。これは98Bが入っているビルで、もとは古いデパートだった。RuizとPastranaは、ビルの破損・欠損部分を修復・交換するための修正可能なデザインに取り組んだ。このラボは11月4日から8日まで行われた。同スペースは11月9日のパフォーマンスでも使用された。「Re-mediation」は捉え直された物体やイメージを探るアート・ラボ・ワークショップで、サバイバルや災害対策についての演習、Mark Salvatus(フィリピン)とStephanie Syjuco(フィリピン/米国)の重要な共同作業に焦点を当てた。11月20日から24日まで98Bで行われたこのラボは当初、物理的な距離のある中で作品を創り上げるために利用できるネットワーク・ツールを模索するアート・ラボとして企画されたものだった。というのもStephanieは米国サンフランシスコに、Markはマニラにそれぞれ拠点を置いているからである。
 11月8日の台風30号ハイエン(ヨランダ)による被害を受けて、アーティストたちはすぐにラボの内容を変更した。「WSK.FM Radio」はTengal(フィリピン)とMerv Espina(フィリピン/ベトナム)によるラボで、アンダーグラウンドなメディア・フェスティバルFete dela WSK! で教育的ラジオ放送をするための電波・放送システムを探るものである。同ラボは11月7日から17日まで行われた、mamoruによるインタビューとパフォーマンス、「Media/Art Kitchen」マニラ展開催中のJong Pairez、Norberto Roldan、Diego Marananのインタビューのほか、Ade DarmawanとTadのジャカルタ展のオープニングでのインタビュー、Suzy Sulaimanとデジタル文化・メディア専門家Roopesh Sitharanのクアラルンプール展のオープニングでのインタビューが放送された。

Bridge_mediaartkitchen07.jpg
First United Building, 413 Escolta

Bridge_mediaartkitchen12.jpg
Gary-Ross PastranaとStanley Ruizによるラボ "Project Joint"

Bridge_mediaartkitchen13.jpg Bridge_mediaartkitchen14.jpg
Stephanie SyjucoとMark Salvatusによるラボ "Re-mediation"
(All photo by Martin Vidanes)

 本プロジェクトのパートナーであるセントベニルデ校デザイン・芸術学部でも、「Sensorium」の教育プログラムの一環として、数々のトークとワークショップが開催された。テーマとアーティストは次のとおりである。Ruiz(フィリピン)による「Ingenuity in times of disaster(災害時の創造力)」(11月13日)、Kaloy Olivades(フィリピン)による「The listening workshop, found sound and avant-garde music(リスニング・ワークショップ、ファウンド・サウンドと前衛音楽)」(11月15日)、Caliph8による「Music Production and the art of sampling(音楽制作とサンプリング技術)」(11月15日)、Ruizによる「Collaborative Improvisation in Design(デザインにおけるコラボレーション的即興)」(11月13日)、John Torresによる「Experimental Film Workshop(実験映画ワークショップ)」(11月22日)、Syjucoによる「Tactical Digital Aesthetics: Micro-Subversions of Digital Networks(戦略的デジタル美学:デジタル・ネットワークのミクロ的破壊)」(11月25日)。レクチャーもセントベニルデ校デザイン・芸術学部で次のとおり開催された。Fairuzによる「On multidisciplinary performance, video and animation(分野横断的パフォーマンス、ビデオ、アニメーションについて)」(11月9日)、Weather Bureau(Lena Cobangbang、 Mike Crisostomo)(フィリピン)による「Employing the skills of production design to media art practice(美術制作技術のメディア・アートへの利用)」(11月9日)、Yason Banalによる「Structuralist masterpieces and conceptual experiments in film and video(構造主義者の傑作および映画、ビデオにおける概念的実験)」(11月25日)。

 シングル・チャンネル上映は、バギオ市(11月9~10日)、イロイロ市(11月16~17日)、ダバオ市(11月23~24日)のFDCP(Film Development Council of the Philippines)シネマテックでそれぞれ開催された。上映プログラムは11月20日と22日にセントベニルデ校デザイン・芸術学部の映画館でも開催された。プログラムの3つのテーマ「Landscape and Beyond(風景とそのかなた)」「Media at Hand(身近なメディア)」「Being Physical(フィジカルであること)」に沿ったフィルムが、「Media/Art Kitchen」の展示、ワークショップ、ラボ、パフォーマンス、トークに参加したのと同じ国々から出展、上映された。この上映プログラムは岡村恵子(日本)とCharmaine Toh(シンガポール)がキュレーターを務めた。

 内容は盛りだくさんだった。「Media/Art Kitchen」マニラ展の最終日まで、私たちの日程表は埋め尽くされていた。全てを成し遂げるには、大きなチームを作ることが不可欠であった。私たちが幸運であったのは、Ermitano、Alvin Zafra、Con Cabrera、平野真弓、98Bのアーティストなど、数多くの現地アーティストやキュレーターを巻き込み、さまざまなアクティビティに多くのアーティストたちと取り組むことができたことである。デラサール大学セントベニルデ校デザイン・芸術学部とフィリピン大学の学生たちも、アーティストのアシスタント、ガイド、記録係、ファシリテーター、そしてラボ、ワークショップ、トークの参加者として、このプロジェクトに貢献してくれた。



明らかになったプロジェクトの意義

 「Media/Art Kitchen: Reality Distortion Field」マニラ展は、その多様性においてフィリピン諸島にも引けを取らない。全プログラムを通じて、「Sensorium(感覚中枢/器官)」というテーマは、与えられた資源(人々、スペース、時間、財源、素材など)の範囲で、できる限り感覚に訴え、メディア+アート+テクノロジー・プロジェクトの多様性と構造を可能な限り表現した。そしてできる限り多くのレベルで人々の参加を促した。「Media/Art Kitchen」は、日本とASEANの友好協力の記念を具体化する試みであるが、それ以上の意味を持つことが、実際に行われてみて明らかになった。実践するアーティストと来場者の間に新たな友好関係を築く、新たな架け橋となったのである。

 展示だけをとってみても、来場者にも馴染みがあり、何を表現しているのかすぐに理解できて安心して見られる展示もあれば、全く違った類の展示もあった。そうした展示に来場者は、「これは何?」「これは何を表しているのか?」「これはアートなのか?」といった普通の反応さえ示すのを忘れるほどだった。そうした反応に取って代わったのは「どうやって?」という問いかけだった。「なるほど!」と思う瞬間、作品がどのように機能するのか、何を目指そうとしているのかを発見すること、発見の瞬間である。開会の際、アヤラ美術館の関係者は、「これらの『新しい作品』を体験するときは、作品が持つ中断される感じ、場所を奪われる感じを受け入れたほうがいい。アートはそこに存在するのだから」とアドバイスされたことを語った。多くの人々がこのアドバイスに従ったのではないかと思う。なぜならこれこそが、「Sensorium」で行われた企画全体に共鳴していた反応だからだ。

 「Media/Art Kitchen」を企画することは、アーティストのアシスタント、ラボとワークショップの参加者、さまざまなレベルで関わりを持った来場者が、アーティストとその作品に触れるまで、そしてより遠くのオーディエンスに伝えられるようになるまでは、ただのアイデアにすぎなかった。メディア+アート+テクノロジー・プロジェクトを通じて、実際に感覚を高め、貸し、借り、使い、抑圧し、複雑化し、隔離し、疑う体験を、単に偶発的なものだと見なすことはできない。それこそが「Sensorium」にほかならないのだ。


Bridge_mediaartkitchen01.jpg ダヤン・イラオラ(Dayang YRAOLA)
キュレーター、ライター、文化資源管理者。フィリピン大学で文学士号(フィリピン研究、文学・芸術研究専攻)および修士号(美術館研究)を取得。2010年、シンガポール国際財団を通じてシンガポール国立美術館のアート・アソシエート、2012年、アジアン・カルチュラル・カウンシルの奨学生。最近では、「Listen to my Music」(U.P. Jorge B. Vargas Museum, 2013年)と「Project Glocal BKK-HK-MNL-SG」(2011年~2015年、進行中)を手がける。2008年からアジアにおける音楽研究センターの国際的ネットワークLaon-Laonの統括コーディネーター。現在はフィリピン大学民族音楽研究センターのコレクションマネージャーを務める。




Page top▲

Twitter - @Japanfoundation