2019年度 国際交流基金地球市民賞受賞団体インタビュー
地域から世界へ 人と人とをつなぐ歩み<2>

2020.9.15

文化・芸術による地域づくりや、多様な文化の共生、国際相互理解等を目的に、日本全国で多くの団体が国際文化交流活動に取り組んでいます。国際交流基金は、そんな人々をサポートしようと1985年に「国際交流基金地球市民賞」を創設、日本と海外の市民同士の結びつきや連携を深め、互いの知恵やアイデア、情報を交換し、共に考える団体を応援しています。
第35回目となる2019年度の受賞団体のひとつ「国際児童・青少年演劇フェスティバルおきなわ実行委員会」(沖縄県那覇市)代表でフェスティバルの総合プロデューサー、芸術監督を務める下山久さんに、フェスティバルの歩みや、世界の舞台芸術を子どもたちへ届けることの意義等について伺いました。

国際児童・青少年演劇フェスティバルおきなわ実行委員会
~世界の優れた舞台作品は「命薬(ぬちぐすい)」~

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0歳から大人までが一緒に楽しめる国際児童演劇祭を運営している

――はじめに、活動内容について教えてください。

「国際児童・青少年演劇フェスティバルおきなわ(通称「りっかりっか*フェスタ」)」は、1994年に初開催、2005年より毎年開催され、2019年で16回目を迎えた児童、青少年、ファミリーのための国際舞台芸術フェスティバルです。
「親子、家族、友達と感動体験を共有してほしい」「国や文化は違うけれど、舞台を通してお互いの違いを受け入れ、認め合い、交流することで平和な世界へ歩みを進めてほしい」という理念を持ち、世界各国から舞台作品を沖縄に呼び、上演しています。

――豊かな芸術体験を子どもたちに提供する国際児童演劇祭によって、地域と世界と人々をつなぐ活動が評価され、国際交流基金地球市民賞を受賞されました。受賞されてのご感想はいかがでしょうか。

ありがとうございます。私たちは、子どもたちと一緒に世界の舞台を楽しみたい、感動を共有したいと思い、フェスティバルを続けてきました。応援してくださっている方々、支えてくださっているスタッフや、見に来てくださっている多くの皆さまと受賞の喜びを分かち合っています。

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「児童青少年にこそ最も上質な芸術を提供する」がモットー

――国際児童演劇祭を始めたきっかけ、特に、一貫して子どもたちやファミリーを対象に世界の芸術を届けてこられたのはなぜでしょうか?

子どもたちにこそ最も優れた舞台芸術を届けたいという思いと同時に、家族や親子や仲間で感動の体験を共有してもらいたいとフェスティバルを始めました。舞台を見ることが皆さんの"ぬちぐすい"になれば、こんなにうれしいことはありません。
ぬちぐすいとは、沖縄の方言で「命の薬」「長寿の薬」という意味です。これは当団体が活動をする上で、なによりも大切にしている精神です。以下は2012年にこのフェスティバルが「第1回アシテジ世界大会」のミーティング場所に選ばれた際に作成したテーマで、世界中の人たちに向けた共通のメッセージになります。

劇場は「命薬(ぬちぐすい)」
「命(ぬち)どぅ宝(=生命は何よりも大切なもの)」は沖縄の心
どんな困難の中にあっても、命を守り、継いでゆく
「命どぅ宝」を支えてくれるのが「命薬」
「命薬」は心を、命を育みます

ぬちぐすいのくすいは薬でもただの薬ではない
心の薬、心の栄養剤のことです
感動的な舞台を見た後など、「あぁ、今日はぬちぐすいしたさぁ!」と声に出します

沖縄では「命どぅ宝」ということわざもよく耳にします
戦争体験や苦難の歴史から学んだ血のにじんだ黄金言葉(くがにことば)です
どんなつらい境遇でも、
勇気をふるって命だけは守らなければならない、という先人からの教訓です

そして、この大事な「宝物」を支えてくれるエネルギー源が「命薬」です
沖縄戦で生き残った難民収容所の人々は、米軍から支給された缶詰の空き缶でカンカラ三線を発明して、「命ぬ御祝(ぬちぬうゆえー)」をやりました。
「鉄の暴風*」で肉親を奪われ、祖国まで失った敗残の人々にとって、
あのカンカラ三線の響きは、まさに「命薬」でした。
そして、沖縄が世界に誇る琉球芸能の復活を告げる産声でもあったのです。

*第二次大戦末期の沖縄戦で、米軍の激しい空襲や艦砲射撃を受けたこと。無差別に多量の砲弾が撃ち込まれるさまを暴風にたとえたもの(大辞泉より)

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――沖縄をハブに、世界から、毎回10か国前後の約20作品を上演され、多くのボランティアスタッフもフェスティバルを支えています。現場ではどのような国際交流や地域との交流が生まれていますか? エピソードなどがあれば教えてください。

フェスティバルでは毎年、まちづくり団体「那覇新都心通り会」が中心となって閉会式の後に大交流会を行い、アーティストの皆さんやボランティアスタッフの皆さん、通り会の皆さんが、一芸を披露したり、一緒に歌ったり踊ったりして楽しんでいます。
また、多くのボランティアスタッフをはじめ、台湾やシンガポールからのインターンの皆さんに支えられています。国内外のボランティアやインターンの皆さんがチームを作り、劇場を運営してくれています。その中でお互いに相談したり助けあったりすることを通して、さまざまな交流が生まれています。ボランティアスタッフの中には、フェスティバルの舞台を見に来てくれていた子が大学生になり参加してくれる例もあります。

――ずっと沖縄で開催されていますが、沖縄という場所はフェスティバルにとってどのような意味があるのでしょうか。沖縄だからこそ、できていることはありますか?

沖縄は、文化的にも距離的にもアジアの国々と近い位置にあります。沖縄の言葉「いちゃりばちょーでー(一度会った人は皆兄弟)」は、沖縄の心であり、世界から集まる多様な人々を結びつけることができるものです。そして、それはフェスティバルの精神でもあります。

――これまで活動を継続できた理由と、継続にあたって一番大切にしてきたことやこだわりを教えてください。

ボランティアスタッフや、フェスティバルを応援してくれている多くの観客の皆さんのおかげです。一番大切にしてきたことは、観客に楽しんでもらうことと、質の高い芸術体験を届けることです。

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公演後、舞台で使用した紙で遊ぶ子どもたち。好奇心に満ちた笑顔があふれる

――代表を務めるエーシーオー沖縄(芸術文化協同機構)としても、東アジア、東南アジアにおける「TYA(Theater for Young Audiences=児童青少年演劇)」の発展を目指して各地域の関係者がつながる「アジアTYAネットワークプログラム」を2016年から19年まで主催されました(国際交流基金アジアセンター共催、2018年助成)。また2013年から17年には「アジア児童青少年演劇フェスティバルネットワーク会議(ATYA)」議長も務められましたが、これまでどのような活動が行われ、どのような変化がありましたか?

「国際児童・青少年演劇フェスティバル」では、「アジアTYAネットワークプログラム」として、アジアの、特に東南アジアのTYA関係者とのネットワークづくりを進めています。毎年「りっかりっか*フェスタ」に東南アジアからTYA関係者を招き、アジアのTYAの現状や課題について情報交換とネットワーキングを行っています。
また、これまでシンガポール、マレーシア、カンボジア、ミャンマーへの調査訪問を行い、より多くのTYA関係者と出会い、アジアのTYAについて話し合ってきました。現在ネットワークの活動は、東南アジア各地へと広がっています。アジアに14のファミリー向けフェスティバルの強固なネットワークができ、お互いにフェスティバルの発展を支え合っています。「アジアTYAネットワークプログラム」自体は2018年で終了しましたが、交流は続け、今後もアジアの芸能やシンポジウムの実施を企画しています。

――2020年は新型コロナウイルスにより5月に開催が予定されていた「りっかりっか*フェスタ」にはどのような影響がありましたか?

5月実施の予定を2021年3月20日~27日に延期して実施する予定です。その時期に状況がどうなっているか心配ですが、海外アーティストを招き、彼らが来日できる場合は検査の上、来日後2週間待機してもらい、当日も間隔を空けてマスク着用で実施する方向で考えています。公演数を減らし、ゆっくり観客と話し合う時間を作れればと。もし来日できない場合も、リモートで作品映像を見てもらい、アフタートークとして現地とつなぎ、今の状況について劇団の人たちと観客が話し合い、交流できればと考えています。
大変なこともたくさんありますが、時間ができたので、フェスティバルをやる意味、文化を届ける意味を、楽しみにしている皆さんとしっかり共有したい。
今、世界的な新型コロナウイルスの流行で、多くの人々が同じ境遇に置かれているので、どういうふうに生活しているか、親近感や世界に関心を持つ機会になると思います。
これまでフェスティバルを通じて築いてきた世界的なネットワークのおかげで、この状況の中でも励まされたり、情報共有をしたりできています。表現の仕方は否が応でも変わっていくと思いますが、実演芸術はやはり出会って、同じ空間で作られるものだ、という思いを世界のフェスティバルの皆さんと語り合う中で、その考えは間違っていないのだと感じています。今は時間さえ調整すればリモートで世界中の皆さんと話ができる。幸か不幸か、時間はありますから(笑)。
3密にならないような方法での交流、距離は遠くても感覚を共有して心の距離が近くなるようなことをやりたい。お互いに励まし合えるような、まさに「命薬(ぬちすぐい)」を届けたいと思います。

――今後の「りっかりっか*フェスタ」、また「国際児童・青少年演劇フェスティバルおきなわ実行委員会」の抱負をお聞かせください。

フェスティバルの継続開催を通して、「りっかりっか*フェスタ」がアジアの児童青少年のための舞台芸術のハブとなり、アジア中に児童青少年のための演劇フェスティバルが広がっていくことを願っています。

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2019年度国際交流基金地球市民賞伝達式にて。受賞を喜ぶ下山さん(中央)と関係者の皆さん

下山 久(しもやま ひさし)
沖縄を題材とした作品や国際共同作品など多数の舞台作品を企画・制作。「国際児童・青少年演劇フェスティバルおきなわ」の総合プロデューサー、芸術監督。エーシーオー沖縄(芸術文化協同機構)代表。
世界的な青少年の舞台芸術関係者によるネットワークである「国際児童青少年舞台芸術協会(アシテジ)」による「第20回アシテジ世界大会/2020国際子どもと舞台芸術・未来フェスティバル」(2021年3月に日本で開催予定)のプロデューサー・芸術監督を務める。2013~17年アジア児童青少年演劇フェスティバルネットワーク会議(ATYA)議長を務めるなど、幅広い国際的なフェスティバルのネットワークを築いている。

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国際交流基金地球市民賞
https://www.jpf.go.jp/j/about/citizen/

メールインタビュー・構成:寺江瞳、瀨川洋子(国際交流基金コミュニケーションセンター)

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