雑誌『をちこち(遠近)』
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キッチン=ラボラトリー。次なる実験に向けて。

古市保子 (文化事業部 アジア・大洋州チーム)



 土曜日の午前中、決まって定番のTV番組を見ていると、その合間に若い男性ばかりのグループがおしゃべりをしながら手際よくさまざまな料理を作ってみんなで一緒に食べるという東京ガスのコマーシャルが入る。そして次に今度は若い女性たちのグループのヴァージョンが続く。男性版が洋食で女性版は和食なのはどういう訳なのか不明だが、その中のコピーが奮っている。「おしゃべりはご馳走だ」。なるほど、と妙に納得する。そのコマーシャルとコピーは、今回の東南アジア4カ国で実施したプロジェクトMedia/Art Kitchen のプロセスを連想させるものだ。  「おしゃべり」はコミュニケーションであり、それがご馳走と思えるくらいに私たちはプロジェクトを楽しむことができただろうか? 私たちは自分たちのキッチンでどのような味の料理(結果)を作ることができただろうか? 果たしてそのお味の感想は?



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集大成の本

 「Media/Art Kitchen」は2013年の日・ASEAN 友好協力40周年を記念して、メディア・アートを共通テーマに、日本と東南アジアの若手キュレーターとアーティストの協働作業を方法として、ジャカルタ、クアラルンプール、マニラ、バンコクの東南アジア4都市で実施した事業である。男子が4名で女子が9名の計13名のキュレーターが挑むべき課題は「メディア・アートとは何か」(理念)と「協働作業」(実践)の2つ。それに巻き込まれたアーティストは延べ100名。4つのプロジェクトはそれぞれの国の美術状況を踏まえて個性的でバラエティのある事業として成立していたが、具体的内容は各キュレーターが既に詳しく各々の感想を報告しているのでここでは繰り返さない。

 今回の事業では、メディア・アートに内包する精神性や感覚、科学性の今日的意義を、最先端技術を駆使した作品表現からも、一見原初的、自然発生的と見える表現からも再認識できたように思う。メディア・アートの持つ知的興奮や遊び心は、普段アートに接することがない観客にも、その人なりの受入れ方や気づきがあり、アートを身近なものにする効力を発揮した。また、視覚をはじめ身体感覚に深く結びついた表現手段は、アートの領域を広げるメディア・アートの可能性を改めて感じさせた。さらに東南アジアのその土地固有の文化の精神性を再解釈した新作にも新鮮な発見と喜びがあった。

 プロジェクトに関わるキュレーターは2012年夏、東京での顔合せを最初として、常に走りながら考え、情報とイメージを共有しながら、1ヶ月ごとに違う国の首都で、異なる内容の事業を実現していかなければならなかった。コミュニケーションの重要性が再認識させられる局面が多々あった。アーティストもしかり。あわただしく東南アジア各国を駆け回って作品を完成し、ワークショップやラボを実現した。その過程で自分たちだけでは解決できない事態――例えば、フィリピンでは同時期同じ国の南方で台風災害に見舞われたし、タイでは不安定な政治情勢の真っ只中に置かれて展覧会運営は困難を窮めるなど―-にも直面した。奇しくもそのような局面への対応の仕方に、キュレーターそれぞれの現場力が厳しく試されることになった。さまざまな環境でのこのような実験的なプロジェクトは、各国の関係機関、関係者の連携なくては成り立たない事業である。さらに海外拠点の担当者のふんばりには脱帽するしかなかった。ご協力、ご支援いただいた皆さまに深く感謝したい。いまは関わった人々がその人なりに本事業を楽しんでくれたことを願っている。

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堀尾寛太によるオープニング・パフォーマンス(ジャカルタ展)

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キュレーターによる作品解説ツアー(ジャカルタ展)

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オープニングでのFairuz Sulaimanによる作品解説(クアラルンプール展)
(Photo:Ch'ng Shi P'ng)


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オープニングでのBani Haykalによる作品解説(クアラルンプール展)

 国際交流基金がアジアの美術領域において「共同企画」による「協働作業」プロジェクトを開始したのは2000年代初頭の「アンダー・コンストラクション」に始まる。アジア7カ国9人の若手キュレーターが今回と同じように2000年8月東京の国際交流基金のオフィスに集まり、その企画は始まった。共通のテーマは「アジアとは何か?」。言い換えれば、アジアという概念の今日的意義とはどのようなものか?である。それをテーマに展覧会を一緒に作りなさいという課題が投げかけられた。研究者ならいざ知らずそれまで隣国にも行ったことのない20~30代の若い現代美術のキュレーターに突きつけられた極めて重い(と思われる)テーマに対して、彼らの挑戦は始まった。議論、美術調査、また議論。そしてアジア各国で7つのローカル展が実施され、最後に東京で総合展が開催された。気がつけば思考錯誤の3年間プロジェクトになっていた。彼らも私もこのはじめての経験から多くのことを学んだし、その後の活動のひとつの祖型となった。それから10年余がたった。当時の若手はアジア各国で重要な役割を果たす立場となった。

 さて、話は戻って「Media/Art Kitchen」である。キッチンは実験場であった。2010年代の「アンダー・コンストラクション」は成功したのだろうか?キュレーター、アーティスト、それを支える各組織のスタッフがお互いに「お疲れさま!」と言い合える現在、成功点も反省点も踏まえて、参加した人々に共通した"思い"が形づくられたのではないかと信じているが、そのような、いわゆる連帯感が本事業の一番の成果物(ご褒美?)なのではないかと思う。さらに言えば、もし10年後、20年後も参加した私たちがまた一緒に仕事をしているような状況があれば、それはすでにアジアに住む私たち共通のフィールドと"時代"が出来てきた、ということではないだろうか。10年前の「アンコン」世代の先輩たちのように。その意味において本プロジェクトは、まだまだ進行形で、終わってはいない。「M/AK」世代、がんばれ!常に変化し続けるアジアの美術環境のなかで。

急いで追伸!
本プロジェクトは2014年7月から山口情報芸術センター(YCAM)国際芸術センター青森(ACAC)で更なる発展型を見せてくれることになっている。お見逃しなく。

MEDIA/ART KITCHEN in 山口、青森

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コンタクトゴンゾ《Portraits with flying yellow object》展示風景(バンコク展)
(Photo:Sittidej Nuhoung)


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展示風景(バンコク展)
(Photo:Sittidej Nuhoung)

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(左)梅田哲也《Almost Forgot》(マニラ展)
(右)Stephanie SyjucoとMark Salvatusによるラボ "Re-mediation"(マニラ展)
   (Photo:Martin Vidanes)




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