21世紀型スキルを体現する「にほんご人フォーラム」
—フィリピンで行われた “Think MOTTAINAI!!
Changing our Mindset to Save Earth” を通じて—

森田 衛
国際交流基金マニラ日本文化センター

フィリピンではマニラやセブを中心に57の公立中学・高校で日本語教育が実施されており、フィリピン教育省から依頼を受けた国際交流基金マニラ日本文化センター(以下、センター)が教材開発や教師研修を通じて日本語教育を支援しています。センターでは、マニラとセブに中等教育を担当する日本語専門家を配置して日頃から授業やイベントの支援を行っていますが、一年を通じてセンターが最も力を入れている事業の一つが「にほんご人フォーラム」というユニークな交流プログラムです。

「にほんご人」が集まる「にほんご人フォーラム」

「にほんご人フォーラム」とは、日本とアジア・オセアニアの若い世代の交流を支援する公益財団法人かめのり財団と国際交流基金が協力して実施している事業で、東南アジア5か国(インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア)で日本語を学ぶ中高生を対象に行われています。「にほんご人」という言葉を初めて聞く方も多いと思いますが、国際社会において日本語を使って何かを達成したいという意思を持ち、そのために日本語でコミュニケーションを図る人々を「にほんご人」と呼んでいます。もちろん、日本語だけですべての意思疎通を図ることには限界があるため、フォーラムでは日本語や英語などの言語はもちろん、歌やダンスなどさまざまなコミュニケーションツールを効果的に使って関係を深めていきます。フィリピンでは、2014年から「にほんご人フォーラム in フィリピン」を実施していますが、2017年からは、かめのり財団が日本で選抜した「かめのりアンバサダープログラム」の中高生を受け入れ、ともに協力しながら課題解決を目指すプログラムへと進化しています。ここでは、2019年1月にマニラ郊外にて2泊3日の合宿形式で行われた “Think MOTTAINAI!! Changing our Mindset to Save Earth” について報告します。

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最終発表会の質疑応答

チームワークを高めて課題に取り組む

フィリピンで行われる「にほんご人フォーラム」は今回で6回目になりますが、参加者は毎回公募によって選ばれます。フィリピン人生徒と引率教師は日本語教育実施校の中からセンターが、そして日本人中高生はかめのり財団が選抜し、総勢60名以上が集まりました。今回はエコロジー(ECO)に焦点を当て、グループワークを通じて問題点を洗い出し、最終日の発表に向けて資料を作成しました。参加者には事前課題として身近なごみ問題を調べてもらったほか、フィリピン人生徒には日本語学習、日本人生徒には外国人にもわかりやすい「やさしい日本語」を話す練習をしてきてもらいました。フィリピンの中高生は英語で意思疎通ができるため、日本人生徒が英語を話した方がスムーズなやり取りが期待できますが、「にほんご人」としての時間を共有するために、英語に頼らずできるだけ日本語で話してもらうべく、フォーラムではさまざまな工夫をしました。

初日はボホール島を拠点にマングローブの植林やごみの分別等の啓発活動を実施している環境NGOイカオアコの菅原亮氏とチャム・グルモ氏に基調講演をしていただきました。フィリピン人生徒にも日本人生徒にも理解しやすいように、講演ではやさしい日本語を中心に時おり英語を交えて話してもらい、参加者に配布したレジュメにはキーワードや重要な表現を日本語と英語を併記して載せました。

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NGOイカオアコ菅原亮氏による基調講演

初日の夜には民族衣装や部活のユニフォームなどを着てファッションショーを行いました。日本語で自己紹介を行ったり、歌を歌ったりして大いに盛り上がりました。なかでもフィリピン人の男子生徒が女子生徒に自然に手を差し伸べてエスコートする姿が日本人生徒には印象に残ったようでした。

2日目は合宿会場近くのショッピングモールに行って、どのようにECOが実践されているか、されていないのかを観察し、会場に戻ってからグループごとにECOを啓発する内容の動画を作りました。制作時間は半日しかありませんでしたが、生徒が持っているアイディアを出し合って、それを見事に映像化していました。日本語だけでは十分に話が進まないと見るや、英語や身振り手振り、ときには絵を描いて内容を練り上げていきました。さすがに日頃からITに親しんでいる世代だけあって、撮影や編集については大人がアドバイスする必要もほとんどなく、すべてのグループが時間内に啓発動画を完成させました。

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ECOを探しにショッピングモールへ入る参加者

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半日という限られた時間で動画を制作する生徒たち

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動画編集ソフトを使って作品を仕上げていく

参加者が21世紀型スキルを体現

昨今、教育の世界では21世紀型スキルについて議論されることが増えてきています。21世紀型スキルとは、国際団体の「ATC21s」が提唱するこれからのグローバル社会を生き抜くために必要な能力で、批判的思考力、問題解決能力、コミュニケーション力などが含まれており、日本でもこのスキルをもとに学習の観点を見直し、学習目標等を再構成する動きが活発になっています。
「にほんご人フォーラム in フィリピン」に参加した生徒も、外国語や情報技術を自在に操り、短時間でこのような啓発動画を作り上げました。互いの意見を出し合いながら何度も動画を撮り直し、作品の精度を高めていく様子を見て、未来を担う若者が頼もしく感じられました。2019年度から日本では特定技能制度が始まり、来日して仕事をする外国人が増加することが予想されます。日本とフィリピンの若者が「にほんご人フォーラム in フィリピン」で見せてくれたように、力を合わせて新しい価値を創造したり、課題を解決したりする姿が、近い将来日本や東南アジアの各地で盛んに見られるようになることでしょう。

“Think MOTTAINAI! Changing our Mindset to Save Earth” 交流プログラムに参加した生徒たちが作った作品は以下のサイトからご覧になれます。

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森田 衛(もりた まもる)
元国際交流基金派遣日本語専門家。国際交流基金からエジプト、チェコ、韓国に派遣された後、2019年4月までフィリピン・国際交流基金マニラ日本文化センター勤務。マニラでは主に中等日本語教育支援に従事した。

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