JF便り 情報センター(JFIC)編 16号 仙台クリエイティブ・フォーラム 「交差するクリエイティブ・パワー~世界から地方へ、地方から世界へ」開催 概要報告

情報センター(JFIC)
菅野幸子


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国際交流基金(ジャパンファウンデーション)は、地域における国際文化交流の活性化に役立つセミナーやシンポジウムを地域のアクターと共催で実施しています。

jf-ab16-02-1.jpg2008年の金沢市でのシンポジウム「都市を刺激するアート」に続き、2009年3月23日に仙台市、宮城県美術館との共催で、「交差するクリエイティブ・パワー~世界から地方へ、地方から世界へ」と題し、仙台クリエイティブ・フォーラムを開催いたしました。
仙台市とその隣接する地域では、映像メディア、現代アート、建築、デザインなどのクリエイティブな活動を軸に、街を再生しようと動きが高まっており、仙台を拠点とするクリエーターたちが世界に進出し始めています。今後、同様な活動を行なっている海外のネットワークとつながり、情報やノウハウの共有とともに人的なネットワークがなお一層広がっていくことが求められています。
そこでモデレーターに、本江正茂さん(東北大学大学院准教授)、パネリストとして、ドリュー・へメントさん(「フューチャーソニック」ディレクター&CEO)、中谷日出さん(NHK「デジスタ」ナビゲーター)、鷲田めるろさん(金沢21世紀美術館)、小川直人さん(「ローグ」メンバー)をお迎えして、国際的なアート・フェスティバルが単に作品の発表や展示だけではなく、アイディアや対話を促進し、街を活性化する起爆剤となる可能性、さらにローカルな場に潜在するクリエイティブな人材が対外発信し、グローバルにつながっていくことの重要性について討議しました。


仙台クリエイティブ・フォーラム
「交差するクリエイティブ・パワー~世界から地方へ、地方から世界へ」開催 
概要報告


日時: 2009年3月22日 日曜日 14時20分から17時 (開場13時30分)
会場: 宮城県美術館 講堂(仙台市青葉区)
主催: 国際交流基金(ジャパンファウンデーション)、仙台市、宮城県美術館
協力: ブリティッシュ・カウンシル
後援: クリエイティブ関連都市型フェスティバル調査研究会(FesLab)
内容:
1.開会/主催者挨拶
2.「フューチャーソニック」プレゼンテーション(ドリュー・ヘメント)
3.FesLab プレゼンテーション(柿崎慎也)
4.パネル・ディスカッション

>> 開催案内・参加者略歴についてはこちら
(敬称略)


1. 主催者挨拶
ジャパンファウンデーションより、地域におけるクリエイティブ・シティの動きやアートを通じた地域活性化、それに伴う国際文化交流の発展を期待する旨挨拶。(姫田美保子 情報センター次長より)
仙台市より挨拶と仙台市の方針についての説明 (天野元 経済局産業政策部産業振興課長より)
仙台市では、今後流出人口が増大し、人口減が予想されることもあり、市民生活の量的拡大より質を高めることを目指している。そこで世界的にも注目されている「クリエイティブ・シティ」的な発想を取り入れ、産官学で連携を取りつつ、クリエイティブ産業の振興を目指したいという問題意識がある。

2. <事例紹介>
「フューチャーソニック」について ドリュー・ヘメントさんプレゼンテーション

jf-ab16-03.jpg「フューチャーソニック」は、今では英国を代表するデジタルアートのフェスティバルとして知られている。このフェスティバルが開催されているマンチェスター市は人口60万ほどで、多様な文化背景を持つ住民が多い。マンチェスター市くらいの街の規模であれば、よりオープンで、分野を横断したイベントを企画できるのが強みである。街のサイズや首都からの距離などは仙台と似ているともいえる。英国では最初に産業革命を達成した都市として発展を遂げたが、第二次世界大戦後は急速に衰退したことから、現在は文化による都市の再生に挑戦しているところ。

「フューチャーソニック」の使命は、都市を舞台として、刺激し、活性化し、生き生きとした都市へ変容させていくこと。地元に密着し、その地元のアーティストが国際的なコミュニティ、クリエイティブなビジョンとつながるきっかけを作り出す役割も担っている。このフェスティバルの最もユニークな点は、大学と緊密な連携を取りながら、研究の一環として開催されていることで、大学の研究者たちも実験や発表の場として活用しており、研究に貢献しているということである。これまでフェスティバルの創造的なあり方を模索してきたが、今後は、音楽、アート、アイディアを3本柱にして、より多様なジャンルと多層な人々と関わっていきたいと考えており、名称も、「Futureverything」に変える予定。

jf-ab16-04-1.jpg今年(2009年)のテーマは、「ソーシャル・メディア」, 「ソーシャル・ネットワーキング」で、「ソーシャル・テクノロジー・サミット」。何がホットで新しいのか、その時々のトレンドを先取りした内容であれば、企業も情報を求めて参加してくるので、大学の研究にも貢献することになり、経済的発展にも寄与することになる。

フェスティバル自体は、年1回3日間だけの開催だが、事前事後に多くの準備や作業があり年間を通じた事業、プロセスである。また、アーティスト、企業、住民が一堂に会する大切な機会であり、地元にとっても大きなメリットになる。

最後に、チャールズ・ランドリー(Charles Landry)の言葉を紹介したい。「Making cities, there are no formula .街をつくる公式はない」ということである。


国際フェスティバル研究会(FesLab)について 柿崎慎也さんプレゼンテーション
「FesLab」とは、Festival Laboratoryの略で、「お祭り研究室」ともいえるが、ヘメント氏が行なっているような活動を研究している団体である。現在同じ会場(宮城県美術館)で開催されている「Occur」展のプロデュースも行なっているが、Occurの意味は、ラテン語で川が源泉から流れるイメージを意味し、仙台市を拠点として新しいアートの動きが始まってほしいという願いから命名している。イベントの仕組みづくりを研究しており、建築家、作曲家など自分のドメイン(フィールド)を超え、横断的にディスカッションを重ねられる仕組み、プラットフォームを作りたい。2010年秋に最初のフェスティバル開催を目指している。とは言え、仙台市には、まだクリエーターの絶対数が限られているという実情があるので、プロデューサー、ディレクターを養成するのと同時に、若い世代の中からクリエイティブな才能をデザイナーや作曲家、アーティストを育てていきたい。


3. <パネル・ディスカッション> (以下敬称略)
進行:本江正茂東北大大学院准教授

jf-ab16-05.png小川直人(「ローグ」メンバー):「ローグ」の名称は、Dialogueから取られた。「-logue」には対話、話すという意味がある。最初「-」をつけていたが、インターネットの検索では「-」は「●●以外」という意味となり、検索にかからないことがわかって、Logueと名称を変更した。仙台市のクリエイティブ産業の振興をめざした研究会が出発点で、半年の間に、在仙の多彩なクリエーターたちへのインタビューとレクチャーを開催した。その報告をウェブに掲載し、毎日更新していた。一旦活動を停止していたが、先日再開した。再開するにあたっての新しいコンセプトは「ローカル」、「地方」をどう捉えるかであり、すなわち東京に対して、地方都市としての仙台市はどう見えるのかということである。これまでの中央と地方という捉え方ではない「地方」のあり方を定義できないかと考えて活動している。

鷲田めるろ(金沢21世紀美術館キュレーター):金沢21世紀美術館主催で2008年秋に行なわれた「金沢アートプラットフォーム」にはキュレーターという立場で関わった。「自分たちの生きる場所を自分たちでつくる」というテーマで、市内各地の会場で実施された展覧会。内外の19人のアーティストが参加し、空家や空店舗などを会場にして政策やワークショップを行なった。会場を巡るツアーも開催した。このプロジェクトで大切にしたことは、まず、多様な市民の.方々に関わってもらってつくる形式にしたこと。2番目に場所と関わることを大切にしたこと。例えば、神社、古い町家を探して、19人の作家や、運営スタッフが一緒に作品を創ったり、その間をつなぐツアーを創ってもらったりした。

このほか、CAKKのメンバーとして活動も行なっている。これは、アーティスト、学生、建築家がグループとして活動しているもので、市内の町家を借りて、アーティストに泊まってもらったり、展覧会をやったり、ワークショップしたり、多様な活動を行なっている。行政が主体の活動とは別に、街で活動したい人が集まっており、建築と美術の両方の分野を横断した活動であり、ソウル、沖縄、上海、台北、ベネルクス、古都のオルタナティブなネットワークを作りたいと考えている。

中谷日出(NHK解説委員):ナビゲーターを務めた「デジスタ」は単なる番組ではなく、「ムーブメント」と捉え、将来の展望、ビジョンありきをもって番組を考えた。世界に活躍できるクリエーターを育てたいと考えている。世界を知って、世界に日本にコンテンツを紹介してほしい。このような集積があって、多様なムーブメントが起こってくるのだと思う。

宮城・仙台は芸術民度も高く、仙台市は街としても人気も高い。仙台市は、アート・フェスティバルのムーブメントには適していると思う。しかし、まだまだ必要な要件があると思う。市民のニーズ、フェスティバルを愛する気持ち、フェスティバルを認める気持ちが大切。しかし、最も必要なものは、フェスラボのような機能。例えば、世界で一番素晴らしいフェスティバルのムーブメントは、人口4万6千人、印刷と製紙業の街、フランスのアングレーム市で開催されている漫画「バンド・デシネ」の国際フェスティバル(アングレーム国際マンガフェスティバルFestival international de la bande dessinée d'Angoulême)である。年1回開催されているが、世界中のファン、20万人が集まる。

映像研究所や映像専門学校、アニメ・映像センターを中心としてその周りにフランス中からコンテンツ関連企業を誘致して、600人の雇用を創出している。アニメ・映像センターは小さな古いお城をオフィスにしており、非常におしゃれな環境となっている。小学生たちがオフィスをたずねCG制作をしているお兄さんの姿を見ることができる。ポスト・ハリウッド、ハリウッドを越えることを目指している自治体でどのような展開をしていくか注目される。仙台市の役に立つ事例だと思う。

jf-ab16-06.pngもう一つ好きなやはりフランスのル・マンに近いラバルという町。市長が科学技術を振興している。『ラバル・バーチャル(lLaval Virtual)』というバーチャル・リアリティのフェスティバルを始めた。小さな町だが世界中からファンが集まり、町全体でバーチャル・リアリティを楽しんでいる。一般の人にわかりやすくバーチャル・リアリティを活用しており、世界初の野外のテーマパークまで出来ている。ラバル・マイエンヌ・テクノポール研究施設も設置されており、そこに教育があり、イベントがあり、そこから世界に伝播し、そして世界から人が集まるサイクルが出来てくることが大切だと思う。

アメリカのアカデミー賞も最初にアカデミー、研究機関があったからここまで発展した。研究機関が常に新しいものやアイディアを生み出し牽引していくことが大事だと思う。


ヘメント: 小川さんに質問。オン・ライン・コミュニティはあるのか。
小川: 実際にはface to faceでやっており SNSではない。ローカルであることは、いつでも会える街の規模でもあると思う。
ヘメント: インターネットは、国際的な広がりを可能とするのと同時に地域を活性化できると思う。金沢については、人々との交流を重視していることに感心した。どのようにして人々を参加しようと気にさせたか。成功した方法は?
鷲田: 多様なかかわり方、窓口を設定することがキーとなる。能動的に自分でプロジェクトを立ち上げられるようになることが大事。
本江: 論点が4つ出てきた。1.都市 2.コアになる組織、3.オーディエンスをどう獲得し巻き込んでいくか4.テクノロジーとメディア。特に、都市と自分の仕事はどう関係しているかを聞きたい。どんな場所でどう関わってきているのか。
ヘメント: フェスティバルには 2種類ある。一つは、街とそれほど関わり無いもの、たとえば街から街へと移動するもの。もう一つは、ある特定の都市と深い関わりのあるフェスティバル。ルーツがその街にあるもので、「フューチャーソニック」は後者であり、他の都市でできるタイプのものではない。私はその都市の人々としっかり対話して街を変えていきたい。フェスティバルとマンチェスター市は相互に影響し合って、フェスティバルも変化を遂げ、市も変化を遂げてきたのではないかと思う。
鷲田: 金沢は、人と人とのつながりが濃い。ジャンルを超えてつながりやすい。家賃が安いので、活動のベースも自分たちの小遣いの中で借りることができる。地方の環境にあって、有利な条件を活かしてコトを動かすには丁度良いサイズ。

jf-ab16-07.jpg中谷: 同感。グローバリゼーションが進んでいるので、海外の人にとっては地方都市の物理的距離はそれほど問題ではなく、世界に知らしめることが必要。世界一のフェスティバルを競争するのではなく、いかにオリジナリティのあるフェスティバルを創っていけるかである。フランスのアングレーム市でも、日本に対する興味が高い。フランス人も子どもの頃から日本のアニメを見て育ち、その後で、それがメイド・イン・ジャパンと知る。どこで働きたいかと聞くと、東京、ジャパンと言う。他から見れば東京、日本は憧れの土地なのに、日本人自身が気づいていない。日本に対してよいイメージがあるうちにどんどん発信していくことが大切。
小川: 自分たちの世代の感覚でいうと、昔の郷土愛とは違う地域性があるのではないかと思う。地方⇔中央という回路を経なくても、いいもの、気に入ってものを手に入れられれば、もっと効果的ではないか。

<会場とのQ&A>
Q1:マンチェスターについてだが、世代を横断して楽しんでいるのが、すごい。いろんな世代に理解してもらう工夫は?
ヘメント: アーティストによるトーク・セッション、ワークショップ、展示など、多彩なイベント、催しを用意している。

Q2:女性だが左官の仕事をしている。今回の事例紹介を見て、左官の仕事に映像を取り入れたいと思った。アイディアを教えてほしい。
中谷: ロングテール、すなわち売れ筋より、そうでないところにビジネス・チャンスが沢山あるはず。経済状況が悪いと難しいと思われるけど、違う。自信をもって、世界中どこにもない職人、オンリーワンを目指してほしい。

Q3:1.大型イベントを実施するための組織体が難しいと思う。どう組織を立ち上げたのか。2.ボランティア、スタッフをどう集めたのか。3.どういう資金をどこから勝ち取って動かしているのか。
ヘメント: まず、運営体制だが、数年前まではかなり規模が小さかったので、自分ですべてをやらざるを得なかった。その後、アーツ・カウンシルから展示に対して助成がおり、また非常に有能なマネージャーも雇うことができた。自分が気づかなかった視点や新しいアイディアで、運営や資金獲得をしてくれるようになった。そこで、自分はクリエイティブな部分と研究に専念できるようになった。資金獲得についてだが、実際にはそれほど自分たちも資金があるわけではない。しかし、こういう仕事が大好きな人々が手伝ってくれて、新しい実験の場、発表の場として、アーティスト、コラボレーター、コミッショナーなどが協力や参加を申し出てくれる場合が多い。

<各パネリストからのコメント>
小川: たまたま美術館に来て、このシンポジウムに来てくださっている方もいるとうれしい。
中谷: 継続しなければ意味はない。その意味で自治体が関わるのは重要。経済状況が厳しいとつらいが、知恵と努力で克服してほしい。
鷲田: 会場からの質問を金沢の例に当てると、多様な世代に理解してもらうための工夫についてだが、理解をしてもらおうとしてはいけないと思う。よそ者だけれども仲間に入れてくださいと自分から入っていく努力が必要。お年寄りの人にとっては、人が集まる場所に出てくるだけでも大変なので、何も言わなくても見ていられる場を作ることが大切だと思う。アートがきっかけとなってそういうことが起きれば最高。余り、イベントを理解してもらうということではなく場を共有することが大切だと思う。
ヘメント: 新しくフェスティバルを立ち上げることは本当に大変。新しい挑戦、試みをすることは本当に難しい。フェスラボは大変刺激的な試みであり、仙台市でも、新しい試みが広がっていることを知ったのはうれしい。何かを始めることは非常にエネルギー、パワー、忍耐が必要であり、情熱を維持し続けていくことが大切。アドバイスとしては、ローカル、グローバルという視野を持つことであり、クリエイティブな才能に投資して、グローバルなネットワークとつながって、世界に発信していくことが大切。

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