2019年度 国際交流基金地球市民賞受賞団体インタビュー
地域から世界へ 人と人とをつなぐ歩み<1>

2020.8.14

文化・芸術による地域づくりや、多様な文化の共生、国際相互理解等を目的に、日本全国で多くの団体が国際文化交流活動に取り組んでいます。国際交流基金は、そんな人々をサポートしようと1985年から「国際交流基金地球市民賞」を創設、日本と海外の市民同士の結びつきや連携を深め、互いの知恵やアイデア、情報を交換し、共に考える団体を応援しています。
第35回目となる2019年度の受賞団体のひとつ「四日市市立西笹川中学校多文化共生サークル」(三重県四日市市)の担当・佐藤紀文教諭に、地域や教育現場における取り組み、多文化共生への思い等を伺いました。

四日市市立西笹川中学校多文化共生サークル
~課題をチャンスと捉え、一歩踏み出す勇気を~

serialized-essay_jp_202008_1-1.jpg
外国人が多く暮らす四日市市で、多文化共生の啓発に取り組む市立西笹川中学校多文化共生サークルのメンバー(右端が佐藤紀文教諭)

――はじめに、多文化共生サークルの活動目的について教えていただけますか。

四日市市立西笹川中学校の多文化共生サークルは、外国人集住地域である本校区で多文化共生教育を推進するために、学年・部活動・生徒会という既存の枠にとらわれない、自主的・自発的な活動として発足しました。 本校区は多言語・多国籍化、少子高齢化、人口減少等の課題があります。その中で、地域の行事や活動に参加することで、地域を助け、地域と共に歩む学校としての立場を確立し、若年層から地域課題の解消や地域活性化について考え、行動することを目的としています。2020年度はサークルメンバー10人(2、3年生のみ)、担当教師3名でスタートしました。

本サークルでは、主に地域との関わりの中で多文化共生啓発に取り組んでいます。地域貢献や多文化共生、キャリアについて全校で考える「パネルディスカッション」という行事を毎年開催しており、サークルメンバーは司会および本校代表のパネラーを務めます(2020年度は11月14日に開催予定)。また、本校を卒業した高校生・大学生・社会人がパネラーとして登壇し、テーマに沿って話し合い、他の生徒はそれを聞いて、グループトークや質問を行います。2019年は、進路選択のために大切にしたいことや、夢をかなえるためにはどんなことを頑張りたいかといった内容で話し合われました。

serialized-essay_jp_202008_1-2.jpg
毎年、活発な議論が展開される「パネルディスカッション」

2018年度からは「パネルディスカッション」の事前学習として、地域のゲストティーチャーによる講演を実施しています。今後の社会や地域活動には若い力をはじめ、外国人住民との共生が必要であることや、地域の活力としての中学生への期待を直接語りかけてもらえる機会であり、地域やキャリアへの関心を高めるきっかけになっています。

2017年からは、地域住民が参加する「笹川ふれあい夏まつり」(例年8月開催)でヨーヨー釣りのブースを出しています。日本に古くからある夜店を外国人住民に知ってもらうとともに、数少ない年少者向けの店として好評を得ています。

serialized-essay_jp_202008_1-3.jpg
外国人住民や子どもたちに大人気の「笹川ふれあい夏まつり」のヨーヨー釣りブース

秋には地域・防災団体・市の多文化共生推進室が連携した行事「防災セミナー」(2020年度は中止)にスタッフとして参加します。この行事は、国籍を超えて、より多くの人に災害時の「自助」「共助」「公助」への理解を深めてもらうことを狙いとしています。本サークルは当日に、火災時に姿勢を低くして移動することや、捜索や救助の必要がない時は玄関先に黄色の布を掲げて知らせることを体験する「防災迷路」や、絵入りのカードを使って非常時に持ち出す品について話し合う「非常時持ち出し品クイズ」等を企画運営する他、グループディスカッションの司会・発表や、保育園や幼稚園を訪問し、園児やその保護者に行事紹介と参加を呼び掛けるPR活動もしています。

また年に1回、海外の料理を作って食べる「国際クッキング」を開催し、校内の生徒を対象に海外への関心を高めてもらうとともに、メンバー勧誘を行います。これまで4回実施し、ブラジル・韓国・メキシコ・インドネシア料理に挑戦しました。そして、これらの活動報告を学校の文化祭、地域の文化祭、市の多文化共生サロンの発表会と3回にわたって行っています。

serialized-essay_jp_202008_1-4.jpg serialized-essay_jp_202008_1-5.jpg

「非常時持ち出し品クイズ」で、災害などの緊急時に自宅から持ち出すものを学ぶ

インドネシア料理のナシゴレンとガドガドづくりに挑戦!

サークル活動のうち、「パネルディスカッション」と「防災セミナー」は中学生の地域活動への参加、地域活性化を目的とする「地域づくりジュニアサポーター養成講座」も兼ねています。これは、すべての人が安心して暮らすことのできる地域をつくるために、中学生の地域活動への参加を足掛かりとして、より多くの人が地域社会に参画することを目的としています。多文化共生推進室が主催し、養成講座を修了すると、市のジュニアサポーターとして認定されます。

――生徒たちを主体とするサークルの活動は、地域にはどのような好影響を及ぼしているのでしょうか?

夏まつりや防災セミナーで地域住民と直接関わる機会を持つことで、地域住民と学校との結びつきは強くなっています。少子高齢化の波が押し寄せている本校区では、行事の担い手も高齢化しており、若年層の参加に対する歓迎の声が多くあります。本サークルの参加がきっかけとなって卒業生が夏まつりに出店したり、ごみ拾いに参加したりと、持続的なまちづくりにもつながっています。

防災セミナーでは多言語を話せるサークルメンバーが外国人住民に説明や案内をすることもあり、本校区ならではの「頼れる中学生の姿」を地域にお見せできました。サークル活動の中で、保育園や幼稚園、小学校に赴くこともあり、地域・学校・園をつなぐ存在でもあります。
「地域行事に中学生が参加してくれてうれしい」「子どもが地域の多文化共生の手本となっている」「地域行事への参加を見て、中学生への期待が高まった」など好意的に捉えた声を多く聞くことができました。また、これらの活動は多数のメディアに紹介されており、サークル活動を通して学校や地域が注目される契機にもなっています。

serialized-essay_jp_202008_1-6.jpg serialized-essay_jp_202008_1-7.jpg

新聞記者の取材を受けるサークルのメンバー

地域住民に活動内容を直接報告する機会も

――活動を通して、生徒たちはどのような変化や成長を見せていますか?

サークル活動に所属する多くの生徒にとって、サークル活動は自己肯定感を高められる場、自分に自信が持てる場になっています。
多文化共生サークルに所属する生徒の中には、学習や部活動で思うように活躍できない生徒もいます。そういった子たちにとって、地域の活動に参加し「ありがとう」と声をかけてもらったり、大勢の前で発表したり、新聞やテレビの取材を受けるということは、これまでにあまりなかった体験であり、それが達成感や自信につながっているといえます。

入学当初の参加希望者は例年少ないのですが、活動や発表を通して、徐々に参加メンバーが増える傾向にあります。「発表で活動を知って参加したくなった」「楽しそうに活動している姿を見て、入りたくなった」などの声が上がっています。このことからもサークルメンバーがこの活動を楽しみ、充実感を得ていることがわかると思います。そして、卒業後もパネルディスカッションのパネラーとして在校生に語りかけたり、夏まつりで新たな店を立ち上げたりと、継続して学校や地域に関わろうとする姿が見えるようになってきました。このことも多文化共生サークルの活動が彼らの自主性を高め、地域貢献や多文化共生への関心を高めた結果だといえるでしょう。

――活動を継続していく上でのご苦労や対策はありますか? 多文化共生に関する活動をしている方々にアドバイスをお願いします。

多文化共生サークルは本校独自のものであり、オプションとしての教育活動です。勤務時間縮減や労働内容の見直しなど「働き方改革」の波が押し寄せている学校の現状からいえば、非常に危うい立場にあるといえます。本活動が地域の課題に根差したものであり、本活動によって地域と学校のつながりが強まり、生徒の自己肯定感の涵養と多文化共生への関心の高まりにつながっているということを学校職員・保護者等に強く伝えていく必要があります。そういった意味では、マスコミからの取材や今回の地球市民賞受賞が、多文化共生教育の注目度や重要性の認識につながっていると感謝しております。

今後は多文化共生教育や地域貢献について学校で考え、行動する機会が増えていくことと思います。アドバイスという大それたものではありませんが、本活動は「課題をチャンスと捉える」ところから始まっています。「多国籍・多言語化」や「少子高齢化」は確かに大きな課題です。しかし、だからこそ中学生の地域活動への参加は歓迎と感謝で受け入れられますし、若年層だからこそ異文化交流に対する先入観も少ないといえます。そして、課題に対してアクションを起こすことが学校の特色づくりにつながっていきます。また、子どもたちも地域住民も、地域の課題に学校が立ち上がることを期待しているはずです。つまり、学校職員が一歩目を踏み出す勇気こそが、多文化共生教育に必要なファクターといえるのではないでしょうか。

――2020年度の活動では、新型コロナウイルスによる影響は出ていますか? サークルとしては、この状況にどのように向き合い、活動されていますか?

サークル活動の主要な活動のうち、「笹川ふれあい夏まつり」と「国際クッキング」は中止が決定してしまいました。代わりに校内で何か活動しようということになり、生徒からの提案で、各学年の教室の廊下にブラジルの地図を掲示し、ブラジルがルーツの生徒にとってのゆかりの場所にシールを貼って紹介し、ブラジルに親しんでもらう企画を実施しています。サークルメンバー以外の生徒たちも楽しんで参加してくれています。

また、例年通りの活動ができなくなった反面、生徒たちが自らやりたい企画を考える良い機会となっています。全校で多文化共生や国際交流をテーマにした集会や、他校との交流がしたいという声も出ており、担当教師で行事を実施する時間の捻出や、本校とよく似た特色を持つ学校の選定をしています。今回の受賞で国際交流基金に作っていただいた活動紹介DVDやテレビ放映の映像を使った紹介動画も子どもたちとともに作成しています。国際的な事業も実施できればうれしいです。

serialized-essay_jp_202008_1-8.jpg
2019年度国際交流基金地球市民賞伝達式にて。受賞を喜ぶ四日市市立西笹川中学校多文化共生サークルのメンバーと関係者の皆さん

四日市市立西笹川中学校多文化共生サークル
http://www.yokkaichi.ed.jp/~nisisasa/cms2/htdocs/?page_id=48

★サークルの活動紹介動画は以下の国際交流基金公式YouTubeチャンネルで公開中です。



佐藤 紀文(さとう としふみ)
中学校教諭。担当教科は国語。公立中学校、日本人学校等の勤務を経て、2018年度より四日市市立西笹川中学校勤務。

serialized-essay_jp_202008_1-9.jpg
国際交流基金地球市民賞
https://www.jpf.go.jp/j/about/citizen/

2020年度国際交流基金地球市民賞の自薦・他薦の募集を開始しました(締切:2020年8月24日消印有効)。どなたでも推薦できますので多くのご応募をお待ちしています。
https://www.jpf.go.jp/j/about/citizen/guideline/index.html

メールインタビュー・構成:寺江瞳、瀨川洋子(国際交流基金コミュニケーションセンター)

Page top▲