「KIZUNA」プロジェクト アメリカから高校生がやってきた

茨城県立日立第二高校 教諭 中野哲也



 2012年6月14日、茨城県立日立第二高校にアメリカの高校生がやってきた。「アジア大洋州地域及び北米との青少年交流」訪日団の招へいだ。この事業は、東日本大震災からの復興のため、青少年交流を通じて、日本再生に関する外国の理解を推進することを目的として、外務省アジア太洋州局が 平成24年度中にアジア太平洋地域及び北米の41の国と地域との間で 1万人以上の高校生・大学生を交流させる「KIZUNA」プロジェクトである。
 やってきたのは、ペンシルベニア州オルダダイス高校と アイダホ州メリディアン高校。いずれも生徒23名+教員2名の合計50名が本校の授業に参加した。

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(左)オルダダイス高校の面々、(右)訪日団全員と記念撮影



アメリカへ

 11月3日から13日の11日間、今度は私達が訪米することになった。訪問先は首都ワシントン、ペンシルベニア州オルダダイス高校、ヴァージニア州セント・キャサリン高校そしてニューヨーク。生徒47名と教員4名が派遣され、各地で東日本大震災被害の実態と復興の現状を発表。また学校間交流とホームステイを体験した。
 渡米前日、出発前研修が代々木オリンピックセンターで行われた。殆どの参加者が海外渡航が初めてということもあり、有意義な研修となった。

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(左)挨拶する外務省井原北米局長、(中央)駐日米大使館マーク・J・デイビッドソン広報・文化担当公使によるゲストスピーチ、(右)神奈川県総合高校菅原先生によるサバイバル・イングリッシュの授業

 11月3日、成田から出国。デトロイトで乗り換えてワシントンDCに到着。

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(左)ワシントンDCロナルド・レーガン空港到着直後の様子、(中央)宿舎は首都ワシントンDCの郊外の閑静な住宅街の中にあった、(右)世界の研修者が集まるカフェテリアでの様子。この日はセネガル共和国からの研修者が多数いた



大統領選当日の首都ワシントン訪問
国会議事堂、国立航空宇宙博物館見学後、藤崎一郎特命全権大使を表敬訪問。

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(左)議事堂ドーム部を見学、(右)日本大使公邸にて藤崎一郎特命全権大使を表敬訪問



2グループに分かれて交流先高校へ
 グループAはペンシルヴァニア州ピッツバーグ市のオルダダイス高校へ、グループBはヴァージニア州リッチモンド市のセント・キャサリン高校へそれぞれ移動。ホスト・ファミリーと対面後、滞在先の家庭に向かった。

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ホストファミリーと対面の瞬間(オルダダイス高校)



アメリカの学校生活を体験
オルダダイス高校の場合
 *昇降口に金属探知機があり生徒は毎朝全員ボディーチェックを受ける。*各階には警備員が常駐。*先生は全員自分の教室を持っており、大職員室はない。*生徒は担当の先生の教室に移動して授業を受ける。 *休み時間は5分間。*トイレは授業中に行く。*1時間目は7時36分開始。40分*9時間授業で、終わりは14時46分。*生徒は掃除はやらない。*基本的に放課後は先生も生徒もすぐに帰宅する。

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(左)金属探知機と警備員が見える昇降口、(右)全て仏語で行われる仏語の授業

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講義形式の授業は少ない。このように生徒の活動が中心だ。

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こちらはITを駆使したセント・キャサリン高校の授業。




ビル・ストリックランドさんとの出会い
 ピッツバーグ市で、社会起業家のビル・ストリックランドさんと面会する機会を得た。彼はピッツバーグの貧困地域で育ち、高校生の時に粘土細工の授業を通じて自信・自立のきっかけを得て、後に生まれ故郷に職業訓練学校を設立(マンチェスター・クラフトマンズ・ギルド)、その後、いろいろなビジネスパートナーの協力を得て、料理学校、ジャズレコーディングスタジオなど、ピッツバーグの地域活性化のために大きな貢献をしている。http://www.bill-strickland.org

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各地でのプレゼンテーション
 今回の目的である「東日本大震災の被害の実態と復興の現状」をアメリカ国民に知ってもらうためのプレゼンテーションを各地で行った。発表後のQ&Aセッションでは、どの会場でも活発な質疑応答が行われた。
プレゼンテーション実施会場
*アメリカン大学(首都ワシントン)*オルダダイス高校(ペンシルヴァニア州)
*セント・キャサリン高校(ヴァージニア州)*日本総領事館(ニューヨーク市)
*コロンビア大学(ニューヨーク市)
*フェアレイ・ディキンソン大学(ニュージャージー州)

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各地でのプレゼンテーションの様子。一番下の写真は、ニューヨークの日本総領事館にて、911遺族会の方々を前に発表中の様子。



ニューヨークそして帰国
 ニューヨークではプレゼンテーションの他、911メモリアルセンターメトロポリタン美術館、ロックフェラーセンター等を見学し、短期間ながら非常に充実した内容であった。

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(左)ニュージャージー州から見るマンハッタン、(右)ロックフェラーセンター

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(左)街角のフードストール、(右)メトロポリタン美術館

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911メモリアルセンター見学。写真はテロの犠牲になった人々

 11月13日、すべての日程を終え、ニュヨークJFK空港をあとにした訪米団は、11月14日無事帰国した。

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(左)現地ガイドに別れの挨拶(JFK空港搭乗ゲート)、(右)無事帰国(成田空港)



故テイラー・アンダーソンさんのこと
 今回の訪米には、宮城県石巻市から、中学校時代に故テイラー・アンダーソンさんの授業を受けた二人の高校生が参加した。テイラーさんは文部科学省の招聘プログラムにより2008年に来日し、石巻市の小・中学校で英語を教えていた。東日本大震災発生当時、彼女は、津波警報がけたたましく鳴る中、生徒全員を親に引き渡すまで学校に待機し、最後の子供を親御さんに引き渡してから、自転車に乗って高台に避難途中で津波に巻き込まれ亡くなった。二人はテイラーさんの出身高校であるセント・キャサリン高校を訪れてスピーチを行い、テイラーさんの実家を訪問した。

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セント・キャサリン高校にて故テイラー・アンダーソンさんの両親と。前列左:西村君(宮城県聖ウルスラ学院英智高校)。前列中央:ジーン&アンディ・アンダーソンさん。前列右:杉山さん(石巻市立女子高校)。



おわりに  訪米日程を終えて、私たちは生涯忘れ難い想い出を胸に帰国した。その理由のひとつは、個人的な観光旅行では殆ど触れることのできない地元の人達との交流(学校授業参加、ホームステイ)である。又、訪問地は歴史的要所が多く、知的好奇心を刺激された。ハリケーン・サンディのニューヨーク上陸一週間後にもかかわらず、旅程は極めて効率的に組まれ、内容の濃い研修となった。



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