雑誌『をちこち(遠近)』
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共に乗り越え、学びあう—災害経験で生まれた日米の絆と、世界に広がる防災意識

瀧田あゆみ
国際交流基金 日本研究・知的交流部 企画調整・米州チーム

地震、台風、ハリケーンなど、近年は特に世界各地で大規模災害が相次いでおり、将来の災害への備えは国際的な共通課題となっています。ルーヴァン・カトリック大学の災害疫学研究所(CRED)の調査によると、1998~2017年の20年間で、自然災害による世界の死者数は約130万人に上り、負傷者や支援が必要な状況にある人は約44億人、被害額は約29,080億ドルにまでに達しています。また、世界全体の災害発生件数の60%以上がアジアに集中する一方で、米国はこの20年で、大型ハリケーンなどの影響で最も甚大な経済的な損失(9,450億ドル)を被っていることも新たな傾向と言えます。年々大規模災害による犠牲者が増えていくなか、日本を含むアジア各国と米国とが、防災の知見を、国を超えて共有し学びあうことの重要性はますます増しているといえます。

災害をテーマとした国際交流について語るとき、いつもどこかに難しさが伴いますが、本稿ではあえてその意義について書いてみたいと思います。私自身は1995年に阪神大震災を経験し、その後バンコクで大洪水(2011年)、ニューヨークでハリケーン・サンディ(2012年)を経験しました。95年当時、予期しなかったほんの1分にも満たない揺れで瓦礫と化した駅や通学路、傾いた校舎、焼けた街、そして何よりも、大切な友人の死に遭遇し、それまで意識しなかった人生に対する考えを一気に転換させられました。被災された方やご家族を思うと何もできない無念ばかりが募り、振り返りたくない記憶として心の片隅に追いやってしまいましたが、何年も後になって、国際交流基金での仕事を通じ、国際交流という、震災とは一見かけ離れた分野からも、災害を経験した人同士の交流や防災の知見の共有といった形で得られるものがあると実感しています。

2005年にニューオーリンズをハリケーン・カトリーナが襲った直後、当時在ニューオーリンズ日本国総領事で、後に国際交流基金の理事を務めた坂戸勝氏がイニシアチブをとり、国際交流基金が、ニューオーリンズと神戸とが学び合う交流事業を開始しました。阪神大震災という未曾有の大災害を経験した日本には、多様な切り口から被害や復興の様子が記録され、調査研究がなされ、将来に生かすための専門的な知見が蓄積されています。具体的には、地震のメカニズム、建築基準、都市計画などのインフラ面から、避難所の生活、心のケア、ボランティアのあり方などソフト面まで様々です。こうした分野で長年神戸の復興を支えてきた方々は、米国との交流の機会を歓迎し参画してくれました。3年間にわたる相互訪問を通じて、ニューオーリンズからの来訪者はまちづくりや報道のあり方、音楽を通じた復興の様子などを学び、2010年1月17日 の地震発生時刻に行われた追悼式で神戸の方々と共に祈りをささげました。ある来訪者は、神戸の「人と防災未来センター」を訪れて涙し、「ジオラマや被害状況を見るとハリケーンが思い出され大変つらかったが、海を越えて同じ気持ちを共有できたことが癒しとなった」と語ってくれました。災害経験者同士の交流が共感を呼び、そこに新たな絆が生まれたのです。

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ニューオーリンズと神戸の若手ジャズミュージシャンによる交流の様子(神戸市にて)

被災者同士の心の交流が共感を生み、癒しにつながっていく例はほかにもあります。例えば東日本大震災以降には、アメリカの9.11同時多発テロで家族を亡くした家族会のグループとカウンセラーが毎年東北を訪れ、被災された方々と息の長い交流を続けています。また、「BEYOND Tomorrow」や「米日カウンシル」のように、困難な立場に置かれた学生に海外研修の機会を与え、希望をもたらす重要な役割を担う非営利団体も活動しています。

こうした災害の経験を共有した国・人同士の協力・協働は引き続き重要ですが、災害がいつどんな形でやってくるかわからないことを考えると、防災はもはや限られた専門層や実際に経験した人だけの課題ではなくなっているのではないでしょうか。関心を持たない層にもどう伝えるか、被災者の声から得た貴重な教訓を、どう広く普及するかも国際的に共通する課題です。

日本では防災や共助についての教育手法についても、多くの蓄積があります。例えば、1854年の安政南海地震津波の教訓を伝える「稲むらの火」の読み聞かせは有名ですし、阪神大震災や東日本大震災後には、様々な建築家、博物館、デザイナーやアーティストも多様な取り組みを続けています。災害時は、必要なものがすぐ手に入らないことが多いので、様々なものを「見立て」で使う必要があります。例えば、毛布を担架にしたり、水のいらないトイレを作ったり、ハンカチをマスクにしたり、といった工夫が必要になります。日本では、これら被災者の実際の声から集めた知恵を、わかりやすく伝える動画やイラスト本が作られたり、アプリで配信するシステムがあったり、防災ミュージアムが各地に整備され、防災訓練や、啓蒙も行われています。

国際交流基金ではこうした日本の取り組みを、災害の多いタイ、フィリピン、インドネシアへ紹介するとともに、各地との交流から得られた知見を米国にも共有し、デザインや芸術などの切り口から、人と人との交流を支援してきました。そしてそれは、様々な形で息の長い交流に発展してきました。

我々が日本の防災の取り組みを海外に紹介するときに重視するのは、その土地ならではの災害の種類や生活文化に合わせ、息の長い交流が根付くよう協働のプロセスを組み込むことです。一緒に歩んでくれる現地のパートナー探しは最も重要な部分です。 ニューヨークでは、マーク・ジェイコブスなどの有名デザイナーを多数輩出してきた米国屈指のデザイン専門高等学校であるパーソンズ美術大学が関心を持ったことが、大きな原動力となりました。偶然にもパーソンズ大の教授陣がタイを訪れた際、当時タイを巡回中だった「防災とデザイン」をテーマとした展覧会を訪れ、その社会的意義を高く評価し、ぜひ米国でも紹介したいと言ってくださいました。パーソンズ大では、ただ良いデザインを生み出すことだけではなく、「デザインが社会にどう貢献できるか」という視点が大事にされているとの話でした。こうして始まった米国でのプロジェクトでは、日本の取り組みを紹介するだけではなく、米国ならではの防災のアイデアも一緒に紹介することを目的に、3年をかけて、パーソンズ大と日本の防災専門家との協働プロセスを組み込んでいきました*

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被災者の声から生まれた防災カードゲーム。国際交流基金の支援でNPOプラス・アーツがタイ語版を制作

パーソンズ大では、この協働プロセスの一環として、日本の先進例を手本に、災害時に役立つ都市・建築・工業・照明等デザインについて学生に考案させる集中講座を2017年に創設しました。参加した10学科の300名余りの教員や学生のうち多くは、防災の専門家ではなく、まして日本に馴染みがあるわけではありませんでしたが、停電や異常気象などは身近にあり、また、学生の40%は留学生で、自国での災害経験を持つ学生もいたため、関心の高さがうかがえました。教員や学生の多くが防災という切り口で日本の先進事例を知ることとなり、プロダクトデザイナーのダニエル・ミカリク学科長は、日本の防災にみられる「身の回りのものを工夫して利用するという考えは様々な場面で活用できる」と高く評価してくださいました。

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パーソンズ大での集中講義の様子(ニューヨークにて)

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学生たちが制作した作品の一部

世界最先端の大学でデザインを学ぶ学生たちの考案したアイデアは、ハリケーンに強いコミュニティーデザイン、ダクトテープで作る避難用持出袋、ペットの避難グッズなど、日本の専門家をうならせる視点とクオリティーを併せ持ったものでした。この集中講座は2年間続き、その成果は、2018年9月にパーソンズ大で開催された展覧会「Earth Manual Project -This Could Save Your Life」(国際交流基金アジアセンター主催事業)の一部として展示されました。今後は、大学での副専攻の創設など、さらなる可能性が展開されています。また、触発されたパーソンズ大の学生の2人は、プエルトリコの被災地に行って支援を開始するなど、米国内でも新たなネットワークが広がることとなりました。

交流を通じて日本側が学ぶことも多いです。米国では、パーソンズ大以外にも、様々な機関と多層的な交流を企画・実施しましたが、例えば災害の多い西海岸・ロサンゼルスの赤十字も防災の啓発には頭を悩ませており、特に子どもたちの関心を引くには工夫が必要でした。彼らはディズニーと組んで、子どもたちの枕カバーにディズニーキャラクターのイラストと非常用持出リストを書いて備えを教える「ピローケース・プロジェクト」を実施しました。緊急避難時に子どもたちがピローケースにぬいぐるみなど大切なものを入れて運ぶという文化に、防災の視点を加えたものだそうです。子どもが家に帰って家族と共有することで、家族全体、あるいは地域全体のレジリエンス(強靭性)を高めることにつながります。訪れた日本の専門家にとって、これは有益な示唆に富むものでした。

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災害時に何を持ち出せばよいかが一目瞭然の子ども用枕カバー

それぞれの土地での災害の捉え方、対応、教訓は様々な面で異なります。例えば予測が極めて困難な地震と、ハリケーンのような比較的周期や進路の予想が可能な災害とでも対応は大いに異なります。ただ、危機に備えるという考えや、日常に防災の視点を取り込む難しさは共通です。

米国連邦緊急事態管理庁(FEMA)のマーシー・ストーン氏は「災害から月日がたつと、備えの緊急性・優先性が薄れるという現実がある。平時からどのように人々の生活に根付かせるかは、災害対策と同じくらい重要な課題だ」と、防災教育分野での日本との交流を歓迎してくれました。手法や考えは違っても、時に文化的背景や価値観の違いを学びつつ、国を越えて対策を一緒に考えることで国際社会全体のレジリエンスに貢献しうるのではないでしょうか。

防災というとてつもなく大きな課題に取り組むとき、国際交流分野からできることはごく限られていることも十分に認識する必要はありますが、防災の知恵そのものに限らず、啓発・教育方法の知見の交換という面で、世界と共有していく大きな価値と可能性を持っていると思います。各地で災害が相次ぐ中、防災は環境、経済、建築、食など様々な分野とますます密接に横断的に関わっており、その意味でも、多様な切り口からの人と人との交流は一層広がり、深まる可能性を秘めているといえます。

* https://www.jfny.org/arts-cultural-exchange/disaster-preparedness/
https://www.jfny.org/event_tag_taxonomy/disaster-preparedness/

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瀧田 あゆみ(たきた あゆみ)
2006年、国際交流基金入職。経理部、日米センター、バンコク日本文化センター、ニューヨーク日本文化センター/日米センターでの勤務を経て、2018年より東京本部にて米州の日本研究・知的交流を担当。

本記事はEnglish-Speaking Union of Japan(日本英語交流連盟)およびThe Japan Timesに掲載された著者寄稿をもとに加筆したものです。
https://www.esuj.gr.jp/jitow/560_index_detail.php#japanese
https://www.japantimes.co.jp/opinion/2019/05/10/commentary/japan-commentary/share-japans-knowledge-skills-disaster-preparedness/

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