雑誌『をちこち(遠近)』
バックナンバー

バックナンバー一覧

三、同じ演目でも、演者によって味わいが違うものなんです

立川志の春




こんにちは、立川志の春です。
お花見シーズン、東京では終わってしまいましたね。あっという間に咲いて、あっという間に散る、このしつこくない感じが好かれるのでしょうね。
上司と同じです。飲み会が始まって2時間でサッとお会計を済ませて、「俺は帰るからあとは若いもので」といくらか渡して去っていく、そんな上司最高ですね。でもなかなかいないでしょうね~。

落語の中にも、貧乏長屋の住人がお酒盛りならぬお茶か盛りで無理やり盛り上がる「長屋の花見」や、花見の趣向で仇討ごっこをやって大騒動を巻き起こす「花見の仇討」など、お花見シーズンならではの演目があります。でもこのシーズンだけなんですよね、れるのが。2月の終わり頃に少し季節を先取りするのはいいのですが、お花見が終わった後でいつまでも演っていると「季節感がない奴だね」と馬鹿にされます。確かに秋にお花見の噺を聴いても感じは出ないですからね。夏にお正月の歌を歌っているようなものでしょうか。「も~い~くつ寝~る~と~お正月~」「たかし! 歌ってる暇があったら早く夏休みの宿題やりなさい!」みたいな。
というわけで、私も今シーズンの春の噺はおしまいで、また来年の春に必死に思い出すのが楽しみです。

shinoharu03_01.jpg
高座で酔っ払いの登場人物を演じる私、志の春

さて、前回も少し書きましたが、今月はクラフトビールとのコラボの会がありました。
私が「まきしまいきかく」さんの企画で定期的にやっている「TOKYO⇔EDO」という会にCOEDOビールの朝霧重治社長をお迎えして、落語とビールとトークのイベントを行いました。今や世界のCOEDOビールですからね、嬉しかったですよ~。

お客さんに5種類のCOEDOビールを味わって頂きながら朝霧社長とのトーク。
これが面白かった!「小江戸」川越で生まれたCOEDOビールの原点というのは、味はいいのに形が不揃いというだけで処分されていた名産品のサツマイモを、何とかして活かす方法はないのか、ということだったのだそうです。そこで思いついたのが「サツマイモでビールを作れるんじゃないかな?」ということ。
そこがすごいですね。サツマイモ→ビールって普通繋がらないでしょう。どう考えたらそこに繋がるのか。とにかく朝霧社長、固定観念に縛られない方なんです。

shinoharu03_02.jpg
「TOKYO⇔EDO」会での朝霧社長とのトーク

そう、固定観念。これが厄介なものなんです。
この会で私は痛感しました!
いかに私のビールに関してのボキャブラリーが不足していたかを。
「キレ」「コク」「喉ごし」以外のボキャブラリーを私は持ち合わせていませんでした。いや、正直に白状すると、殆どの場合「冷えてる」「ぬるい」という表現に終始していました。
温度! 味ですらないじゃないか!!
レストランでワインのテイスティングをして「冷えてます」と言ったら、それこそどんな冷ややかな目で見られることか。グルメリポーターが燗をした日本酒を飲んで「ぬるい」と言ったら、「お前のそのコメントがぬるいんだ」と言われることでしょう。

ビールにだってワインや日本酒と同じく、色んな特色があって、色んな味わいがある。バナナみたいな味わいのビールもあれば、コーヒーみたいな味わいのビールもある。こういう食事にはこういうビールが合いそうだなとか、時と場合や好みに合わせて選択するというのは考えてみれば当たり前のことなんですね。
それなのに私は何も考えずに「とりあえずビール」と言う人生を送ってきていました。
ビールを冒涜していました!

落語だって同じです。
古典落語、噺の骨格は同じです。でも演者によって、全く違う物語のように感じられたり、ちょっとした台詞回しの変化によって登場人物の性格自体が全く違うように感じられることはいくらでもあります。背景に浮かぶ景色だって様々です。その違いや個性を味わうことができれば、「上手い」「下手」、「面白い」「つまらない」以外にも色んな形容詞はあるはずなんです。
逆に演者側にしてみれば、どれだけ多様な形容詞をお客さんの頭に浮かべてもらえるか、これが大事なことなのだと思います。志の春がやるから、こんな隠居さんが見えてきた、こんなおかみさんが見えてきた、と言われるような落語家になりたいですね。
最終的にはそれも含めて「好き」「嫌い」なんでしょうが。
とにかく私はもう二度と「とりあえずビール」とは言いません!
あ、でもお客さんから「とりあえず志の春」って言ってもらったら、嬉しいかも。

shinoharu03_03.jpg
今月あった別のコラボ会「クラフトビールと楽しむ英語落語」





shinoharu00.jpg立川志の春(たてかわ しのはる)
落語家。1976年大阪府生まれ、千葉県柏市育ち。米国イェール大学を卒業後、'99年に三井物産に入社。社会人3年目に偶然、立川志の輔の高座を目にして衝撃を受け、半年にわたる熟慮の末に落語家への転身を決意。志の輔に入門を直訴して一旦は断られるも、会社を退職して再び弟子入りを懇願し、2002年10月に志の輔門下への入門を許され3番弟子に。'11年1月、二つ目昇進。古典落語、新作落語、英語落語を演じ、シンガポールでの海外公演も行う。'13年度『にっかん飛切落語会』奨励賞を受賞。著書に『誰でも笑える英語落語』(新潮社)、『あなたのプレゼンに「まくら」はあるか? 落語に学ぶ仕事のヒント』(星海社新書)がある。最新刊は『自分を壊す勇気』(クロスメディア・パブリッシング)。


*公演情報は公式サイトにて。
立川志の春公式サイト http://shinoharu.com/
立川志の春のブログ  http://ameblo.jp/tatekawashinoharu/




Page top▲

Twitter - @Japanfoundation