WEB版「エリンが挑戦!にほんごできます。」 多言語サイト開発の道のり

日本語国際センター 事業化開発チーム
長田優子



●WEB版「エリンが挑戦!にほんごできます。」とは
 WEB版「エリンが挑戦!にほんごできます。」(以下、WEB版「エリン」)は、テレビ番組としても放送された、日本語の映像教材をもとに制作したウェブサイトです。映像スキットでは、主人公「エリン」が留学先の日本の高校やホームステイの家、町の中などで日本語を使っていろいろな体験をします。はじめはあまり自信がなかったエリンも、友達やホームステイ先の家族などさまざまな人とのふれあいを通して、少しずつ自信をもって日本語を話すことができるようになっていく、というストーリーが展開されます。スキットのほかにもゲームやクイズ、練習問題などさまざまなコンテンツがあり、学習者がエリンといっしょに日本語学習したり日本文化を追体験したりできるウェブサイトとして、世界中の方にご利用いただいています。
 WEB版「エリン」は、2012年11月現在、日本語英語スペイン語ポルトガル語中国語韓国語フランス語インドネシア語の全8言語での運営を行っています。段階を経て言語数を増やす「多言語化」を行ってきました。ここでは、WEB版「エリン」多言語化のこぼれ話や多言語化による効果などをご紹介します。

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WEB版「エリン」グローバルホームページ(http://erin.ne.jp/


●多言語化への道のり
 WEB版「エリン」は、2010年3月の公開以降、次のような段階を経て多言語化をすすめてきました。

2009年11月 企画、開発
2010年3月 日本語版公開
2010年4月 英語版公開
2011年4月 スペイン語、ポルトガル語、中国語、韓国語版公開
2012年10月 フランス語、インドネシア語版公開

 なぜこれほどの多言語展開をしたか。その理由は、WEB版「エリン」のターゲット層にあります。WEB版「エリン」は、主人公エリンと同世代の中高生の初級日本語学習者のために制作されました。中高生の初級学習者が、いきなり日本語版で日本語を学習することはたいへん難しいことです。また、世界の日本語学習者数のおよそ6割が東アジア地域にいることから、英語以外の言語版の必要性も大きいと考えました。(開発当時の参考資料:『海外日本語教育機関調査2006年』(国際交流基金))  国際交流基金の海外拠点を対象に行ったアンケート調査結果や、ここ数年の各国・地域の学習者数の伸び、学習者層、制作後に期待できる効果、予算なども含めて検討し、上述の8言語での制作を行うことにしました。

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WEB版「エリン」コンテンツページトップ。右上のボタンから言語を選ぶことができます。


●「ナマの日本語」を伝える翻訳を
 制作にあたってまず重要課題としたのは、なんといっても翻訳の質です。
WEB版「エリン」の翻訳原稿は、日本語の文字数は全ページでなんと、約29万字にものぼります。29万字というと、400字詰め原稿用紙で725枚分!この文字数だけでもたいへんな作業となることが予想されますが、作業量もさることながら、全言語とも「エリン」の世界観に合う翻訳にしなければならない、という問題がありました。
 WEB版「エリン」は、もともと語彙や発話スピードのコントロールをほとんどしていない教材です。特に、日本人どうしの会話が中心である「応用スキット」では、日本語教材には載らないような言葉や表現も多く登場します。これは、現代の日本人が自然に使う「ナマの日本語」を使った教材にするというコンセプトによります。ほかの言語に翻訳するときもこうした「ナマの日本語」のニュアンスが伝わる翻訳を行うことを目指しました。
erin_way03.jpg  例えば、第9課「応用スキット」を見てみましょう。エリンのクラスメイトの咲が、姉といっしょにスポーツジムで運動をしているシーンです。咲は、ふだんは姉のことを「お姉ちゃん」と呼びますが、スキット最後では「お姉さま!」と呼びかけます。ダイエットにいそしむ姉をちょっぴりからかう気持ちから出た言葉です。外国語でこうしたニュアンスを伝えるためには、どう翻訳したらいいでしょうか。
 翻訳の答えとしては何通りもあるかもしれませんが、そのなかでいちばんWEB版「エリン」の翻訳として適している翻訳をするように心がけました。


●「多言語化」の効果
erin_way04.jpg  WEB版「エリン」の多言語化による効果は次のようにアクセス数(ページビュー数)に表れています。2010年3月のウェブサイト公開から多言語化前の2011年3月までの月別平均262,904件だったのに対し、多言語化した2011年4月以降の月別平均は413,976件に大幅に増加しました。特に、先に追加した4言語を母語とする国々からのアクセスは、右のグラフで見るように追加前後で比較するとその伸びは顕著です。
erin_way05.jpg  また、フランス語、インドネシア語版は2012年10月に公開したばかりですが、それぞれの国からのアクセス数(月別平均)は、右のグラフで見るように、公開前後で大きく伸びました。今後さらにたくさんの方にアクセスしてご利用いただきたいと思っています。


●こぼれ話1 「アクセスが多い国=日本語学習者数が多い国」ではない?!
 WEB版「エリン」へのアクセスが最も多い国は、どこでしょうか。それは、アメリカです。アメリカの次は、日本、中国、台湾、韓国・・・と続きます。ウェブサイトの教材の場合、各国・地域のインターネット環境の整備によってアクセスできる国・地域に偏りがあることはしかたのないことですが、この順番についてみなさんはどのように感じますか?
erin_way06.jpg  次のグラフは、公開以降の累計アクセス数(セッション数)のトップ20か国・地域を左から青い棒グラフで並べて、その上に日本語学習者数を赤い折れ線グラフで重ねたものです。これを見ると、「WEB版「エリン」へのアクセスが多い国=日本語学習者数が多い国」ではないことがわかります。
これまでの「日本語教育機関調査」で日本語学習者数上位には現れなかったスペイン、コロンビア、ロシア、イタリアなどから累計アクセス数トップ20入りするくらいの多くのアクセス数があることがわかります。


●こぼれ話2 「多言語サイト」としてのユニークな使い方
 WEB版「エリン」では、毎年度末にユーザーアンケートを行っています。2011年度に行ったアンケートでは多言語サイトになったことへのコメントとして、「他の言語も学習しているので、他の言語版も見る」「他の言語での表現を比べて見る」などの回答が多くあり、WEB版「エリン」を使って日本語以外の言語学習を楽しんでいるユーザーもいることがわかりました。WEB版「エリン」を使って、「にほんごできます。」だけではなく、「○○語できます。」という人も現れるかも知れません。

 今後も世界中からのアクセスを励みに、WEB版「エリン」の運営を行っていきます。引き続き、どうぞお楽しみください。

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※映像教材としての詳細は、こちらをご覧ください。
日本語国際センターウェブサイト「エリンが挑戦!にほんごできます。」
http://www.jpf.go.jp/j/urawa/j_rsorcs/erin/index.html

※WEB版「エリンが挑戦!にほんごできます。」の使い方はこちらをご覧ください。




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