雑誌『をちこち(遠近)』
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国際交流基金の関連事業

個人と個人のつながりを信じて~日中大学生47名が寝食をともにした1週間~

をちこち編集部



 日中国交正常化40周年を記念し、8月5日からの1週間、公募で選ばれた日本の大学生21名と,国際交流基金日中交流センターが中国各地で運営するふれあいの場でボランティア活動に参加している中国の大学生26名が、中国と北朝鮮の国境近くの朝鮮族自治州、延吉市で交流合宿を行った。目的は、次代の日中交流を担う若者が、共同生活、ホームステイ、異文化体験、ディスカッションなどのプログラムを通じて、「心」「頭(知)」「身体」をフル稼動させた深いコミュニケーションを体験し、国や文化を超えた人と人との信頼を築く交流のあり方を考えるというものだ。



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日中交流センターの3つの活動
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(左)延吉空港、(右)延辺大学

 直近の日中関係の情勢を背景とし、交流前の日中双方の学生には少なからぬ不安があったようで、日本から参加した山崎さんは、合宿前に抱いていた中国に対するイメージを次のように述べている。

「日本中に衝撃を与えた2010年の毒餃子事件に代表されるように、中国は汚い・不衛生、あるいは、列に並ばない・怒りやすいといった負のイメージが大半かもしれない。私が家族や友達に『中国の東北地方に行く』と告げると、まずは身体の心配をされ、ひどいときには命の心配もされた。日本と関係の深い国で、これほど身の心配をされる国は、他にはないのではないだろうか。交流に意欲はあっても、中国に行くことに懸念を抱いている学生が多くいたのが事実だ」(山崎さん)

 だが、プログラムが始まってみると、それが杞憂に過ぎないという事がすぐに分かったようだ。本サマープログラムの特色の一つに「多様性」がある。中国人学生は中国各地の11ヶ所から、日本人学生は7都道府県から集まってきていた。

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開幕式の様子

「参加した学生のそれぞれの地域には特色のある文化が存在し、皆、自分の文化に誇りを持っていた。知ってもらいたい、興味をもってもらいたいという姿勢で聴衆に語りかけ、また聴衆も話者と同じように楽しみながら、しっかりと耳を傾けていた。お互いがお互いを受け入れようとする心で溢れていたような気がする。それぞれの文化が混ざり合った空間はとても素敵で、お互いの文化を尊重し認め合うことで、言葉は交わさなくとも分かり合えた部分がたくさんあるように感じた」(山崎さん)

 中国の杭州から参加した蘇浩さんは、今回のような異なる文化を知る経験を通じ、次のように感じたようだ。

「これほどの長期間、日本人または中国人と寝食を共にしたのは初めての経験である。これらを通して、自分とは異なる民族の文化や習慣などを受け入れて楽しむ素直な気持ちが得られた」(蘇浩さん)

 本プログラムでの4日間では、朝鮮式家屋のあるキャンプ場で朝鮮式料理を作ったり、夜は全員で輪になってキャンプファイヤーを行ったりするなど、共に過ごすという体験を重ねていった。また、中国と北朝鮮の国境に位置する長白山への登山、川下り、朝鮮文化礼儀体験、朝鮮族の学生の家にホームステイをしたりするなどの体験も行い、あっという間に時間は過ぎていったようだ。
 前述の蘇浩さんの感想にもあるように、広大な国土、多民族国家である中国の学生にとっても、キャンプでの朝鮮式料理作りやキャンプファイヤーなどは新しい体験で、深く心に残ったようだ。また、チームワークが必要となる登山や川下りなどにおいては、共通の目的を一緒に達成する事で、絆の深まりも感じることが出来た。

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キャンプでの朝鮮式料理作り
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キャンプファイヤー
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長白山への登山
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川下り
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朝鮮文化礼儀体験
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朝鮮族の学生の家にホームステイ

 本プログラムの最後に「チームで、日中友好のために何をしていくか」というチームごとの行動宣言を行った。この宣言を作っていく過程を、山崎さんは「延吉での数日間、たくさんのものを見て聞いて、何を感じ、自分自身がどう変わり、日中友好のために今の私たちは何ができるのかということを考えていく作業であった」と述べている。

 数日間を一緒に過ごした事で、表面的な話しだけではなく、一歩踏み込んだディスカッションも行う事が出来たようだ。

「中国人学生からは『日本人の、どっちでもいいは本当に困った、それは間違った優しさだと思う』という意見が出た一方で、日本人学生からは『中国人はストレートに言いすぎで、相手への配慮が少ない』というような、習慣の違いを感じた点や、困った点についての率直な意見の交換があった。
 また、『日中の歴史問題をどう考えている?』『両親の世代はまだ反日感情が残っている、日本人のことが嫌い』『過去は過去、今は今、未来は未来。歴史に縛られてしまうのはおかしい』といったような、普段踏み込みづらい歴史の話もしたりした。
 歴史の話は、お互いの関係が悪くなりそうだからあまりしたくないという人の話もしばしば聞く。しかし、学生同士で話をしてみて、より深く分かり合うためには歴史を抜きにすることはできないと感じた。確かに主義・主張は違うかもしれないし、分かり合えない部分がでてくるもしれない。しかし、社会に出ていない学生だからこそ自らの率直な考えを述べることができ、妥協点を見つけてわかり合おうと努力することができるかもしれないのである」(山崎さん)


 過去に縛られる事がなく、前を見据える事が出来る若者だからこそ出来るディスカッションを通し、チームごとに出された行動宣言には、「日中交流ウェブサイトの開発」「日中の情報を発信するホームページやブログの開設」「相手のことをもっと知るためにメンバーの故郷へチーム全員で旅行に行く」といったインターネットや実体験による交流を増やしていくような宣言もあった。また、本プログラムに参加する前に抱いていたイメージが交流体験を通じて変化した事で、お互いの誤解が一番の問題だと発表したグループもあった。
 また、チームごとの宣言とは別に、個人的な目標として、「『日本学』-Japanolgyの研究を通して、中国人に『日本』また『日本人』はどういう国か、どういう民族かを伝えたい。」(蘇浩さん)と述べる者や、「まずは学生時代、この活動を通じて生まれた絆を大事にして、次から次へと、家族だけでなく、友達や自分の学校の学生たちにどんどん伝えます。また、私は日本に留学し、卒業した後中国の日系企業で働きたいです。これで、日中の経済交流を深められるようになると思います」(範凡さん)と宣言する者も現れた。

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最終発表の様子

 本プログラムでの総括を日中の学生はそれぞれ次のように述べている。

「私たちは短い期間だが、深く交流を行い、民族の壁を越えて、話せる、笑える、分かち合えると感じた。今回のサマープログラムで経験したことは私の自信につながり、将来それぞれ違った分野で日中交流の担い手となる私たちの力になると信じている。国と国との交流は政治や経済だけでなく、このサマープログラムのような個人と個人のつながりを作っていくことが現在学生である私にできる大きな交流だと思う。私はこの活動をもっと多くの人に知ってもらい、体験してほしいと思う」(蘇浩さん)

「今回のプログラムで私たちは自分の心の中に日中友好の種を植えた。その種に葉をつかせ花を咲かせるのは私たち次第である。ここで終わりではなく、ここが始まりなのである。花が咲くのは何年も後になるだろう。今回参加したメンバーそれぞれが自分なりの日中友好の花を咲かせ、少しでも社会に影響が与えられればと願っている。私たちは微力だけれど、無力ではないのだから」(山崎さん)

 日中双方の学生が感じたように、媒体から得ていた漠然としたイメージの「異国の知らない人」から、共に過ごすというシンプルな実体験を通じて得られた「顔の見える友人」へとお互いの理解が変化していった。日中関係が複雑な時代ではあるものの、参加した学生の一部に、今後も交流の和を広げていこうという気持ちが芽生えた事は本プログラムの一つの成果となった。

hearttoheart14.jpg hearttoheart15.jpg hearttoheart16.jpg hearttoheart17.jpg [協力]
山崎真穂(東京都 早稲田大学
蘇浩(杭州 浙江工商大学
範凡(長春 長春大学光華学院



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