モンゴルに忍者がやってきた!~文化に親しみながら日本語を学ぶ~

泉 友里(日本語教育支援部JF講座チーム)



 国際交流基金の海外日本語講座(JF講座)は、2013年現在、世界26ヶ国にあり、年間述べ約12,000人の受講生が日本語を学んでいます。JF講座では、日本語の運用能力を高めるだけではなく、日本文化に関する理解を深めるために「文化日本語講座」を実施しており、2013年6月には、モンゴルでJF文化日本語講座「日本の忍者の世界へ」を開催しました。




 「ニンジャ」と聞いて何を連想するか・・・ある人は煙球を使ってドロンと消えたり、水蜘蛛を使って水の上をスイスイ歩いたりする忍者を、またある人は変装して敵地に侵入し、諜報活動をする忍者を想像するかもしれない。日本人にとっても得体の知れない「忍者」であるが、外国の人たちにとってそのイメージは多種多様だ。
 2013年6月、伊賀忍者の研究者である三重大学人文学部教授・山田雄司氏、同大学社会連携特任教授で伊賀流忍者博物館名誉館長の川上仁一氏、そして伊賀流忍者集団・黒党主宰で伊賀流忍者保存会会長の黒井宏光氏による「忍者」をテーマにした文化日本語講座がモンゴル日本人材開発センターで実施された。



モンゴルにもニンジャは存在した!?
 モンゴル人にとっての忍者像も様々である。まずモンゴルには通称「ニンジャ」と呼ばれる無法で金鉱石を採掘する人々が今でも多数存在するそうだ。逃げ足が早くすぐ姿をくらましてしまうことや掘削道具を背中に担いでいる姿が亀に似ていることからアメリカン・コミック『ミュータント・タートルズ』にちなんでその名が付けられたという。その他にも年配の方々は北朝鮮製作映画『怪傑・洪吉童(ホン・ギルトン)』に出てくる空飛ぶ忍者、子ども・若者世代は『NARUTO -ナルト-』のイメージが圧倒的に強く、その世代間によっても忍者像は変遷しているようだ。

 日本における忍者も、あまり多くの歴史的文献が残されていなかったため、その実態は明かされていない部分もあり、日本史研究の中でも隅に追いやられていた存在であった。そのため社会の変化やその時代によって忍者像も変遷をしている。その呼び名も志能便(しのび)、間者(かんじゃ)、隠密(おんみつ)と変わっていき...忍者と呼ばれるようになったのは大正時代のことである。
 そして現在は映画やアニメ・ゲームの影響で海外でも「NINJA」として知られるようになったのは周知の事実である。このように時代や個人の想像によって自由自在に七変化する存在であるというのが、我々を惹きつける「忍者」の魅力かもしれない。

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<左>今回の忍者講座が行われたモンゴル日本人材開発センター、<中央>モンゴルの子ども達による忍者の絵画コンテスト/<右>表彰式での一コマ



忍者教室で気分は本物の忍者
 伊賀流忍者集団・黒党(くろんど)主宰の黒井宏光氏による忍者教室では、忍術やその修行方法、忍具の種類についてなど、より実践的なレクデモを行った。

 まず、忍者4人によるアクションパフォーマンスを実演し、本物の忍者の登場に会場は一気に盛り上がった。それから、九字護身法という印を組みながら九つの文字を唱える精神統一の方法をレクチャー。「先生と一緒にやってみたい人?」と声をかけると「はい!はい!!」と子どもたちが勢いよく舞台に集合する。胸の前で印を組みながら「アッキッサッタッカッハッワッヤッエイッ!」とお腹から声を出すと、それだけで会場の空気がピリッと緊張し、子どもたちの表情も真剣そのもの。元々この精神統一法は、常に危険に晒されていた忍者がいつどんな時でも敵から身を守ることができるようにするウォーミングアップのようなものだが、子どもたちには「夜中にトイレに行くのが怖い時にやってみると、不思議と怖くなくなるかもしれません」と一言。

 その後、忍者の動きの基本、歩法のレクチャー。おなじみの「忍び足」や四つん這い&つま先で歩く「狐走り」、寝ている人を起こさないように畳の上で手の上に足を乗せて歩く「深草兎歩」など、こちらも子どもたちに前に出てもらって黒井氏と一緒に訓練を行った。
 そして、黒装束は農民の野良着がルーツであることや忍具も農具である鍬や鎌を変形させたものを使っているなど、忍者の衣装や忍具の説明も行った後に、実際にゴム手裏剣を使って手裏剣投げに挑戦。大中小の穴が空いた的に5つの手裏剣を投げて、入った数が多い人は景品がもらえるというゲームを行った。

ninja_in_mongolia02.jpg  その他にも手裏剣や「くない」など忍者にちなんだモチーフを制作する折り紙教室や忍者衣装を着て写真撮影をする体験、日本語講座では実際、忍者が使っていたとされる暗号技術や合い言葉でもって伝言ゲームを行なった。どのセッションでも現代にも語り継がれる忍者文化を通じて、子どもから大人まで幅広い世代が生き生きとした表情で楽しむ顔が印象的であった。また、今回の忍者講座によって、和の心や自己より他者を重んじること、神仏に対する信仰心をベースとした「忍びの精神」を知るということは日本人の根底にある精神性や価値観を知ることにつながり、日本語を学習する上でもこういったバックグラウンドを知るということは、日本語独特の表現を理解する上で重要ではないだろうか。
 今回の講座では幅広い世代のモンゴルの人たちに、現代にも語り継がれる忍者文化を通じて、日本文化や日本語への関心を高めてもらうことができた。これを機会に、さらに日本語を学びたい人が増えればと思っている。

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