雑誌『をちこち(遠近)』
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映画を通して見る「忍者の世界」~ハンガリーでの日本映画上映

ブダペスト日本文化センター 三宅 章太



 2013年5月上旬。ブダペスト市内に見慣れない広告が現れた。モノクロ忍者写真に「A NINDZSÁK FÖLDJÉN(忍者の世界)」のうたい文句。ブダペストで年に一度開催される、日本映画週間が始まった。

 国際交流基金は、海外での上映用に英語などの字幕が付いた日本映画のフィルムを多数所蔵しており、国際映画祭から小規模な上映会まで、また一般の映画愛好家から日本研究者まで、世界各地の様々な人に日本映画を提供している。
 そのような日本映画上映企画の一つに、毎年約1年をかけて中欧・東欧を中心に10数カ国を巡る東欧巡回日本映画祭があり、2013のハンガリーでは、5月6日~12日までの7日間、「日本の技術の秘密:忍者、変身、団結力」をテーマに、7作品をトルディ映画館(Toldy Mozi)にて上映。
 長い冬を終え、春うららかなハンガリーで、忍者たちが銀幕を彩る。はたして、ハンガリーの皆様はどんな反応を示すだろうか。



権力との闘いに苦悶する五右衛門の人間性に共感
 初日には、『忍びの者』(1962年 山本薩夫監督/角川、105分、白黒)を上映した。痛快な忍術合戦を予想していた観客たちの前に、市川雷蔵演じる忍者石川五右衛門が颯爽と登場する。冷徹で無表情、という典型的な忍者像とは正反対の、楽天的で茶目っ気のある五右衛門に最初は驚きつつも、物語がシリアスに展開するにつれ、権力との闘いに苦悶する五右衛門の人間性に共感し、スクリーンから目が離せない観客たち。
 どんな事業においても、参加者の感想をアンケートで集めることにしているが、この映画上映の後には、「手錠をかけられたよ!」という感想を書いているハンガリー人がいた。これは。ハンガリー的な表現だが、日本風にいうと「釘づけだった」「虜になった」といった具合か。つまり夢中で観てしまった、という高い評価だ。

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『忍びの者』(1962年 山本薩夫監督) 画像提供:KADOKAWA



日本映画における映像美へのこだわり
 初日大好評だった『忍びの者』の続編である、『続・忍びの者』(1963年山本薩夫監督/角川、93分、白黒)を、3日目に上映。1作品目以上に石川五右衛門の怒りや哀しみ、人間性がにじみ出た作品。リピーターも多く、『続・忍びの者』も変わらず好評であった。
 「続編は質を保つのが難しいと言われているが、この作品は監督、俳優ともに1作品目の質を維持している」という、映画通と思われる感想も寄せられた。忍者という日本文化の紹介だけに留まらず、日本映画の質の高さについてもアピールできたようだ。

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『続・忍びの者』(1963年山本薩夫監督) 画像提供:KADOKAWA

 会期半ばの4日目には、『雪之丞変化』(1963年 市川崑監督/角川、124分、カラー)を上映。長谷川一夫演じる女形歌舞伎役者中村雪之丞による復讐劇。歌舞伎という華やかな世界を舞台に繰り広げられるリシアスな復讐劇に、観客は息をもつけぬ緊張感で見入る。物語の内容はもちろんのこと、観客の感想は映像の美しさに関するものが多く、日本映画における映像美へのこだわりを感じていただける作品であった。

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『雪之丞変化』(1963年 市川崑監督)画像提供:KADOKAWA



ハッピーエンドが少ない?
 最大の観客数となった5日目。上映したのは『風の武士』(1964年 加藤泰監督/東映、95分、カラー)。名張信蔵を演じる大川橋蔵の名演が光る良質な作品。アンケートへの回答も最高の評価であったのは言うまでもないが、ひとつ面白いコメントがあった。  「なぜ日本の映画はハッピーエンドが少ないのか。仏教の影響なのか?」
 確かに、映画を作るにあたって、その国の文化が何らかの影響を及ぼしていることは間違いない。つまり、日本映画を観るという行為は、必然的に日本文化を観るということにつながる。観客に、ただ楽しい時間を過ごしていただくだけではない、文化交流事業としての日本映画上映の価値を改めて考えさせられるコメントであった。

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『風の武士』(1964年 加藤泰監督)画像提供:東映



作品の新旧は問題ではない
 今年の日本映画祭で上映した7作品はほとんどが1960年代の作品で-僕自身、生まれる前の映画だ-、真新しい作品とは決して言えない。ラインナップだけ見ると古臭いと感じる人もいるだろう。最新のアニメ映画を上映したらもっと反響があったかもしれない。
 だが、この時代の映画にはこの時代に映画の良さがあり、この時代の映画にしか伝えられない日本の文化が、世界観が、そして人間性が込められている。7作品の上映を終え、観客の反応から、その普遍的な価値が評価されたことを実感した。
 新しい日本文化を紹介することだけが文化交流の役割ではなく、その人にとって、今まで知らなかった「日本」を感じてもらうことが大切なことだと感じた。そういう意味では、古い映画であっても新しい映画であっても、価値を見出し伝えていくことが大切なことであって、作品の新旧は問題ではない。
 来年は、ハンガリーの皆様にどんな日本を感じていただこう。鬼に笑われようとも、考えるとわくわくしてしまう。

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『真田風雲録』(1963年 加藤泰監督)画像提供:東映



◆ 東欧巡回日本映画上映 2013年度上映作品
1.『忍びの者』(1962年 山本薩夫監督/角川、105分、白黒)
2.『真田風雲録』(1963年 加藤泰監督/東映、90分、カラー)
3.『続・忍びの者』(1963年山本薩夫監督/角川、93分、白黒)
4.『雪之丞変化』(1963年 市川崑監督/角川、124分、カラー)
5.『風の武士』(1964年 加藤泰監督/東映、95分、カラー)
6.『異聞猿飛佐助』(1965年 篠田正浩監督/松竹、100分、白黒)
7.『サイボーグ009 超銀河伝説』(1980年 明比正行監督/東映アニメ、130分、カラー)



◆ 「日本の技術の秘密: 忍者、変身、団結力」 コンセプト
 1960年代の高度成長期から低成長期へ、そして21世紀に入ってからと、日本の技術の進歩や企業の海外進出を支えたものは何か?...日本人の勤勉さと忍耐力、細やかな配慮、より高みを極めようとする職人気質...様々な要素が考えられるが、今から400年以上も前の江戸時代にその秘密を見出すことができる。
 その1つが、海外でもよく知られている「忍者」の存在。忍者は、集団でその肉体と精神を鍛えて、情報収集や密命遂行に使われただけではなく、各人が個として優れた機能を発揮すると同時に、集団でも使命を果たすために、非情なまでの役割分担を徹底するという「鍛えられた特殊部隊」であった。その個としての厳しさや、使命を達成する集団劇の伝統は、マンガのみならずアニメにも描かれ、実写時代劇としては娯楽を超えて哲学的な境地にまで達している。
 この特集では、海外で伝説化され、その実態を知られぬままデフォルメされて、時には誤解されている忍者について描いた作品を中心として、日本人の変身の巧みさ、日常と非日常を使い分けるその技術と抑制、そしてそのギャップが生む美や、集団による使命達成の見事さを追求した。そして時には集団に対峙する個として戦い、あるいは復讐を遂げるために忍耐の日々を送る忍者。ここに西欧にも劣らぬ日本人の個人主義的な一面を見出すことにもなるだろう。この特集を通して、日本人が物心両面において求めている目標や機能集団としての理想を把握することが出来るだろう。
 その名称だけが先行し、実態はいまだ謎となっている忍者の何であるか、そして日本人にとっていざという場面での「変身」とは、集団で目標に向かう際のチームワークとは、どんなものであるかを、海外の鑑賞者にも発見して欲しい。



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