雑誌『をちこち(遠近)』
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欧州の「宗教的マイノリティ」への取り組みから学ぶべきこと

高橋典史(東洋大学社会学部)
岡井宏文(早稲田大学人間科学学術院)

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日本の在住外国人やその宗教の現状について発表

 中東における紛争は今なお続き、戦火を逃れ越境する難民の問題は解決の兆しを見せていません。他方、欧州におけるテロの脅威も終息していません。そこに横たわるのは、宗教、特にイスラームを巡る問題であり、欧州の人々にとっては、日本で暮らす人々が想像する以上に喫緊の課題となっています。今回、欧州評議会の「インターカルチュラル・シティ」のセミナー「Tackling prejudice and engaging with religious minorities」へ参加したことにより、それを強く実感できました。

サン・セバスティアンで開催されたセミナー

 セミナーは、スペインの風光明媚な観光地で、美食の街としても名高いサン・セバスティアンで開催されました。2日間にわたるセミナーでは、各地の事例報告とグループ・ディスカッションが行われ、2日目の午後には町のモスクを訪問するなど充実のプログラムでした。参加者の多くは欧州の各都市から集まっていましたが、日本からの私たちのほかに、モロッコやカナダからの参加者もいました。彼/彼女らの多くは、日本でいう多文化共生に関わるような自治体の部局や社会団体等のスタッフや宗教者の方々でした。
 セミナーの中心的な目的は、宗教的マイノリティに対する偏見や差別の問題に対応する行動をいかに起こしていくのか、参加者が各々の現場での経験をもとに議論し、アイデアを出し合うことでした。私たちは、在日外国人とその宗教の現況、そして在日ムスリムの事例を紹介しました。

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他の参加者とのアイスブレーキングの様子

サン・セバスティアン市内のモスクを訪問

宗教マイノリティに対する偏見・差別への対応

 議論の中で、政治やメディア、日常生活の中で発生したヘイトスピーチや暴力、差別のケースが報告されました。様々な差別の理由として宗教、特にイスラームが関係する状況が非常に重く受け止められていました。
 参加者からは、(1)偏見や差別を発見し、適切に対応できる法律や支援の体制を構築することや、(2)相互理解を促進するアイデアが数多く示されました。特に(2)については、人と人との繋がりを生み出すことが重視されていました。全ての宗教が利用できる場の創出、宗教施設訪問ツアー、宗教間対話集会の開催など、マイノリティの声を掬い上げ、異なる価値観を持つ人々を結び付け、相互理解に繋げていくアイデアが数多く報告されました。

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サン・セバスティアン市の多宗教センター「メビウス」。どの宗教の人も利用できる場として2017年末まで設置されている。

 中でも印象深かったのは、自治体職員や宗教指導者を、宗教的マイノリティとそれを受け入れるホスト社会の橋渡し役を担う専門家として養成する試みでした。
 ホスト社会に通底する西欧的価値観と、宗教的マイノリティの規範や実践とが相反することはありうるし、両者に接点がなければ誤解や偏見はなお生まれやすいでしょう。双方の価値観や「空気」を理解し、心のひだに触れる言葉で説明や交渉ができる人材が求められていました。

欧州の事例からの学び

 日本に目を移すと、宗教よりは在日コリアンなどへの民族・人種差別が前景化しています。そうした中で、欧州の事例から学べることは何でしょうか。宗教をテーマにした今回のセミナーでしたが、参加者に共有されていた認識の一つに「宗教が全ての原因ではない」というものがありました。性や職業にまつわるものなど、世の中には様々な差別が存在していますし、それらは他の差別や問題と複合的に結びついています。宗教への差別も、社会経済的な不平等など隣接する問題と切り離して考えることはできません。問題を正しく認識するための取り組みが重要になります。その具体策として、欧州では様々な立場の人が継続的に関わりあう取り組みが進められていました。勿論、これらの取り組みにはホスト社会への同化圧力への懸念や、排外主義や過激派などへの対応をどうするかなど課題があります。しかし今回のセミナーはゴールではなく、参加者が共有したアイデアは、各地で新たな改善や取り組みへと還元されていくはずです。そのような場に居合わせ、それらを共有できたことは非常に得難い経験でした。

 最後に、貴重な機会を与えてくださった国際交流基金の皆さまに深く御礼申し上げます。

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セミナー参加者による集合写真

■欧州評議会作成の本セミナーレポート(英語)

religious_minority_06.jpg 高橋 典史(たかはし のりひと)
東洋大学社会学部准教授。専門は宗教社会学、とくに移民や難民と宗教との関わりに注目して研究してきた。著書に『移民、宗教、故国』(ハーベスト社)、『宗教と社会のフロンティア』(共編著、勁草書房)など。

religious_minority_07.jpg 岡井 宏文(おかい ひろふみ)
早稲田大学人間科学学術院助手。専門は移民研究。日本に住むムスリムの生活と、地域との関わり合いに関心を持ち研究してきた。著書に『現代人の国際社会学・入門』(共著、有斐閣)、『国境を越える―滞日ムスリム移民の社会学』(共著、青弓社)など。

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