雑誌『をちこち(遠近)』
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Vol.5 盆栽を鑑賞する際のポイントとは

6月は赤松、黒松の芽切りの時期。春から勢い良く伸びた新芽を昨年の葉との境で切り取り、新たに新芽を吹かせます。
新たに芽吹き、形成された葉が通常の半分以下の長さに抑えられるため、「短葉法(たんようほう)」と呼ばれています。
大木を表現する盆栽にとって、葉の長さはとても重要です。

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芽切り前の赤松の盆栽。

芽切り作業を終えた姿。

今回は盆栽を観賞するときのポイントを綴ってみたいと思います。

「立派だな」「生きてるの?」「樹齢何年?」
このような感想や疑問を抱きながら盆栽をご覧になる方が多いと思います。
盆栽とまったく接点のない状態で修行の門をくぐったときの私も、同じ印象を持っていました。

観葉植物とは違う鑑賞の仕方のひとつに、「景色を見出す」というものがあります。

われわれ盆栽師は、小さな鉢に植えられた樹の姿を「自然の景色の中にあるもの」と想像しながら盆栽を作り込んでいきます。
森の奥深くに佇む大木の姿。海岸沿いで風に吹かれ傾斜した姿。人里に植えられた穏やかな老木の姿。断崖絶壁の厳しい環境で生きる姿。雪深い土地で成長を阻害されながらも力強く生きる姿、など。
樹の性質を理解し、樹の個性を引き出し、樹の物語を創造するのが盆栽です。

パッと見ただけではわからない。けれど、じっと向き合えば、盆上に作られた世界には、樹の物語が表現されていることがわかってくるはずです。その物語に心を傾けていると、やがて周りの景色が見え、音さえ聞こえてきそうな気がするかもしれません。

「樹の古さ」も、鑑賞する上でとても重要。
幹肌が樹の歴史を物語ります。
黒松、赤松は表皮が何重にも重なり、鉢で長年育てられた五葉松は表皮が細かく形成されます。モミジは幹に縦縞ができ、ヒメシャラやカリンなどは古くなると幹の光沢が増す。
樹によって幹肌の表情は様々で、それは職人の技術ではなく、時間が作り出すものです。

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幹肌が、この黒松の歴史を物語っている。

幹や枝が曲がっている様には、自然界の環境が表現されています。
冬に雪の重みで押しつぶされた若い幹が、雪解けの季節とともに光を求めて上へと伸び出すことで、曲線が生まれる。
風の強い環境下で育つ樹は一方向へと傾く。
森の生存競争に勝ち抜くために、光を求めて枝が波打ち、外へ伸びる。

一本の幹、一本の枝から樹が育った環境を想像し、盆栽師はそれを形にします。
登山の途中で、周辺の樹々をよく観察してみてください。幹や枝が緩やかなカーブを描き、光を求めて上に外に伸びている姿を見ることができます。
その姿にできるだけ近く作り上げたい。私たちは常にそう思い、観察をするのです。

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自然界の環境が、独特な幹の曲線を作り出す。

盆栽の幹をよく見ると、根本から上部先端にかけて、徐々に細く伸びていることがわかります。その幹の姿を「こけ順」と言い、こけ順が良いことが盆栽の幹としては理想的。
樹高20cmの盆栽にさえこけ順があり、これも時間をかけて作り上げるもの。こけ順があるからこそ、樹高20cmの樹が樹高10mの大木を彷彿させるのです。枝葉を伸ばし放題にして、成長させ幹を太らせたものにはできません。

今月の手入れ「芽切り」を冒頭でご紹介しましたが、これも盆栽の鑑賞ポイントに大きく関わっています。
たとえば、樹高20cmの黒松に長さ10cmほどの針葉がついていたら、その姿はなんとも不格好で、景色というより、葉が目立つだけの盆栽になってしまうでしょう。
葉を短く小さくすることが、大木をイメージさせるためには重要なのです。
短葉法を施すと、長さ10cmほどの黒松の葉も2cm以内に抑えることができます。

盆栽を鑑賞するときのポイントをいくつか挙げましたが、その全てが、われわれ盆栽師が自然の中の景色を凝縮して盆上に表現するために手をかけている部分と重なります。

日々水をやり、季節ごとに手入れをし、病害虫から守り、樹とともに時を過ごす。物言わぬ盆栽に、地道に愛情を注ぐ。何とけなげなんでしょう・・・・・・と、エッセイを書きながら思ってしまいました。

私が盆栽の手入れをしに伺う愛好家のお宅には、立派な樹ばかりあるわけではありません。しかし・・・・・・。
「これは実生で育てて40年になるんだよ。形は良くならないけど、愛着があるから手放すこともできないんだよなぁ」
愛情を持って育てている盆栽だからこそ感動や喜びをもらえるのだということを、愛好家の言葉が教えてくれます。

盆栽に、愛好家に育てられながら日々を過ごしていくのも悪くない、と思いつつ、今日もハサミを動かすのです。

bonsai_profile.jpg 森 隆宏(もり たかひろ)
盆栽師。1979年、東京都生まれ。常磐大学国際学部を卒業後、2002年より勝田光松園にて盆栽を修行。2006年に独立し、盆栽師として活動を開始する。2009年、由緒ある国風盆栽展で職人として手がけた作品が国風賞を受賞。2009~2013年、さいたま市大宮盆栽美術館の専属盆栽技師を務める。2013年、欧州文化首都2013コシツェに盆栽デモンストレーターとして、第8回世界盆栽大会(2017年開催)のさいたま誘致プレゼンテーションに盆栽師代表プレゼンテーターとして参加。2014年にはスロヴァキアの国際盆栽フェスティバルでもデモンストレーションを行い、2016年の国際園芸博覧会トルコ・アンタルヤでは日本政府出展の展示に盆栽専門スタッフとして携わった。現在、盆栽師の仕事に従事する傍ら、2013年に構えたアトリエ「盆栽もり」などで初心者向けワークショップを開く他、米カリフォルニアでも講習会を行うなど、国内外で盆栽の普及活動に取り組む。

盆栽もりHP http://bonsaimori.jp/
盆栽もりfacebook https://www.facebook.com/Bonsaimori/

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