雑誌『をちこち(遠近)』
バックナンバー

バックナンバー一覧

文化・芸術は地域とコミュニティを活性化させる原動力
-日系アメリカ人の活動と創造都市・金沢の取り組みから-【前半】

毎年3月に実施される外務省主催の「日系アメリカ人リーダー招へいプログラム」。その一環として去る3月6日、国際交流基金日米センター米日カウンシルとの共催で、石川県金沢市にて「日系アメリカ人リーダーシップ・シンポジウム」を開催しました。2000年に始まったこの招へいプログラムでは、全米各地でリーダーとして活躍する日系アメリカ人が訪日し、東京と地方都市にて各分野の識者や専門家との意見交換、文化施設の視察などを行います。2017年は3月4日~11日の日程で、米日カウンシルのアイリーン・ヒラノ・イノウエ会長と共に日系アメリカ人リーダー代表団11名が来日。5日に金沢市を訪れて代表的な文化施設を視察し、翌6日に金沢でのシンポジウムに臨みました。

culture-revitalize-region_01.jpg

「文化で読み解くコミュニティ~日系アメリカ人の視点から」とのタイトルで行われた日系アメリカ人リーダーシップ・シンポジウム(2017年3月6日、ホテル日航金沢にて)

文化資源を活用した街づくりをいち早く進めてきた金沢市に学ぶ

 人口流出や高齢化などによる地方都市の苦境が顕在化している日本。地域の再生を目指し、文化や芸術がもたらす効果に期待したさまざまな取り組みが全国各地で見られます。
 今回のシンポジウム開催地である金沢市は、歴史遺産と伝統文化を守りつつ、金沢21世紀美術館を開設して現代アートを市街地に呼び込むなど、保全と創出を両立させた画期的な街づくりを進めてきた都市。2009年にはユネスコの創造都市にも認定されました。
 そんな金沢の事例と、アメリカの各都市でコミュニティの活性化や多文化共生に注力する日系アメリカ人リーダーたちの取り組みをヒントに、文化資源を活用した地域再生のあり方を探っていく――それが、今回のシンポジウムの主旨です。

 シンポジウムへの参加に加えて、文化施設の視察や人々との交流も、日系アメリカ人リーダー代表団にとって重要な目的。限られた日程の中、一行はシンポジウムの前日に鈴木大拙館金沢21世紀美術館大樋美術館などを訪れました。

 金沢市が2011年に開設した鈴木大拙館は、禅の思想を海外に広め、世界的にその名を知られる金沢出身の仏教哲学者、鈴木大拙の世界観に触れ思索に耽ることのできる空間です。また、金沢出身のモダニズム建築家、谷口吉郎を父に持つ日本の代表的な建築家である谷口吉生さん(ニューヨーク近代美術館新館、豊田市美術館などを設計)が設計を担当したことでも知られています。
 1870年生まれの鈴木大拙は1949年から1958年にかけて、80代にしてアメリカに滞在。ニューヨークを主な拠点に、禅の本質を英語で解説するという偉業を晩年まで続けました。
 当時、大拙と出会い、1966年の逝去まで師事した女性がいます。1935年ロサンゼルス生まれの日系アメリカ人で、鈴木大拙館の現・名誉館長である岡村美穂子さんです。今回の日系アメリカ人リーダー代表団の来訪時には、師がそうしたように自らも英語で、大拙の思想と足跡を随所にエピソードを交えながら伝えました。

culture-revitalize-region_02.jpg culture-revitalize-region_03.jpg

鈴木大拙館の名誉館長、岡村美穂子さんが大拙の思想と足跡を伝える。ちなみに、岡村さんはかつて、国際交流基金初代理事長の秘書を務めていた。

culture-revitalize-region_04.jpg

鈴木大拙館を象徴する「水鏡の庭」。水面を眺めながら思索に耽るメンバーも。

 メンバーの一人、シカゴ定住者会CEOのマイケル・タカダさんはこう話します。
「大拙については本を読んである程度の知識を持っていましたが、本では知り得ないことを岡村さんから聞けて感激しています。鈴木大拙館を訪れてホームに戻ってきたような安らぎを覚え、同時に、自分が日系アメリカ人であることを改めて意識しました」

culture-revitalize-region_05.jpg

岡村さんに熱心に質問するシカゴ定住者会CEOのマイケル・タカダさん(左から2番目)。

 次に訪れたのは、金沢市の中心部に位置し、今や市のシンボルの一つにもなっている金沢21世紀美術館です。かつてこの場所には金沢大学附属小・中学校がありましたが、金沢大学の移転に伴い1995年に移転。また、2003年に石川県庁の移転が決定したことから、昼間の人口が減少し、街の賑わいが失われることへの対策として、金沢市が新しい文化の創造と中心市街地の活性化を目的に美術館を開設しました。
 建物は正面と裏側の区別がない円形で、全面がガラス張り。明るく開放的な造りが印象的です。建物を囲む緑の広場には美術品が配置され、子供をはじめ市民の憩いの場になっています。美術館が市街地を活気で満たしていることは一目瞭然です。

culture-revitalize-region_06.jpg culture-revitalize-region_07.jpg

レアンドロ・エルリッヒの《スイミング・プール》を体感。

一行のバックの壁面は、加賀友禅をモチーフにしたマイケル・リンの作品《市民ギャラリー 2004.10.09 -2005.03.21》。

 その金沢21世紀美術館から徒歩10数分の場所に、350年の歴史と伝統を持つ大樋焼を展示する大樋美術館はあります。初代大樋長左衛門によって金沢で生み出された茶器の名陶、大樋焼は、歴代の長左衛門によって受け継がれてきました。
 現在の長左衛門は第11代目。2016年に襲名した大樋年雄さんはアメリカ留学の経験があり、アートやデザインなどを手がけながら幅広い視野で大樋焼の制作に取り組んでいます。
その傍ら、海外から金沢に茶道や工芸を学びに来た人たちに、英語で茶道の心や陶芸の技術を伝えるといった活動も。今回、視察に訪れた日系アメリカ人リーダー代表団にも、大樋焼の歴史と魅力、さらには陶芸や茶道から見える日本文化について英語で語りました。代表団は大樋さんの説明に聞き入り、陶芸のみならず文化全般について活発に質問。双方向的な交流が展開され、日本文化について深く学ぶ貴重な機会となったようです。

culture-revitalize-region_08.jpg culture-revitalize-region_09.jpg

第11代目長左衛門の大樋年雄さんが大樋焼きについて解説。

大樋美術館の茶室で茶道のレクチャーを受ける。

伝統を次代へつないでいくためには革新を続ける必要がある

 翌6日、日系アメリカ人リーダー代表団はシンポジウムに先立ち、金沢の歴史と文化、街の成り立ちについてレクチャーを受けるため、福光屋へ。
 創業1625年の福光屋は金沢で最も長い歴史を持つ酒蔵です。390年以上にわたる伝統の職人技を受け継ぎながら、厳選した契約栽培米と仕込み水で酒造りを続けてきました。現在は長年培ってきた米醗酵技術を生かして自然派基礎化粧品や発酵食品の開発にも取り組み、さらに直営店やイベントを通じて「日本酒のある暮らし」を国内外に発信しています。

 今回レクチャーを担当したのは福光屋代表取締役社長の福光松太郎さんです。金沢の歴史と文化に精通し、街づくりに力を尽くす福光さんが「伝統は革新の連続なり」と題して語りました。

 金沢には2つの代表的な文化があります。『工芸』と『食文化』です。この2つの文化は400年ほど前、江戸時代初期に形作られたといいます。その時代に金沢を治めていたのは前田家。金沢の文化は加賀藩主の前田家を抜きには語れない、と福光さんは話します。

 加賀百万石の前田家は、徳川家に次ぐ大きな領地を持つ外様大名です。立場上、徳川からの圧力を回避するために武力を捨て、工芸を中心に文化産業を興してこの地域を運営していくことを決めます。福光さんによれば、当時、工芸は最先端の技術だったそうです。

「3代目の前田利常は、武具や馬具を管理修復する細工所を、今でいう工芸センターにしました。そして、全国から腕の立つ職人を集めます。5代目の綱紀は技術見本帳を作りました。この地に独特の工芸文化が広まることになります。

 前田家はまた、一揆を防ぐために『人が外で集まってはいけない』というお触れを出しました。しかし、江戸時代は戦がなくて武士は暇ですから、外がダメでも中はいいだろうということで、領主が屋敷で盛んにホームパーティを開くようになります。
 細工所では当初、城の調度品を主に作っていました。それが、領主が調度品を揃えて屋敷でもてなすようになり、工芸の市場が拡大していく。ホームパーティで料理を提供するために料理人も雇った。料理と共に酒が発達し、お茶を出すので茶道も普及します」

 金沢の工芸と食文化は、このように発展してきました。現在、金沢の工芸の種類は26業種に上ります。人口密度あたり、飲食業の数は全国2位です。

culture-revitalize-region_10.jpg

福光社長が金沢の文化を語る。

 一方、豊かな町民が生まれ、さまざまな地域活動をする『町衆(まちしゅう)』が増えていきました。

「この時代から町衆のボランティア活動の歴史が始まり、それが現代まで続いています。たとえば金沢には行政の消防隊の他に民間ボランティアの消防隊がたくさんありますが、民間と行政の連携による街づくりがなされていることは金沢の大きな特色です」

 現在、町衆の役割を担っているのは経済界です。福光さんが所属する金沢経済同友会は、昭和40年頃から金沢の街づくりを提案して活動しています。石川県、金沢市、金沢経済同友会で構成する金沢創造都市会議が中心となり、食文化による賑わいの創出や中心市街地の活性化にも取り組んできました。さらに、金沢は江戸時代から続く工芸のクリエイティブシティであるとの自負から、金沢市にユネスコへのエントリーを働きかけ、クラフト部門で世界最初の創造都市に認定されるという成果も実現させました。

 「金沢は江戸時代からのDNAを大切にしています。DNAにある理念は、伝統は革新の連続であるということ。古いものを大切にしながら、新しいものに挑戦する。前田家の挑戦が工芸という最先端分野への取り組みであったことから、このような理念が生まれました。

 福光屋の社是も『伝統は革新の連続なり』です。日本酒メーカーから米を発酵させる会社へと、新しい技術を取り入れてイノベーションを行ないながら、伝統を守りつなげていくことに力を注いでいます」

 伝統は革新の連続なり。金沢の文化が歴史の中でどう発展し、現代に受け継がれてきたのか、聴講した全員が納得したであろうことは想像に難くありません。

culture-revitalize-region_11.jpg

福光屋の酒蔵を見学し、純米造りの工程を学んだ。

 2日間の視察を終え、代表団の一人であるデンバーの日系人コミュニティ、サクラスクエアCEOのゲーリー・ヤマシタさんが次のように感想を述べました。
「福光さんも、そして訪れた各美術館の方々も、自分が暮らす金沢という街に誇りを持っていることに感動を覚えました。とても羨ましく感じます」

culture-revitalize-region_12.jpg

サクラスクエアCEOのゲーリー・ヤマシタさん。

(編集:斉藤さゆり、撮影:相川健一)

【後半】 では、文化施設の視察と福光屋のレクチャー後に実施された「文化がコミュニティ振興に果たす役割」をテーマにしたシンポジウムの模様をお伝えします。

[モデレーター]
佐々木雅幸/同志社大学特別客員教授、大阪市立大学名誉教授。文化庁文化芸術創造都市振興室長、創造都市ネットワーク日本の顧問も兼任。

アイリーン・ヒラノ・イノウエ/米日カウンシル会長。全米日系人博物館の館長を20 年にわたり務めた後、2009 年に非営利団体の米日カウンシルを創設。2012年国際交流基金賞 受賞。

[ディスカッサント]
福光松太郎/株式会社福光屋代表取締役社長。石川県酒造組合連合会理事、金沢酒造組合理事長、金沢市創造都市推進委員会実行委員長などを兼任。

[日系アメリカ人リーダー]
デビット・ブーン/CB&I Federal Service社長
ジェーソン・フジモト/HPM Building Supply社長・最高執行責任者
サワコ・ガードナー/ニューハンプシャー州ポーツマス地方裁判所判事
ロイ・ヒラバヤシ/サンホセ太鼓 共同創立者
レスリー・イトー/日米文化会館館長・CEO
リン・ナカモト/オレゴン州最高裁判事
パトリック・オオイシ/ワシントン州キング郡高等裁判所判事
ケン・ラッセル/マイアミ市議会議員
マイケル・タカダ/シカゴ定住者会CEO
ウェンディ・タカヒサ/モーガンスタンレー社コミュニティ・リレーションズ部取締役
ゲーリー・ヤマシタ/サクラスクエアCEO

Page top▲

Twitter - @Japanfoundation