雑誌『をちこち(遠近)』
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JF便り 日本研究・知的交流編・5号 アルザス会議

日本研究・知的交流部
小松諄悦


アルザスは、スイス(バーゼル)とドイツ(フライブルク)に接したフランスの地方です。ワインとフォアグラ(鴨の肥大した肝臓)で有名なところです。そのアルザスにキーンツハイムという小さな小さな村があります。名門成城学園の中学、高校が、2005年3月まであったところです。むかしの修道院を改修し、学生寮を増築した、かわいい学校でした。三方をブドウ畑に囲まれ、アルザスの山並みをかなたに仰ぐ、景勝の地でもあります。
成城学園が撤退したいま、所有者であるオーラーン(高地ライン)県は、この設備を日本関係で使ってほしいという希望をもっています。2005年秋に、地元アルザスの研究団体アルザス欧州日本研究所(Centre Europais des Etude du Japon au Alsas: CEEJA)が管理をまかされ、男子寮を事務所に改造しました。

ジャパンファウンデーションとしても、この施設の有効活用に一役かうことにしました。2006年7月1日日本とヨーロッパの知的交流のいっそうの活発化を目指して、欧州の日本研究者と日本の欧州研究者の間で、日欧知的交流で取り上げられるべき課題やテーマについて意見交換を行なう、いわゆるアジェンダ・セッティングを、キーンツハイムでおこないました。CEEJAと共催です。

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それぞれ5名ずつの専門家を集めて、政治・国際関係、社会・歴史、芸術・文学の3分野での意見交換では、「EUという地域統合が、国民国家の権限を空洞化しているだけでなく、大学の権限をも空洞化している」「民主主義の行使権利の限界=民主主義を享受できないマイノリティ」「考古学において古さを競うあまり、ナショナリズムが顕著になってきている」など刺激的な意見がだされました。ジャパンファウンデーションプロパーの事業に関係しては、「サブカルチャー重視=グローバリズムが文化の表層化を生み出してきている」「文化交流、文化の移動におけるナショナリズム意識の危険」など、文化交流機関が真剣に検討すべき課題もだされました。これらの課題については、これからの日欧知的交流で取り組んでいきたいと思っています。

相互の地域研究者によるアジェンダ・セッティングは、ジャパンファウンデーションとしては初めての試みでした。合計10名の日欧の研究者の多くは、この会議で初めて会う人たちでした。事前の調整もなく行なった今回の会議で、どれだけ議論がかみ合うのか不安でしたが、内容的に予期した以上に密度の濃い、レベルの高い議論になりました。
参加者全員が今回の会議を高く評価し、同様の会議を継続する意義を認め合い、今回を含め、これから継続するキーンツハイムでの日欧知的交流会議を「アルザス会議」と名づけました。今回が記念すべき「第1回アルザス会議」になることになります。

7月1日の夜は、サッカー・ワールド・カップ準々決勝「フランス・ブラジル」戦でした。会議後のディナーもそこそこに、会議の参加者やCEEJAのスタッフは、朝食用の食堂のテレビの前に集まりました。実は、CEEJAの研究部長であるジル村上ストラスブール大学教授は、日系ブラジル人です。もちろん、CEEJAスタッフも含め、多くはフランス人です。われわれ日本人、ヨーロッパのフランス人以外の参加者は、中立です。熱戦でした。
なんとなくブラジルの優位がつたえられていたため、ジル村上さんは余裕でした。57分フランスに1点が入ると、村上さんの表情が変わってきました。
結局、1対0でフランスが準決勝に行くことになりました。ジル村上さんは、「これまでブラジルのほうが対戦成績が上だから」と、自らをなぐさめていました。ささやかなナショナリズムの一幕でした。


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